第5幕 村井ケンジ(2)
バツッと音を立てて、スポットライトが村井を照らし出した。
彼は空気椅子で、ハンドルを握った体勢で晒し上げられる。
どこからか、嘲笑が漏れるのが聞こえた。
顔を真っ赤にして彼は、感情を発露した。
「おい!今笑ったやつ出てこい!一体何だ、ここは!!」
「ここはステージの上ですよ!村井ケンジさん!主演がそのように騒ぎ立てては、舞台が台無しです。」
「うわぁあぁぁあ!!」
後ろからヌルっと現れた、ピエロの顔にケンジは腰を抜かしてしまった。
どうみても覆面には見えぬそれに気づいてしまった事が、彼の恐怖心に思い切り火をつけた結果である。
「な、なんなんだよ!お前は!」
「申し遅れました。私、【Midnight】の支配人を務めさせていただいております【―――】でございます。…おや?【―――】…駄目ですね、名乗れないみたいです。」
ガックリと肩を落とすピエロ。目には涙のようなマークが増えていた気がしたが、文字通り張り付いた笑顔のせいで、イマイチ感情は見えなかった。
「さて、村井さん。貴方の舞台…もとい貴方の死ぬ最期の瞬間、観させていただきましたが―。」
意味がわからないと言った面持ちで、村井は言葉を遮った。
「はぁ?俺が…死ぬ?なんだいこれは…?ははぁん、さては、新手のゲームかなんかのキャンペーン?そういや俺、さっきまでゲーセンに居たような覚えがあるし、納得したぜ。最近のは随分、手が混んでやがるんだな。態々、眠らせてまでこんな場所に連れてくるなんてよ。で、なに?設定は?転生でもすんの?」
異常な自分の状況を認めたくない思いからか、早口で捲し立てるように、言葉の雨を降らせる。
だが、歯牙にもかけずにピエロは自分の言いたいことだけを伝える。
「恐らく、混濁してらっしゃいますよね?」
ピエロは額に手を当てると、涙を一筋流した。
「あぁ!なんと嘆かわしい!自分の散りゆく瞬間を!物語のフィナーレを知らずに朽ちていくなんて!!脚本家としては!!あまりにも許しがたい!!」
ピエロの熱弁は、先程の言葉の雨をカラカラに干上がらせるほどの熱量を持って、村井に迫った。
あまりの熱量に、村井が面食らっていると、ピエロは急にピタッと止まると、頭だけを村井に向けて、一言だけ発した。
「…貴方が最後に居たのは本物の峠でございますよ。」
それを聞いた村井の脳内に、死ぬ間際の記憶が溢れ出してくる。
「…思い出されたようですね。では、アンコールの時間です。」
ピエロがパチっと指を鳴らすと、舞台は暗転した。
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