第10話
話を聞いても、何も感じなかった。他人事だからかもしれない。こんな世界になってから人の醜い部分は嫌というほど見てきた。いや、醜いわけではない。本性を隠す必要がなくなって、みんな自由になっただけだ。
「その追手は近くまできてるのか?」
「それはないと思うわ。あなたも知っての通り、この建物の外には大量のゾンビが徘徊してるもの。自殺行為よ。それに建物の中にまでゾンビがいるって、みんな考えていたから、まさかここまでゾンビがいないなんて思ってもいないわ」
信じるべきかどうか、美代子がもしかしたら嘘をついていて、武器を持った大量の人間が押し寄せてくるかもしれない。ただ、こいつをスリープで寝かせてから10時間以上は経過している。助けるにはあまりに時間をかけすぎている。それに気にことは他にもある。こいつの村を襲った集団がここまできていることを考えると結衣が危ないかもしれない。
「ねぇ。トイレに行きたいんだけど」
「我慢しろ」
「我慢の限界はとっくに過ぎてるわ。ここで漏らして欲しいならしてあげるけど、そんな趣味もあるの?女性を縛り付けるみたいな……」
「わかった。逃げたら殺す。素振りを見せても殺す。考えても殺すからな」
「恐ろしいわね」
俺は結束バンドを解いてやるとトイレまで案内した。背中にはガス銃を突きつけている。ここまで警戒する必要はないかもしれない。けれど、万が一の危険性もある。
「まさか、中まで入ってこないわよね」
「さっさと終わらせろ」
「お待たせ」
「はぁ、戻るか」
「お腹空いた」
「だから?」
「なにか食べるものないの?」
人間を監禁するのってこんなに面倒なことだとは。これならゾンビを扱っている方が100倍マシだ。トイレもいかないし、お腹も空かない。当たり前だが勝手に話し出したりしないし文句も言わない。落ち着け。こいつを今すぐゾンビに変えてやりたいが、まだ使い道はある。
「食べ物なら勝手に探せ。ついていくのも面倒だから、首に縄を結ぶ。一定時間が経過した後に、3回引っ張るから、お前も合図しろ」
「お前じゃなくて、美代子ね。はぁ……わかったわ」
手頃な縄がなかったため延長ケーブルと首に巻きつけた。抵抗されたが、嫌なら自分で縄を探して持ってこいと言えば、押し黙って恨みがましい目で見てくる。相手にするだけ損だなと思い、俺は椅子に座って待つことにした。
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