第7話
「結衣は大丈夫かな?」
あまり考えすぎると最悪な妄想さえしてしまいそうだから、何も考えないように感情にふたをする。大丈夫。きっと俺を待っててくれるはず。
あれから毎日ゾンビを集めては、麻痺のレベルをあげるためにひたすらパラライズと唱え続ける日々だった。その効果もあってか、レベルは3まであがり、効果時間や対象の範囲も増え、いまでは一気に3人に対して効果を発揮するようになった。もし生きている人間が3人組で襲ってきたとしても一撃で無力化できる計算だ。
その結果このフロアにいるゾンビは、縄で繋いでいる2体のゾンビ以外いなくなってしまった。積み上げた死体からは異様な臭いがする。
「さすがに飽きてきたなぁ。人間でも探しに行った方がいいのか。なぁどう思う?」
初老ゾンビは反応しない。じっと虚空を見つめてはよだれをたらし続けている。仲間にはなりたくないようだった。
「ゾンビと会話しだしたら、もう終わりやな」
あの日からどれくらい経ったのか、もう数えることすらやめてしまった。
「どうしたもんかな」
ゲーミングチェアに腰掛ける。50万円近いこの商品は僕の背中を優しく受け止めてくれる。暇を持て余して、くるくる回っていると声が聞こえてきた。
「おい、ゾンビはいないみたいだ」
「し、静かに。誰かいたらどうすんの」
「誰もいねぇよ。俺たちだって死にかけたんだし。ってか見ろよ。お宝の山だぜ」
声が聞こえる。人間の声だ。音を立てないようにそっと様子を見る。棚の間から覗けば、男女2人組だった。年齢はどちらも40代近くに見える。初老ゾンビよりも少し若い。どちらも懐中電灯を持ち、どうやってつくったのか男の方は釘バットを持っている。
ゾンビになってから初めて渇きを覚えた。たぶん生きている人間を見たからだ。ゾンビの身体に心が引っ張られているらしい。あの不健康そうな身体を引きちぎって、丸呑みしてやりたい気持ちをどうにか静める。
もし、あいつらが遠距離武器を持っていたら不味い。俺がパラライズと唱える前に制圧されてしまったら殺される。2人まとめて殺すよりも別れたところを狙った方がいいかもしれない。
「おっ、いいこと思いついた」
僕は実験用に縄で繋いでいたゾンビを連れ、2人組の方へと向かった。
名前:月城 薫
状態:ゾンビ
スキル
人化:Lv1
麻痺(パラライズ):Lv3
対象の3体まで30秒間、麻痺の効果を与える
眠り(スリープ):Lv1
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