第2話 夢の都市

 都市中央ステーション前広場。そこはこの大都市の中にあって緑あふれる爽やかな公園となっており、そこで母親と二人の子供達は自動操縦の車を降りる(これはレンタカーで彼らのものではないので、役目を終えるとセンターへひとりでに走り去る)と、そこはもう近未来的大都市のど真ん中だった。周囲には白銀色と空の青を映したビル郡が高々とそびえ立っている。地上の道路には車もたくさん走っていたし、空には小型の乗用ドローンも飛び交っていたが、空気は爽やかだった。乗り物の動力は殆ど電気が主であり、AIにより完全に制御された自動操縦技術により、衝突事故は有り得ない。

「おぉ~い!みんなぁ~」

「……あっ!お父さんだ」

 家族が声の方を見ると、そこに父の姿があった。

「ノボル、大きくなったなぁ。ユイも母さんも元気そうで何よりだ」

「何だかんだ、一年ぶりだもんね」

 この父親は仕事のために単身この街に来ていたのだった。

「映像通信でしょっちゅう話してたけど、やっぱり実際会うと色々感慨深いものがあるわね」

「まったくだ……」

 ふと見ると、向こうにアイスクリームの売店が出ている。父親はそれを指差して言った。

「食べないか? おごるぞ」

「わぁ~い!食べる食べる」

 だが息子ははしゃぎすぎてアイスを持った

まま走り回り、せっかく買ってくれたアイスを道に落としてしまった。

「……っ!!」

 家族の間の空気が一瞬固まった。実はこの父親、悪い人間ではないのだが癇癪の発作があり、カッとなると所構わず大声で怒鳴り立てるという困った所があるのだ。さぁ、来るぞ、来るぞ……と皆が思った。ところがである……

「……む……むむ……うん……はぁ……ノボル、ケガはないか?」

「「……っ!?」」

 家族は我が目と耳を疑った。父が癇癪を起こさないなんて……!?

「う、うん……アイスは落としちゃったけど、ケガはしてない……」

「ダメじゃないか。せっかくのアイスが台無しだ。けど、嬉しかったんだもんな。しょうがない。もう一つ買ってやるよ」

「ありがと……」

 罵声が無かったのは良かったのだが、何とも妙な気分である。妻はある事を察して夫にそっと囁いた。

「あなた……ひょっとして……あの手術受けたの?」

「あ、解ったか……うん、実はそうなんだ。今、激情の波に飲み込まれて怒鳴り声をあげる寸前で、俺の頭の中に埋め込まれたマイクロチップが、感情の発作を抑えてくれたんだ」

「そんな大事な事、どうして教えてくれなかったのよ?」

「言ったら反対されるかも知れないと思って……けど手術って言っても別に頭をメスで切り開いた訳じゃないんだ。口からナノマシンを飲み込んで、それが体内を巡って所定の位置にたどり着き、仕事を始めたのさ」

「今はそんな事が出来るの?」

「うん、変な副作用や後遺症じみたものも無い。まったく医療技術の発達に万歳だ。ヤン・シュミット師が常に我らと共にあり……我らがヤンには、本当に感謝しかない」

「ヤン……なに? 誰その人? 東洋人? 西洋人?」

「その内説明する。凄いお人なんだ。けど今は……」

 父親は家族皆に言った。

「……さあ、そんな事より、積もる話もあるだろう。お父さんの家へ行こう。案内するよ」

「一般労働者用の集合住宅でしょう。ここから近いの?」

「いや、実はさ、つい最近、郊外に一軒家を買ったんだ。地下鉄に乗って行こう」

「凄い!一体どうしちゃったの!?」

「実は最近、上司に認められてね。……以前はすぐ感情の発作に駆られて周囲と問題ばかり起こすトラブルメーカーだったけど、最近は本当に良い方向に変わったって……それで今じゃあ地位も給料も上がって、将来は経営陣の椅子を用意しても良いとさえ言ってくれてる。まあ、お世辞半分だとしても嬉しいな」

「確かにずいぶん変わっちゃったね。本当にお父さんなの?」

「あはは……さあ~て、どうかなぁ?」

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