第9話 商都
商都ウリマッセは乾燥熱帯地域で、みな日除マントを羽織っている。交通の要衝として様々なヒト物が集まり、情報さえ売買される。道を歩けば頻繁に肩と肩がぶつかる。だがそれが日常茶飯事なのか、誰も気にする様子はない。
情報屋の居場所を方々で訪ね歩き、軽薄そうな男を紹介され暗い路地に入る。
「シズカナルぅ? 知ってるよ」
「どこにあるんだ?」
「それは知らなぁい。どうせ架空だろ?」
「何か手がかりでも!」
「情報料か、価値ある情報と交換だな」
「えっと……」
タクスは自分が知る珍しい情報を考えるが、目ぼしいものは浮かばない。
「チサキ国王女は娼婦となり生きている」
レイヒが割り込む。
「チサキ国ぅ~? ……あぁ、あの小さいとこね、帝国に潰されたんだっけ。信憑性は?」
「私が当人です」
なぜか胸を張る。
「……ま、噂話としては同程度か。青髪青眼褐色肌のシズカナル人だけがその地を知る、らしいよ」
「その人はどこに?」
タクスが尋ねる。
「……情報料」
今度は具体的らしく、信用のない二人には釣り合う情報が出せない。やむなく現金で支払った。
「サカエールっていう海を渡った先にある都市に、とんでもない大商会があるんだけど、そこの会長夫婦が今言った特徴を持ってるよ」
「また船か……」
「た、だ、し! そこはもう倒産したねぇ。何でも夫婦が死んだからってね」
「なんだよ、金返せ」
「ノノノー。話はここからだよ。その夫婦には一人娘がいてね、その子がこの街に売られてきたって噂さ」
「どこにいるんだ?」
「……情、報、料」
「こいつ~……」
タクスはどこを殴るか考え始めた。
「タクス、もう十分です。あとは私達で捜しましょう」
「結構広いぜ?」
「その娘さんの事情は分かりました。ここからは、蛇の道は蛇ですよ」
レイヒが目星をつけ、タクスが聞き込みをする。案外見つけるのは容易だった。その特徴的な容姿は記憶に残りやすく、また売り文句にもしやすい。
タクスは一人、ある店に入る。
「いらっしゃい」
老婆が受け付ける。
「要望はありますか?」
「青い髪で、褐色の肌の子がいるって聞いたんだけど」
「はいはい、今ちょうど空いてますよ。向こうの八番の部屋へどうぞ」
狭く、薄暗く、なぜかじめっとした空気。通路の両側に個室が並び、入り口は布一枚で仕切られただけだ。そこかしこで男らの息遣いと腰使い、少女達の喘ぎ声が聞こえた。
八と書かれた個室の布をぺろっとめくると、人一人が寝転がれるだけの空間に、浅黒い肌の裸の少女がいた。汗と香炉の混じった臭いが充満している。ここはただ行為をするだけの部屋だった。
少女が服を脱がそうとする。
「待って。君はシズカナルを知ってるか?」「……知りません」
「俺と女、二人でそこに行きたいんだ」
「知りません……」
服着たまま始めたい人なんだと思った少女は、タクスの首筋を舐めようとする。タクスはそれを引き離す。
「君みたいな幼い子が、こんなとこにいちゃいけない」
どこかで聞いたような台詞に自己嫌悪する。
少女は察する。あぁ、説教してから偽善と背徳感を楽しみたい人かと。それに応えようと台詞を考える。
「……どうしても、お金がいるんです。頑張ってお金を稼いで、お父さんの借金を返したくて……。でも、私、なんにもできないから……、こういう事でしか働けないんです。お願いします。お金を稼ぐの……手伝ってくれませんか?」
しょうがないなぁ、と血迷って言いそうになるのをこらえる。
このままでは進展がなさそうなので、タクスは一旦店を出ることにした。
受け付けの老婆に止められる。
「おや、もうお帰りですか? 何か粗相でも……」
下手なことを言えば、少女が叱責されるかもしれない。
「いえ、……気持ち良くってすぐ出ちゃいました。はは……」
「そ、そうですか。それはよろしゅうございましたね。是非またお越しください」
店を出て近くの喫茶店でレイヒと合流する。
「あら、早いのね。早漏?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます