第8話

 作戦としては、ガス銃でまず男の方を行動不能にする。顔に命中させられればいいが、サバゲーをした経験さえないので、当たるかどうかも怪しい。どこかに当てられれば御の字だ。そのあと、ゾンビを男の方にけしかけ抵抗されるようであればパラライズを使い、ゾンビに殺させる。女の方はスリープを使う。練習台になってもらう予定だ。


「おい、これを見ろよ。売ったらやばい金額になるぜ」


「なに言ってんのよ。もうお金なんてなんの価値もないじゃない」


「そうだけどよ。ってか、ほんまにゾンビおらんみたいやな。こんだけ騒いでも襲い掛かってくる気配すらない」


 僕は慎重にガス銃を構える。顔はちょうど棚に隠れているが、胸元には命中させられそうだ。


「ふぅ」


「なんだなんか聞こえなかったか?」


 パシュという気の抜けた金属音が何回かしたのと同時に、男が蹲るのが見えた。


「ぐっ、……やばい攻撃されてる」


「え、どこから?」


「わかるかよ、そんなの」


「スリープ」


 僕は女性の方に手のひらを向けて、スリープと唱えた。鈍い音を立てて倒れこむ。


「おい、お前誰だ!」


「いけゾンビたち」


「くそがっ。こんなところで死んでたまるか」


 ダメージをそこまで与えられていなかったのか、男は立ち上がり、バットを構えた。送り出した初老ゾンビは、釘バットに叩きつけられ、倒れたまま動こうとしない。もう一体のゾンビはなんとか嚙みついたものの直ぐに振りほどかれ同じ運命を辿った。


「お前も来い!道連れにしてやる」


「残念だが、死ぬのはお前だけだ。パラライズ」


「グアァアアアアアア」


 陸に打ち上げられた魚の様に、床を飛び跳ねている姿は滑稽だった。


「人間は一人いればいい。事情はあの女から聞き出すことにしようかな。お腹すいたから早く食べたいし」


 ニンゲンってどんな味がするんだろう。レバーみたいな感じかな。それとも肉寿司みたいな生でも食べられるくらいの上質な味がするのかな。こいつが死んだら焼いても食べてみよう。おばあちゃんから魚の目を食べると視力がよくなるみたいな話を聞いたことがあるけど、ニンゲンでも同じなのかな。


「いただきまーす」


「グアァアアアアアア」


 口のなかに大量の血が流れ込んでくる。首筋に嚙みついたからだろうか。


「微妙。もっと若くて健康だったら、美味しいかもしれない」


 無心で食べ続けているといつの間にか男は動かなくなった。どうやら死んだらしい。たまに触ると身体が動くのは、神経だけが生きているからで、新鮮な肉や魚によくみられる現象だった。

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