第9話

「ここはどこ?」


「やっと目を覚ましたのか」


 無事食事を済ませたあと眠ったままの女を引きずり結束バンドで椅子に固定した。両手両足、首と固定しているため動かしようがないだろう。


「ゾンビが喋ってる」


「そんなことより、気になることがあるんじゃないのか?」


 女は小首を傾げ不思議そうにしていた。年齢的にかなりキツいものを感じる。十代の女の子がしていれば様になるかもしれないが四十近いおばさんがしても、気味が悪いだけだ。


「そうね……あの人はどこにいるの?」


「横を見ろ」


 動きのとりづらい身体で、どうにか確認できたようだった。途中で同じ味に飽きたため殺すことなく、首を縄で繋ぎ柱に固定している。完璧なゾンビとなっていた。


「もっと泣きわめいたりすると思ったのに」


「この世界になってから、もっと悲惨な経験をしてきたわ。あの男は一緒に逃げて来ただけで、特に思い入れがあるわけでもないし。まぁ身体の関係は何回かあったけど……」


「うえっ、気持ちわる」


「失礼ね。あんたも歳を取ればそうなるわよ。ってもう死んでるか。それならゾンビとする方が気持ち悪いけどね」


「お前、死ぬのが怖くないのか?」


「お前じゃない。美代子っていうの」


 俺は内心ため息をついた。いますぐにでも殺してやりたい気分だが、まだ聞きたいこともある。それに、スリープのレベルを上げるには丁度いい実験台だった。


「美代子はどこから来たんだ?」


「村って言ってもいいのかしらね。世界が崩壊してから私はそこに住んでいたの。街を離れてね。こんな世界だからいがみ合っても仕方ないじゃない。みんなで協力しながら生活していたんだけど……」


 美代子は思い出したくもないのか、唇の端を震わせながら話し続けた。


「ある日、1台の車がやってきたの。最初は物々交換の申し出だった。向こうはどこから仕入れてきたのか大量の服や生活用品を持ってきていたの。代わりに求められたのは食料だった。好青年って言った感じの普通の男たちだったから、警戒もせず気軽に接していたのだけど、それがいけなかったみたいね。私たちは、高齢者や年齢層が高いおばさんやおじさんばっかりだったから、倒しやすいと思われたのかもしれない。武装した男や若い女たちが突然、押し寄せてきて、労働力になる人は奴隷にされてしまったわ」


「あの男はね、その襲ってきた連中の幹部だった。勢力争いにでも負けたのかもね。目をつけていた私をつれて、ここまで逃げ伸びてきたってことよ」

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