第11話

「ひとつ言い忘れたことがあったわ」


 美代子は麺をすすりながら、なんでもないというような顔で言った。あれから一人であちこちを探し回り、どうにか見つけたのがカップ麺らしい。聞いたことのないメーカーだから味は微妙そうだったが文句ひとつ言わず淡々と食べていた。お湯は給湯室にあったケトルを使ってミネラルウォーターを沸騰させていた。


「この建物に来る途中にはぐれてしまったんだけど、娘が来てるの」


「は?」


「助けてくれないかしら」


「今日はいい天気ね」と同じくらいの調子で自分の娘がいないことを伝えてきた。こんな世界になる前でも大事の話なのに普通のことの様に話している。どうやら恐怖で頭がおかしくなったのかもしれない。


「お前あたまおかしいんじゃないか?」


「お前じゃない美代子」


「うん、やっぱりおかしいわ。ってか、こんなゾンビだらけのところで生きてると思うか?助けにいくだけ無駄だろ」


「そう?あの子めちゃくちゃ強いのよ。剣道と柔道と段ぐらいまでだったら持ってたんじゃないかな。だから大抵のことなら何とかなると思うけど、まぁ……あなたみたいに魔法を使うゾンビに遭遇したらどうしようもないわね」


「ふーん、そんなに強いのか?」


「ええ。あの村が襲われたとき、何人もの敵を素手で殺してたもの」


 最初に思い浮かんだのは結衣のことだった。俺一人であの連中を無力化して倒すことはできるかもしれない。ただ、多勢に無勢ということもある。万が一のことを考えれば人は多い方がいい。それにこのゾンビの身体では、結衣に信じてもらえるかどうかも怪しかった。


(今後のことを考えれば誰か間に立つ人間が必要だ。それは間違いない)


「はぁ、わかった。助けにいくか。その代わり、その娘にも俺に協力してもらう。それが条件だ」


「ありがとう。まぁ協力しなければ殺されるんだから、手伝うに決まってるでしょう」


「それもそうだな」


 俺の顔をじっと見ていたらしい。


「なに考えてるのかわかりにくいわね。ゾンビって」


 後ろでぼやいている声が聞こえたが気にしないことにした。



名前:月城 薫

状態:ゾンビ

スキル

人化:Lv1

麻痺(パラライズ):Lv3

対象の3体まで30秒間、麻痺の効果を与える

眠り(スリープ):Lv1

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

口減しのため追い出された男、ゾンビに噛まれ覚醒、レベルアップで無双する。 UFOのソース味 @kanisan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ