第16話 真相

新しくつけた燭台の火が小さく揺れている。

それからややあって、黙り込んでいたエルクがぽつりと呟いた。


「昨日から。

君と話をしてみたいと、ずっとそう思っていました。

恐らく君は僕に見えず、見ることを許されないものを見ているひとだから」


既に部屋に入り込み、椅子の一つに腰掛けている。

来訪者があまりに予想外で呆然としてしまい、止める間もなかった。


「……まずは、連絡を。

明日以降は僕の傘下に入って戦って貰うということになりました。

そういうことですので、お願いします」


「それは、……はい。承知しました。

よろしくお願いします。

ご要件はそれだけですか?」


「いえ、まさか」


しかし、それきりまた黙ってしまう。

そのまま俯いていたが、やっと再び顔を上げた。


「僕は、何も知りませんでした」と、

赤みがかった色の目が、シノレを見つめる。

「今回のエレラフの鎮圧について。

どうしてこのようなことが起こってしまったのか、君の思うところを聞かせてくれませんか」


「お付の方が、幾らでもそうしたことは教えてくれるでしょう。

何も僕などにわざわざ……」


「いいえ。

僕の元へ届く情報は様々に選り分けられ、多くが遮断されています。

……僕が心を乱さぬよう、迷うことがないようにと」


「正しいことでしょう。

ワーレン司教は下賤の者の考えなど、お耳に入れて良いお立場ではないのですから」


「……それが、嫌なのです。

だから君を訪ねました。

此度のことについて。

君には、何か、考えがあるのではないですか?

何も、聞き出して罰しようというのではありません。

ただ知りたいのです」


「……それを知って、どうするおつもりなのですか?」


警戒心が沸き起こる。

エルクの、その真剣な顔に悪意は感じない。

だからといって、用心しなくていいことにはならない。


「ワーレン司教に要らぬことを吹き込んで悪影響を与えたとなれば、猊下はお怒りになるでしょう。

後々問題になった場合咎めを受けるのは僕なのですが、それをお分かりですか」


思いの外声が尖ってしまう。

知りたいという望みは良いが、そのために生じる諸々の影響は知ったことではないというのなら、それは権力者の傲慢というものだ。


だがエルクはそれに、寂しげに微笑んだ。

「猊下とはもう何年も、私的な会話の一つもしていません。

僕の立場がどういうものかは、君にも分かるでしょう。

ワーレンの一人と言えども僕の影響力など些細なもの、聖者様に到底及ぶものではありません。

……まして、人死にを前に倒れかけるような僕が。

そんな情けない有り様で何かを主張したとて、誰が耳を傾けるでしょう。

心配しなくても、君が言うのはただの独り言です。

僕はそれを偶々聞いてしまっただけです」


そこまで一気に捲し立てて、いよいよ切羽詰まった調子で続ける。


「お願いです。知りたいのです。考えたい。

これ以上の無様を晒さないためにも。

そして君は、本来僕に与えられない考えを教えてくれると思うから」


初対面の物静かな印象はどこへやら。

形振り構わず頼み込むその顔に、どうしてか妙な懐かしさを覚えた。

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