キュートアグレッション

僕は、猫が好きだ。

猫を抱きしめて、ギュッとしたくなってしまう。


可愛いものを見たとき、胸の中に湧き上がるこの衝動。

抱きしめて、そのまま潰してしまいたくなる。

僕は、この自分でも説明しがたい感情を、ひた隠しにしてきた。



人は愛らしいものに触れたとき、圧倒的な幸福感とともに、なぜかその幸福を「壊してしまいたい」と思う、矛盾した衝動に駆られることがあるらしい。

それは、僕だけの秘密の感情だと思っていたのに、実際には多くの人が感じているものだったようだ。


学者たちは、この感情を人間の脳の自然な反応として説明する。

あまりに強いポジティブな感情を中和するために、脳はネガティブな感情を引き起こすのだという。


知識としては理解できても、それでも僕は、どうしようもなく猫を抱きしめたくなる衝動を抑えることが出来ない。


誰にも打ち明けられずにいた僕の感情が、「キュートアグレッション」などという名前を付けられ、研究論文にまで取り上げられていた。


僕の感情や想いは、もはや僕だけのものではなくなってしまった。


僕の感情が、僕じゃない人間によって語られている。


小説やエッセイどころではない、いよいよ本当に僕だけの言葉や想いなどなくなってしまうのではないか。


それでも、僕はこれからも、胸の内から湧き出た想いを、書き続けていきたい。

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