第10話 仮面 -アカイヒト-

普段の川下事務所は本来椿と神楽弥の2人だけなのだがこの日は違った。上下黒のスーツに白いワイシャツと黒のネクタイをした黒髪の男性と彼と似た格好をしているボブカットで橙色の髪をした女性が訪れていた。

片方は葛葉大知かずらばだいち、もう片方は

真宮凛祢まみやりんね。2人とも国家特例対策機関のメンバーでもある。

此処へ来るのは基本的に情報収集が目的で

それ以外では怪異達と戦っている椿達から報告を受けてそれを上層部へ伝えるのが2人の仕事で当然ながら前線へ出る場合も有る。


「椿さん、椿さーん?あれ…留守か?」



「かぐちゃんは居る…けど本人が居ない。」


2人が見回していると凛祢が何かに気付いて

大知の両目を右手で隠した。


「のわぁッ!?な、何だよ真宮…!」



「葛葉君、見ちゃダメ!えっと、おはようございます…椿さん。」



「おはよ…ごめんね、昨日飲み過ぎちゃって…ふぁあ……眠たい。」


凛祢の前、事務所奥の方に居たのは下着を一切付けていない椿で整った形をした美しい豊満なバストが殆ど見えになっていた。左右から伸びた髪により胸の先が隠れているだけまだマシなのかもしれないが刺激が強いのは間違いない。


「椿さん、先ずは服と下着穿きましょう?支度手伝いますから。」



「んぁ…そういや今日は定時報告だっけ?普段ならもうちょい寝てるんだけど……頭いった…まさか二日酔いかぁ?」


そのまま凛祢に部屋の奥へと戻されると

約15分後、2人が戻って来る。焦げ茶色の長い髪を後ろでポニーテールにし、黒のタンクトップに紺色のジーンズに白のスニーカーをそれぞれ身に付けた椿は凛祢に連れられて来ると凛祢と大知は来客用のソファへと腰掛ける。

椿は普段使っている机の上に有るファイルと書類を幾つか2人の前に置いてから腰掛けた。


「これが此処最近、うちで引き受けた案件と退治した連中の詳細を纏めた奴。どれも物騒な奴ばっかだったよ。」


1つを手に取った大知が頭を下げ、パラパラと資料を捲りながら凛祢が椿へと尋ねて来る。


「どうも。」


「そういえば蘭ちゃんと由利香ちゃん達はお元気ですか?」


「元気だよ2人共。そういえば最近新しいアルバイトの子雇ったんだ、しかも男の子。私達と同じで奴等が見える子なんだけど。」


凛祢が捲る手を止めると顔を上げた。


「つまり、私達と同じで貴重な存在という訳ですか。その子の名前は?」



「高岸剣介。2人と同じ高校に通っている1年生でちょーっと頼りない以外はしっかりしてる。今は蘭のサポートをして貰ってるけどいずれは独り立ちして貰おうかなぁーなんて思ってる。」


椿がそう話した時、湯飲みに入った3人分のお茶を神楽弥がお盆に載せて持って来ると各々の前へ置いていった。そして彼女は会釈すると再び作業の為にデスクの方へ戻ってしまった。


「そういや、かぐちゃんは今何してるんスか?」



「そこに書いてあるだろう?蘭がこの間遭遇した例の女の子。その子の素性を調べて貰ってる。」


凛祢が捲ったページを更に椿が手を添えて捲ると、そこの項目の上をトントンと右手の人差し指で小突いてみせた。

そこには[知世という魍魎に関して]と1番上に

記載されている。


「…知世?」



「あぁ。蘭の話によるとその子は自らを魍魎と名乗ったそうだよ。」



「魍魎…って確か俺達が普段から相手にしている従来の悪霊よりも格上の奴等ッスよね!?」


大知が飲んでいたお茶の湯呑みを置いて声に出すと凛祢は「葛葉君、五月蝿い」と呆れた顔をしながら呟いた。


「それと今、凛祢が見ているページの少し前にも書いてるだろう?この知世というのが現れる前にも魍魎と名乗った奴が居たって。」



「書いています。私達、国例でも接触したケースは過去の事例しか有りません。まさかこの時代に現れるなんて……。」



「何かの前触れか、それとも何かロクでもない事企んでいるのか……恐らく後者なのは間違いないだろうね。それに奴等はこの世にヒトが居る限り襲って来る。」


椿は軽く溜め息をつくと前髪を掻き分け、左手で頭を支えながら資料を見ていた。大知も凛祢の横で何処か真剣そうな顔をしながらパラパラと資料を捲っている。


「椿さん…もしもの話っスよ?もし仮にこの世が魍魎とか悪霊共に乗っ取られたら……どうなるんスか?」


それに対し横に居た凛祢が椿の代わりに答えた。


「そうなれば奴等による支配が始まる。それに女はある程度、末路が知れている。餌である人間の数が減らない様に産まされて生きた家畜同然と同じ扱いを永遠に受け続ける……。」



「うげッ……それって…。」



「私達が普段から家畜にしている事と同じ事をそのまま人間に置き換えれば解るでしょう?そうさせない為に私達が居るの。…少しは解ってると思ってたけど。」



「わ、解ってるさ…俺だって!そうならない為にも日頃から訓練をだなぁ…ッ!」


パタンッと凛祢がファイルを閉じ、資料を手元へ手繰り寄せるとそれ等と大知の読んでいた資料も回収し黒い鞄の中へと片付けた。


「ありがとうございました、椿さん。これ等の資料を元に上へ報告します。」



「あいよ。」



「それと頼まれていたライセンスの件ですが此方へ郵送する様に手配しておきます。試験結果はほぼ満点でした。」



「ほぼ?…そこは満点で良いのに、何がダメだったのさ?」



「…そこは私にも解りません。でも何故、今更ライセンスの更新を?」



「……ちょいと調べたいヤマが出来た。神楽弥にも前線に出て貰うかもだからそれも兼ねてね。」



「解りました。…でもあまり無茶はなさらないで下さいね?」



「解ってる…程々にやるさ。それと大知ぃ、アンタも凛ちゃん守れる位強くなりなよ?男なんだから。」


椿は意地悪そうに笑うと大知を指さしていた。

それに対して彼は「精進します」とだけ言い残すと2人は去って行く。

彼等が居なくなった後に神楽弥が代わりにやって来ると椿の前にあるソファへ腰掛けた。


「新しい依頼、入ったけどどうするの?」



「今度は何…また猫探し?それとも列に並ぶ代理?浮気調査?」



「どれもハズレ。K小学校付近の住宅街で上下赤い服を着た変な人が出たんだって。多分怪異の類かもしれない。」



「変出者の間違いじゃないの?…それで、依頼相手は何処の誰?」



「学校の教頭先生。うちの噂を聞き付けて依頼したいんだってサイトにメールが届いてた。」



「まさかテキトーに作っておいたサイトが役に立つとは…そんじゃ、蘭と由利香に招集掛けておいて?」



「高岸さんは呼ばないの?」



「剣介君は非番だよ、流石に休み位あげないと可哀想だろう?あの2人なら慣れてるし大丈夫さ。それと人間だったら警察に突き出して構わないって言っといて。」


神楽弥に「頼んだよ」と伝えると彼女は頷く。

一息付いてから神楽弥は再びパソコンの置いてある場所へ赴いた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

ポツポツと黒色をした雲から雨が降り、地面を濡らしている。この日は天気予報だと午後から雨が降るとされていて街を歩く誰もが傘を差していた。午後の授業を終えた蘭は由利香と玄関前で合流すると蘭は紺色の傘を、由利香はビニール傘を各々が差して歩いて行く。


「椿さんからのメッセージ見た?高岸君は今日非番にするって奴。」



「…ここ最近はずっと一緒だったから。偶には休みも必要かもしれない。」



「私達は働き詰めなのにさ…新人特権って奴?」



「…由利香もこの間休んだばかりでしょう?それも私に連絡無しで。」



「あ、あれは…ちょーっと色々有ってさ。」



「…色々って何?」


ジロっと蘭が彼女を見つめると由利香は目を逸らしてしまった。


「それより!それよりも聞き込みしないと…ね?目撃情報とかその辺集めないと私達だって動けない訳だし?」



「…解った。」


蘭は腑に落ちないと感じながらも指定された場所へ徒歩で向かって行く。下校時間を迎えたK小学校付近へ来ると続々と児童が校舎から出て来ていた。来客用の受付で事情を説明し待機していると上下灰色のスーツを着た40代半ばの黒い髪をした男性が1人、2人の元へ訪れると歩きながら話しを始める。彼は自身の事を小野田昌幸おのだまさゆきと名乗った。


「川下事務所の方…にしては歳が随分若い様な。その制服からして2人は高校生ですか?」



「はい、そうです。私が奥寺由利香。彼女が…」



「…土御門蘭と言います。」


由利香に促されて蘭が挨拶する。

招かれたのは教務室の傍らに有る応接室、中へ入った2人は座る様に促されると並んで椅子へ腰掛けた。


「内容に関してはメールで送信した通りです…実は最近、生徒達の間で奇妙な噂話が広まっているようでして。」



「この辺に出るって噂の…例の赤い変出者ですか?」



「ええそうです。なんでも、赤い紙がどう…とか聞いて来るそうで。答えれば殺されるとか血が抜かれるといった噂が有るせいで一部の生徒達がとても怖がっていまして…今日の下校も教員達が生徒達に同伴しています。」



「成程…。今の所、被害は出てますか?」



「…追い掛けられたという事以外、特に問題ないと聞いております。一日でも早く近隣の方と生徒達に安心して貰いたいのです!どうか宜しくお願いします…!!」


昌幸が頭を下げると2人も無言で頷いた。

話を終えた2人は応接室を後にし廊下へ出ると

残っている生徒に話を聞こうと歩き出した。

最初に向かったのはこの校舎の2階にある2年生の教室。そこから回る事にしたのは既に1年生は下校していた為だった。


「赤い色をした変出者ねぇ…専門家の蘭サマはどう思う?」



「…まだ確証は持てない。人が起こしている事件なら犯人を探して警察に引き渡すだけで済むけど、そうでないなら話は別。」



「だよねぇ、解ったら苦労なんてしないもんねぇ……。」


2人が廊下を歩いて行くと悲鳴が聞こえ、顔を見合わせるとその方向へ走って向かい、立ち止まると声が聞こえたのはどうやら女子トイレの中かららしい。

入り口の前で蘭が左肩に担いでいた刀袋から自身の刀を取り出すとそれを左手に握り締めた。その鞘の色は血の様に赤く、柄の部分は黒いだけでなく鍔の色もまた同色に近い鈍い黒色をしていた。

異様な空気と共に蘭が由利香へ合図しドアを開けて中へ入ると個室から黒い髪のショートヘア少女が飛び出して来て蘭の方へ抱き着いて来たのだ。顔を上げると彼女の顔は真っ青で半泣き状態で若干パニックになっているのが解る


「…大丈夫?」



「どうしよう、拾っちゃった…私、拾っちゃった…ッ…!!」



「…落ち着いて。何を拾ったの?」


蘭が問い掛けると少女が1枚の赤い紙を差し出して来た。それは折り紙や画用紙の紙にしては異質で見た目だけは和紙に近い雰囲気が有る。


「…紙?」



「拾っちゃダメなの!!この紙…この紙を拾ったら殺される……!!」



「…殺される?それって──ッ!?」


何かを蘭が言い掛けた時、外に居た由利香がドアを左手で開いて叫んで来た。


「何かヤバイよ蘭ッ!!さっきまであんな奴、居なかったのに…!!」



「…えッ?」


蘭と少女が外へ出ると由利香が指差した方向、正面に居たのは高身長な見た目と共に頭の先からつま先まで真っ赤な服を着た何者かでその顔は気味が悪い程に白い色をした仮面を付けている。目の部分と思わしき箇所には目の形にくり抜かれた穴、口の部分と思わしき箇所には赤い紅を塗った唇があった。


「…由利香、その子をお願い。お前は何者だ…魍魎か、或いは人に害を成す悪霊か怪異か!!」



「お前…紙…拾った……紙拾った……。」



「…何?」



「殺す……紙…を…拾ったら…殺す…殺す…殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…殺すぅうううッ!!」


高い声を上げたかと思えば目の前の相手が駆け出し、走りながら何かを布製のカバーから引き抜いた。黒い手袋を嵌めた右手にはマチェーテの様な鋭利で長く鋭い銀色をした刃物が握られていてそれを蘭へ目掛け振り下ろして来たのだ。彼女は横へ斬り払う一閃に続いて放たれた縦方向から繰り出された一閃を1歩、2歩と後退し躱すと左手の親指で鯉口を切ると同時に柄を右手で握って抜刀。

鞘を手放して柄に左手を添えてから正面に刀を持って構えると相手を見据えていた。


「…今一度問う、お前は人か…それとも──ッ!?」


再び振り下ろされた刃物による一閃を自らの持つ刀を左へ平行にさせてから刃で受け止めながら睨んでいた。相手が誰であれ、倒すべき相手を見誤る訳にはいかない。ギリギリと競り合った末に振り払うと蘭が咄嗟に相手の左脇腹へ目掛けて蹴りを放ち、怯ませた直後に素早い身のこなしから間合いへ入ると刀の向きを変えてから峰を用いて相手の腹部へ向けて鋭い打撃を繰り出した。


「…!?これは…ッ!」



「ッ……!!」


すると赤い服を着た何者かはマチェーテを蘭へ向けたまま後退、ゆっくりと距離を離した末に走って逃走を試みた。


「…待てッ、逃がすものか!!」


相手を追って蘭も駆け出し後を追って階段を駆け下りて行くとその勢いのまま蘭は踊り場から飛び降りて階段付近に居た敵の背後を狙って刃を振り上げたかと思えば一気に振り下ろした。

放った背後からの不意討ちが命中したのは相手が此方側へ振り返って防御する際に水平に構えたマチェーテの刃。鈍い音と共にそれが落下すると右手首を左手で抑えたまま相手は刃物を残して逃げ去ってしまった。


「…逃げられた。やはりアレは……。」


名前を呼ばれて振り返ると踊り場には鞘を持った由利香に付き添われた少女が隣に居た。

鞘を彼女から受け取り、作法の元に納刀すると

蘭は由利香へ話し掛ける。


「…さっきのあの赤い奴は恐らく人間。」



「え?…マジ?」



「…腹部を刀で峰打ちした時、固い何かに当たった。多分…何かを服の内側に仕込んでるんだと思う。」



「じゃあやっぱり不審者?」



「…その説が濃厚かもしれない。貴女が覚えている範囲で良い…お話、聞かせて貰える?」


由利香の隣に居た少女の前で蘭がしゃがみ込むと彼女はコクリと小さく頷いた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

蘭達が務めに当たっている頃、剣介は電車に乗り約1時間程揺られた後に今度は徒歩で約15分掛けて歩いた後に1人でとある場所に訪れていた。そこは彼の妹である薫が眠っている墓が有る霊園なのだが当然の事ながら彼女は此処に眠ってはいない。彼の両親は薫が死んだ事とにしてそれ以上の事は思い出さない為、そして何より彼女の事を割り切るべく此処に墓を立てたのだ。歩き続けた剣介は墓の付近へ来るとそこに1人の女性が立っているのを見つける。

腰まで伸びた黒く長い髪が風に靡いていて、服装も紺色のセーラー服に加えて足元は白の靴下と共に茶色いローファーを履いていた。


「誰だ?あの人……。」


剣介の視線に気付いたのか相手が振り返ると

橙色をした瞳で彼の事を見つめていた。

見た目からして他所の学校なのは解る他に彼女は自分や蘭達と同い歳なのは解ったものの何処か大人びていて、歳頃の少女とは思えない妖艶さと共に不思議と目を見ていると引き込まれそうな感覚がある。

少しの間が相手から剣介が会釈すると彼の方から話し掛けた。


「妹の…薫の知り合いの方ですか?」



「妹?やはりそうか……。」



「どうして此処へ?」



「世話になった…とは言え、随分と前に探し物を見付けて貰った事がある。」



「そうだったんですか…薫がそんな事を。」



「見た所、この墓は空で何も居ない。何故この様なモノを?」



「両親が妹の死…というか行方不明になったまま戻らないのを受け入れられなくて…死んだ事にしてるんです。」



「……行方不明?」



「もう何年も前の話ですけどね。でも本当に薫が生きていたら…もう一度会いたい。俺は少なくともそう思ってます。」



「そうか…。シマイ、キョウダイという血の繋がりというのは不思議なモノと聞く。私には理解出来ない事の1つでもある。」



「は、はぁ…そうですか…。」


剣介は苦笑いしつつも彼は墓の前に座って軽く手入れを済ませてから両手を合わせていると

背後に居た少女が彼へ声を掛けて来た。


「…何も無い場所へ祈るのか?」



「ええ、これが俺の日課みたいなモノなんで。いい加減、俺も現実を受け入れないといけないと思ってるんですけど…中々飲み込めなくて。いつか、突然ひょっこり顔を出してお兄ちゃん何してるの?って……突然現れてくれれば一番嬉しいんですけどね。あはは……。」



「…カゾクが消えるのは辛い事なのか?」



「ええ、まぁ…。」



「……そうか。」


少女は呟いたかと思うとその場からゆっくりと歩き出し、霊園を後にすると途中で車のクラクションと共に呼び止められた。黒い車の後部座席のドアが開くと直哉が顔を覗かせて来る。


「知世…此処に居たのか。」


彼から車に乗る様に促されると知世は車へ乗り込み、直哉の左隣へ座ってから少し経つと同時に走り出した。


「…そこの広場…彼処でお前が以前に見せて来たタカギシという男に会った。」



「タカギシ……成程、剣介君に会ったのか。…確か彼の妹は特定不明失踪者だったね。それは最も、悪魔で表向きの話……だけど。」



「良いのか?奴が事の素性を知ればお前は真っ先に殺されるだろうに。」


知世の問い掛けに対して直哉は鼻で笑った。


「珍しいね、キミが僕の事を心配するなんて。それもヒトに触れて知った感覚かい?」



「さぁてな……だが、少なくともカオルは生きている…それに変わりは無い。それに面白いヤツも見つかった。」



「面白い奴?」



「…あぁ。ヒトの身で有りながら…他人の死に心底興味を持つ者……奴なら面白い事になるかもしれんぞ?ナオヤ。」



「……そうか。キミに任せるよ知世…けれど

やり過ぎないようにしてくれないか?おイタが過ぎると彼等…国例に気付かれてしまうからね。」



「確か…奴等はお前の駒なのだろう?言い方を変えれば操り人形とも言うが……。」



「あぁ…彼等は僕にとって大切な駒だよ。それに無くなったらまた新しく補充すれば良い…幸いな事に視える存在、戦える存在は探そうと思えば幾らでも探せるからね。」



「ふッ…お前もヒトの身で有りながらとんだ悪者だな……。お前が雇ったヒトの手で狩られるのは我等、魍魎なのだぞ?」



「…安心していい、その辺りの事は僕が何とかするよ。それに今はお互いフェアにいこうじゃないか…もし約束を破った時はキミが僕を斬って構わないよ。」



「…その言葉に二言は無いな?我々は過去に貴様らヒトと魍魎との間で取り決めた掟を忘れた訳ではない…。我々が欲するのはヒトという名の食物、そして貴様らヒトが欲するのは魍魎の力……あの贄となった巫女は貴様らが最初に我等へ捧げた供物。掟を破らぬ以上、あのカオルという娘は生かしておいてやろう……。」


不気味な会話が車内で交わされ、黒い車は路地を抜けてから一般道を進んで行った。


それから約1時間経過した後に剣介は再び電車へ乗り込むとそれに揺られて街へ戻って行った。剣介の束の間の休みはこうして終わりを迎えたのである。


(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る