第19話 断絶
惨劇の舞台を思い返す。
子供の甲高い泣き声、親の悲痛な命乞い。
それら全てを押し潰す、悍ましい哄笑。
生きるためではなく享楽のために、人間はあれだけの邪悪を尽くせる。
それはとうに分かり切っていたことではあるが、結局どこも変わらないのだなと妙な諦念を感じた。
この世の中に今時、碌な娯楽などありはしない。
教団領では発散できない衝動をぶつける相手としては、成程異教徒が最良だ。
身内を守る上でも、団結を図る上でも――。
「……今の状況を見ても、教祖ワーレンの主張は、情勢や人々の事情と上手く噛み合ったんだと思う。
当時において一神教は異端だったけれど……諸々の付随物は措いておくと、その本質は贖罪だからね。
こんな世の中で、生きていく苦しみに意味を与えたのは大きかったと思うよ。
それで教団は、僅か二百年で他と並び立つまでになった。
そして一神教であるからこそ、規模が大きくなるほど、他教への敵意も激化せざるを得ないんだろうね」
語り終え、一息ついた頃にはエルクの顔は真っ青になっていた。
その顔を見て僅かに頭が冷え、自分は何を言っているのかと情けなくなった。
対話を持とうと言ってきたのが向こうとは言え、これではまるで八つ当たりではないか。
白けたような、それでもやや胸が痛むような、妙な気分になってくる。
一際強く感じたのは、自分と彼ではあまりに感じ方が違いすぎるという断絶だった。
これだけのことを聞かされれば、もう教徒と違ったものの見方を知りたいなど、二度と思わなくなるだろう。
これきり話をすることもあるまい――それがお互いのためだ。
辛いばかりのものなど見る必要はない。
周囲が創り上げたやさしい籠に閉じ籠もっていれば良い。
実際それはある意味何より幸福なことで、それを享受できる者は世界を見渡したとて決して多くない。
そうした生き方がこの少年のためだと思うし、何よりシノレ自身の平穏のためであった。
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