第2話 真実 -シンソウ-

刀を振る少女を見た。

咄嗟に右へ一直線に振り抜き、よく見えなかったが直後に血飛沫が上がって壁と床を染めたのは憶えている。


『...ケガは?』


振り返ったその子の服、顔は連中の血で濡れていた。まるでこれまでもこういった事を対処して来た様な......そんな風にも見えた。

そして彼女は友達を助けると散り散りになった2人を助けに行くとだけ言い残し、走り去ってしまう。俺が見たのは普段大人しいクラスメイトのもう1つの顔だった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

H総合病院へ赴いた日の翌朝。

学校の教務室にて剣介達4人は生徒指導からみっちり絞られた。何でも優太のケガを見た彼の親から学校へクレームが来たらしい。

そして不法侵入云々がバレてこうして説教をされているのである。

解放された時には1時間目の授業が終わっており、原稿用紙3枚に反省文を書いて出せというペナルティ付き。

剣介と達也が教室へ戻って来ると誰もが彼等を一瞬だけ見ては普通に誰かと話し出した。


「おい剣介ぇ、お前のせいだからな...大体、何で俺が反省文なんか......。」



「良いお灸になっただろ?優太を見捨てて逃げたからバチが当たったんだ。これに懲りたら心霊スポット行くのは止めた方が良いぞ。」



「ちぇッ......。」


近寄って来た達也へ釘を刺すと剣介は蘭の居る席へ視線を向ける。だが、彼女の席には誰も座っていなかった。


「土御門の奴、今日は休みか。」


気になるのは彼女が何処から現れ、自分達を助けてくれたのかという所。

それに昨日見たあのゾンビの様な奴等は一体何なのか?それだけが気になって仕方がない。せめて彼女が休んでなければお礼の1つや2つ言おうと思っていたがそれも叶わず終いだった。すると教室の廊下側から視線を感じ、振り返ると紺色髪の少女が剣介を見て手招きしていた。


「......俺?」


自分で自分を指差すと彼女は何度も頷く。

そして彼は立ち上がると彼女の元へ歩いて行った。


「確かお前ってC組の......。」



「そっ、奥寺由利香。昨日は散々だったみたいだけど...大丈夫?」



「へ?何でお前が知ってんの?第一、あの場に居たのは...俺達4人と土御門だけだろ?」


疑問に思った剣介は率直に聞いてみる。


「ふふん、実は彼処に私も居たんだよ高岸君。場所変えて話そっか?色々聞かれると不味いしね。」


由利香は剣介と共に歩いて校舎の屋上へ向かうとドアを開けて外へと出る。

そして人の居ない事を確認した彼女は剣介の前へ来ると話し始めた。


「昨日の病院はね、心霊スポットと化した後...キミ達を含む噂を聞いた人達が沢山来ていて、うち何人かが彼処で失踪してたの。」



「失踪!?マジかよ...。」



「でも、失踪した人達は遺体安置所の中にある棺の中に入れられて気を失ってただけだから私が隙を見て全員助け出した。この辺に関してはセーフかな?」


由利香がそう話した後、剣介は気になる事を彼女へ伝える。


「...!そうだ、昨日見たあのゾンビみたいなのは──」



「アレはね...悪霊。彼処で亡くなった人達の魂の具現化、外部から来た亡くなった人の魂も合わさってあんな風になる。もしかして高岸君...見える人?」



「え?ま、まぁ...。でも途中で透達も見えてたって言ってたけど?」



「多分、邪念が強まったからだと思うな。本来の悪霊は可視化されないんだけど...念が強過ぎたりすると可視化される事も有る。だから見えたんだよ。それより...!」


由利香はキラキラした目で剣介を見ると

彼の両手を握って来る。

柔らかな温かさが伝わって来ると剣介は頬を僅かに赤く染めていた。


「見付けた、私達以外にも見える人!!良かったぁ...これで暫くは安泰!!」



「待てよ、私達...って?」



「私も蘭も見える人なの。無論、あんな感じの...変なのがね。」


両手をスッと由利香が離すと振り返って指を差す。そこには黒い影の様な物が生き物の様に蠢いていた。


「おわぁあッ!?な、何だよアレ!!」



「多分、付いて来たんだよ。それに高岸君達...お祓いしてないでしょ?だからだよ。人の持つ負の部分に惹かれて来ちゃったんだ。」



「ど、どうするんだよ!?」


由利香は前へ出るとスカートの左右のポケットへ手を突っ込むと左右に3枚ずつの白い紙を取り出すとペロッと上唇を舐めた。


「ふふん、こうするのぉおッ──!!」


バッ!!と彼女が両手を交差させる様に振り翳すと、左右から挟み込む様にそれが白い光になりそれが黒い影を刺し貫いた。そして悲鳴と共にそれが消滅し黒い塵と化した瞬間、風に乗って消えてしまった。

それはほんの一瞬の出来事にしか過ぎず、瞬きをする暇すらない。


「ま、マジかよ......。」



「除霊終わり!...ちょっと派手だったかな?」



「なぁ奥寺?お前と言い、土御門と言い...何者なんだ!?」


剣介は驚いた顔で指を差して彼女の方を見つめている。そして由利香はゆっくりとその口を開いた。


「退魔師......だよ。」



「タイ...マシ......?」



「そっ、退魔師。ああいった存在から人々を守るのが私の使命...というか私達かな?」


由利香は特に隠したり何かを誤魔化したりせず、剣介へ話した。そして彼女は思い出した様にブレザーの左側内ポケットから何かを取り出すと彼へ手渡して来る。


「川下...相談事務所?」



「そっ、良かったら此処に来て。そこなら詳しく話せると思うから。それじゃッ!」


彼女は剣介を1人残して立ち去ってしまう。残された彼は貰った名刺を眺めながら不思議そうな顔をしていた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

同じ頃、蘭はその事務所の中に居た。

菓子の袋やらカップ麺の容器が散らかった室内、そしてテーブルの上に置かれたまま放置された500mlの缶ビールの空き缶複数個、その直ぐ横に置かれていた350mlサイズの缶チューハイの缶数個。それ等を1つ1つ彼女が拾ってゴミ袋へ片付けていた。途中で立ち上がると窓を開いて空気の入れ替えをする。


「...相変わらず汚いし臭い。」


そして直後にドアが開くと入って来たのは黒い短めのタンクトップに深緑色のアウター、そして青いジーンズをそれぞれ着た長い焦げ茶色の髪を後ろで結んだ女性。足元は革の黒いブーツだった。白い肌に加えて顔立ちもスタイルも良い事から男であれば振り返るかもしれない程の美人。彼女こそ川下椿かわしたつばき、此処のオーナーである。


「やっ、来てたんだ。学校はどしたの?」



「...午後から出ます。」



「感心しないねぇ、大学生じゃあるまいし午後出なんてさ。」



「...報告しに来たのに椿さん居なかったから。」



「あ、そっか。それで...どうだった?」


ドサッと奥の机に白いコンビニのビニール袋を置いてから彼女は黒い椅子へ腰掛け、蘭の方を見ていた。


「...斬ったのは悪霊数体、それから亡骸が1体。由利香が攫われた人達を助けて無事...それと──」



「それと......何?」



「...うちの学校の男子生徒4人が昨日そこに居た。そしてその中の1人は多分見えてる。」



「ふぅん...じゃあ由利香と蘭と同じって訳だ?でもまぁ珍しい事も有るもんだねぇ。」



「...何考えてるんですか?」



「んー?別に♪ちょっとね。」


直後にビニール袋の中から350mlサイズの缶ビールを取り出し、慣れた手付きでそれを左手だけで開けてしまった。


「...朝なのに飲むんですか?」



「良いじゃんか別にぃ。オトナの特権って奴♪蘭はまだ未成年だからダーメ!」



「...片付け終わりました。では、失礼します。」


蘭は通学に使っている平たい鞄を手にすると椿へ会釈し、部屋を後にする。

外へ出ると彼女は他の通行人達に紛れながら青林高校へ向かって歩いて行った。

午後の授業から何食わぬ顔で出席した蘭は自分の席へと腰掛け、普段と何も変わらず授業の支度だけをしてそのまま待つ。剣介は彼女が来た事に対し何処か驚いていた。


「まさかサボりか?でもまぁ、あの真面目そうな土御門の事だし...サボる事なんて有り得ないだろうし......。」


彼女の背を見ていると過ぎるのは昨夜の事、

そして刀を手にした彼女の姿。

そして由利香から聞いた退魔師というワード。16になるまでこういった事は知らなかったし、聞いた事もない上にあんな出来事が有ればニュースになっていても可笑しくはない。それに自分と優太の事を助けてくれた玖遠という狐は炎で金網を焼き切った後に紙となり消えてしまった。


「......やっぱり行ってみるしかねぇよな、此処の事務所。」


受け取った名刺を眺めながら剣介がポツリと呟くと年配の男性教師が入って来て授業が始まった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

本来なら放課後は達也達と遊んで帰る筈なのだが彼は珍しく先に帰ってしまった。

優太は休みな上に透も委員会の仕事がある事から剣介は1人で帰る事に。

その方が寧ろ都合が良い事から彼は事務所のある方面を目指して1人で路地を歩いていた。


「えーっと...この住所だから鈴夏駅の向かい側だな。」


改装された駅の下通りを抜け、向かったのは

オフィスビルや飲み屋街が建ち並ぶ場所。

そして辿り着いたのは飲み屋街に挟まれた雑居ビルだった。


「......おいおい、本当に此処なのか?」


確かにビルの看板には 5階[川下相談事務所]と記載されている。取り敢えず剣介は中にあるエレベーターへ乗り込んで5階を目指すとそこで降りる。白いタイル張りの廊下を

歩いて行くとドアの上に同じ名前の表札を見つけて立ち止まった。


「川下......相談事務所。間違いない、此処だ。あのー?名刺貰って来たんスけどー?」


取り敢えず剣介はドアをノックしてみるの

だが返事1つ帰って来ない。留守なのか或いは気付いていないだけなのか。

更に立て続けにノックしてみるとドアが開き、中から出て来たのは流水紋と菊の花の付いた薄紫色の着物を着た黒い長髪の可愛らしい女の子。綺麗な黄色い瞳が何よりも印象的だった。すると少女が剣介へ話し掛けて来る。


「何かうちにご用ですか?飲食店は1階、2階と3階はカラオケ。4階はテナント無しですけど...?」



「えーっと...この名刺を貰って。」


少女がそれを受け取ると「少々お待ちを」と話してから部屋へ戻る。数分後に中へ招き入れられた。


「どうぞ、お待たせしました。」



「お邪魔します......。」


中に有るのは正面に有る机1つとそれから薄茶色の長方形をしたテーブルと黒の1人用ソファと4人がけの同色のソファ、左側は白いカーテンでそこだけを囲う様に仕切られていた。


「椿、お客さんだよ起きて起きて!!もう!昼間からお酒なんて飲むから寝ちゃうの!!」


少女がソファで寝ている女性を起こしに行くと本人が起床し目を擦っていた。


「んにゃ...おはよ...神楽弥。いやぁ、相変わらず綺麗だねぇ......流石は私の式神だ、うんうん。髪もサラサラだし...まつ毛も長くてお目目もクリクリしてる。」



「寝惚けてないで対応してよ!!久しぶりのちゃんとしたお客様でしょう!?」


ペシッと筒状に丸めた雑誌で頭を叩かれると恐らくオーナー(?)であろう女性がその場に立ち上がる。そして剣介の元へフラフラと来て立ち止まると微笑んでいた。


「すげぇ美人......てか酒臭ッ!?」



「ちょぉッ!?アンタねぇ、初対面の人に向かってそれは流石に失礼......って神楽弥?私って酒臭い?」



「うん、すっごいよ?」


神楽弥と呼ばれた少女は鼻を詰まんで眉間に皺を寄せていた。それから剣介と椿は見合わせる形で机を挟んで座る事に。椿は酔い覚ましで神楽弥が持って来た水道水を一気飲みしコップを手渡した。


「それで、うちに何か用?猫探しやら鳥探し、その他色々...やってるんだけども。」



「あ...いや、えーっと...奥寺さんから此処に来れば色々解るからって......。」



「ほぅ?それで此処に来た訳だ...そういやアンタ、昨日H総合病院に行ったろう?」



「えッ...どうしてそれを......。」


剣介へ向けて椿が右手の人差し指を向けるとニッと右側の口角を吊り上げて笑った。


「ふふん、ちょっとした推理だよ...それと、その目で見たんだろ?悪霊をさ。」



「は、はい......見ました...。」



「多分、由利香から聞いたと思うけど...悪霊っていうのは突然現れる。そして悪霊に襲われた人間がまた次の悪霊になって...連鎖的に数が増えていくのさ。対処出来るのは奴等を視認出来る者か...或いは視認する為の物を持っているかの何れか。それ等は怪異も同じ事が言える。」


すると神楽弥は剣介の前に湯呑に入った温かい緑茶を置くと同時に紅白の紐が付いた黄金色の鈴を添えて置いた。


「これって...鈴か?」



「魔除の鈴です。鈴は古来から鳴らすと邪気を祓う事が出来ると言われています。それとこの鈴は少し特殊で、怪異や悪霊を見定める事も出来るのです。」


神楽弥が説明を終えると微笑んでいた。


「それで此処からが本題。此処の事務所の本当の仕事はね...奴等からヒトを守る事。昨日、アンタと友達を助けた蘭も由利香も此処の専属退魔師って訳。」



「......じゃあ...お姉さんも?」



「お姉さんじゃなくて、私の名前は川下椿かわしたつばき。此処の代表責任者。そして──」



「受付、及び助手とその他事務処理担当の神楽弥と申します。宜しくお願いします。」


ペコリと神楽弥は会釈をした。

流れ的に今度は自分の番だと剣介は察したのか名乗り出す。


「た、高岸...剣介......青林高校1年です。」



「へぇ?じゃあ2人と同級生か!へっへっへ、良かったねぇある意味ハーレムじゃん?」


にぃっとイタズラっぽい笑みを浮かべた椿が意地悪そうにニヤニヤと笑っていた。



「ハーレム!?全然そんなんじゃ無いッスよ

!!」


慌てて彼は否定すると椿は1枚の用紙を神楽弥伝いに受け取るとそれをボールペンと共に前に置く。


「これ…何ですか?」



「あー、これ?ウチで働かないかっていう契約書。ようはスカウトだよスカウト!その歳で見える子は助かるのさ...特にうちではね。」



「働く?俺が...此処で......?」



「そっ。それに見た所、剣介君は他の人より霊感が強い...だからそこらのインチキタレントや自称霊感持ちの動画配信者達、霊媒師とは違うマジな霊能力持ちって事。別にアルバイトって形だから気にしなくて良いし?」


椿が彼を見て微笑んでいた。

その様子はどう見ても「サインしないと返さない」みたいな謎の圧を感じる程。


「し、仕事って...具体的には何するんです?」



「そうだねぇ......主に蘭のサポートかな。今は由利香がやってるけど、そろそろ別の形式にも慣れて貰わないと。」



「土御門の...サポート......。」



「それに、蘭に助けられたんでしょ?恩返し位してあげてもバチは当たらないと思うけどなぁー。」


背中を更にグイッと押されてしまい、それ以上は何も聞けなくなった。助けられた以上、それなりに何かをすべきなのは解っていた。

でも思い付かずにそのまま流されて終いには忘れてしまうかもしれないのも解っていた事。影が薄いから、ごく一部の生徒しか彼女と話さないから、とか軽い理由を付けて。

向こうがどう思ってるかなんて解らないが。


「......解りました、俺やります!!自分に何が出来るか...まだ解らないけど。」



「おっしゃあ!偉いぞ、剣介!じゃあサインしてサイン!!」


ワクワクしながら名前を書き終わるまで椿はそれを終始見守っていた。

こうして剣介は川下相談事務所のアルバイトとして働く事になったのである。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

剣介が帰った後。

蘭は1人で深夜の道路に現れた怪異と戦っていた。黒いライダースーツに猫の顔、そして足元には黒と赤の長いバイクに跨ったそれはヘッドライトで蘭の事を照らしている。掛けている眼鏡のレンズに光が反射して彼女の両目が白くなっていた。


「フシュウウゥッ!!」



「...火車。此処最近、街の通りとバイパス、高速で起きていた車の連続火災事故の犯人。」


蘭は刀袋から自らの刀を取り出すと同時にエンジンがふかされ、ブォンブォンと爆音が鳴り響く。

つまり向こうも臨戦態勢に入ったという事を現していた。


「シャアアアアアァッ──!!」


そして一直線にアクセル全開で蘭目掛けて突っ込んで来ると右手に握り締めている先端に髑髏の付いた長い鉄の棒を彼女へ目掛けて横からフルスイングで当てようとして来たのだ。


「くッ──!!」


咄嗟にそれを直撃ギリギリに左へ飛び退いて躱すと相手が過ぎた瞬間に抜刀、傍らへ鞘を投げ捨てた。

一方の火車はブレーキを掛けてターン、再び蘭を襲うべくバイクを全速力で走らせて来る。


「......次で斬る。」


再び道路の中央へ戻ると蘭はリボンと眼鏡を外すと正眼の構えによる姿勢を取ると瞳の色が赤く染まった。そして再び間合いが詰まり始めると同時に彼女は駆け出した。走りながら鍔の下側にある何かを親指で押し込むと刃が振動し始める。


「はぁあッ!!」


そして相手が前輪を空中へ振り上げて蘭を推し潰そうとした瞬間。彼女は素早い動作から一閃、続いて二閃と刀を用いて十字を描く様に斬り裂いてから飛び上がるとバイクの前輪部がバラバラに斬り裂かれ、部品類もまた地面に細切れとなり散らばった。火車の後方へ着地した彼女は

相手へ刀の刃先を向ける。


「...肝心な足は無くなった。次で最後。」



「グルゥッ......グルル......!!」


バラバラになったバイクを乗り捨てた火車は

手にしていた棒を用いて蘭へ襲い掛かり、それを頭をかち割る様に振り下ろした...筈だった風を切る様な音と共に棒を握る右手が彼女により斬り落とされ、傷口から真っ赤な血液が噴き出した。悲鳴を上げてふらついて後退したのも束の間、再び間合いを詰められると蘭は相手へ左一文字、袈裟斬りといった形でそれぞれ二閃で斬り裂くと火車の身体がバラバラになって地面へ崩れ落ちた。もはやそれは人型の原型すら留めておらず、血に濡れた臓器類がでろんっと顔を覗かせている。巻き添いで斬った左腕はまだビクビクと動いていた。


「ッ…!!」


そして振り返ってから近寄ると刀の刃先をアスファルトの地面へ向け、残った頭部を脳天から突き刺した。

相手の消滅と共に死んだ事を確認してから路肩に置かれていた鞘を拾って血払いをし、刃を収めると蘭はリボンをポケットへしまい、頬の返り血を拭うと眼鏡だけ掛けてその場を立ち去った。


退魔師、土御門蘭の戦いは終わらない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る