第8幕 竹中マリア(2)
一組の男女は背景にもたれかかるようにして、眠っていた。
他人の幸せが憎いのか、普段よりも観客の反応は悪く、ブーイングが飛び交っているのが聞こえてくる。
「おやおや、今回は二人組ですか。同時に亡くなられるとは仲がよろしいことで。」
その声に、二人がハッと目を覚ますと、パイプ椅子の上で逆立ちしたピエロが、視界に飛び込んでくる。
「身の毛が逆だったら、身体まで持っていかれてしまいました。」
「きゃあ!!なに、あれ!!怖い怖い怖い怖い!!」
「お、落ち着け!大丈夫!大丈夫さ!!」
取り乱す彼女を安心させるかのように、男は何度も大丈夫と繰り返した。
自分より取り乱す人がいると、人は冷静になるもので、男は、ピエロに向かって言葉を投げる。
「おい、おまえ!一体これはなんだ!俺たちをどうするつもりだ!!」
ピエロは椅子から飛び降りるとキョトンとして、首を傾げる。
「どうって、どうもするつもりはありませんとも。あなた方の舞台の、その真実を見せていただければいいのです。私は亡くなった人々の、認知の歪みを観るのが趣味でして。それが、例え、どんな内容であっても、ね。」
ペロリと舌なめずりをするピエロに、静止するかのように手を前へ差し出すと、彼は疑問を口にする。
「ちょっとまて!亡くなったって…死んだのか!?俺たちは!」
あーらら、と額に手を当て、かぶりを振るう。
「なんで人間ってのはこう、死ぬ間際にちょっとでも抗おうと思わないんですかねぇ。身体の仕組み的に不可能なのか…やる気がないのか…。」
ピエロは、思いっきり大きなため息を吐く。
敵意がなさそうな様子を見て、次第に落ち着きを取り戻してきたマリアが朧気な記憶を探る。
「もしかして、私たち…滑って、コケた?」
その瞬間ドッと会場に笑いが起こった。
ピエロも吹き出してしまっている。
ゲラゲラと笑われたこと、あっけなく死んでしまった事実。それらを受けて、2人の表情は表現しがたいほどに絶望に満ちていた。
「なんと覚えていらっしゃいましたか!自らの最期を!…ぷぷっ。」
ピエロは大袈裟に振る舞ってみせるが、笑いは堪えきれないようだった。
「なんとも見事な滑りようでしたねぇ。往年のコント師が見ていたなら、よくやったとガッツポーズしながら褒めてくださることでしょう。」
しかし、とピエロは指を真上に向けながら告げる。
「イケませんなぁ、趣味に他人を巻き込んでは。」
2人は、思い当たる節があったのか、ビクッと体を震わせた。
「生前、何をされていたか、この言葉だけで思い出せたようですね。では、アンコールと参りましょうか。」
状況が未だに飲み込めない2人の制止の声も虚しく、パチンと指は鳴らされた。
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