プロローグ 出会い 2
「ちょっと待っててくれ」
軍服で行きかう人々に不審な目で見られながら、部屋の前で待たされることになった。どたばたと扉の奥で音がしている。あ、何か重い家具がひっくり返った音だ。文字通り、部屋中をひっくり返して探しているんだろうけども。財布くらい分かるような位置に置いておけよマジで。
仕方ないので、回廊に背中を預け、周囲を眺めてみる。明らかな金属の壁に、床には褐色のカーペットが敷かれてある。これ、専用クリーナーで一網打尽な奴だ。材質が全く一緒。
と、何か警報のようなものが鳴り響く。
飛び出してくる先ほどの青年。
「おう、お前はここにいろ!」
「なんかヤバいの?」
「このアラートは宇宙怪獣だ!」
それだけ告げて行っちゃったよ。俺どうすりゃいいのここで。
慌ただしい人の行きかう廊下で、立ち止まっていた俺。その袖が思いっきり引っ張られた。
「わ、何!?」
視線を向けるが、いない。下に移動させると、小さな色の白い肌をしている、金髪の女の子がそこにいた。タレ気味の大きな碧眼を厳しくしているけれども、それでいて尚、可愛らしい。
「パイロットが何を油売ってるんですか! ほら、一緒に行きましょう!」
「行きましょうっつったって、君誰だよ!?」
「ワタシの説明はもうされてたでしょう、博士です。は・か・せ! ほら、アナタの機体もありますから!」
「え!? えええええ!?」
俺の機体!? マジで!?
連れていかれた場所は、アーマースケイルの格納庫だった。色とりどりのカラバリが並ぶ中、緑色の機体にぶち込まれる。
「は!? え!?」
「ご武運を! 名前だけ、聞いておきます!」
「り、竜胆飛鳥」
「アスカ君、生きて会いましょうね!」
ハッチが閉められる。え、ええっと……何で俺、パイロットだと思われたんだ?
右手を見る。そうだったな、これはアーマースケイルの運転免許証みたいなもんだからな、今現在。そりゃそうだ、勘違いもするさな。
でも、こんなの動かし方、全くわかんな――
……まず、エネルギー供給装置をオンにする。そしてディスプレイにReady? の文字が浮かぶので、右手の甲にある紋章をかざす。
機械全体が起動。後の操作はここに指を突っ込めば。液状の中にある五個あるリングに指を通し、握り締める。そして個人の指の大きさに合わせて収縮が行われた。これは指を介して神経とリンクして、機体を自分の体のように操作できる神経感応式リンクシステム。
発進番号が来た。オーケーのシグナルは音声だったな。
――何で俺は、こんなことができる? やったこともないのに?
「システム、オールグリーン。発進待機」
『発進許可、どうぞ!』
「竜胆飛鳥、アーマースケイル03、発進します!」
いや、何ほざいちゃってんの俺。そして、何で体が勝手に動く。
カタパルトから射出される。勢いはGナチュラライザーで消されて……いや、何でそんなことが理解できてんだよ。どうなってんだよ。俺初めてこれに乗ったんだぞ?
レーダーが敵影を捕らえた。相変わらずのキメラっぷり。宇宙怪獣は光線を放ってきたが、フロートペダルを踏みながら位置を変えてそれを避けつつ、武器を起動。
魔力による同じく熱光線を発し、維持する柄――つまりビーム兵器、ビームエストック。
一点集約で貫通力を高めたそれを、怪獣の脳天に叩き込み、引き抜く。それらを素早く七度繰り返し、最後に背後へ振り向きながら一閃。そのまま離脱。
……なんで、こうもスムーズに動けるんだ? 俺、どうなってしまったんだ?
いきなりアーマースケイルに乗せられて、いきなり戦えてしまって……。
『こちら北斗圭司。なんだよ、お前やるじゃ……飛鳥!? お前何でそれに乗ってんだ!?』
ディスプレイに映ったのは、先ほどの青年だった。
「し、知らねえって! 何か急に乗せられて……」
『何で操縦できんだよ!? それ訓練がいるんだぞ!』
「いや、何か知らんけど乗れる……」
『んなわけあるか!』
「あるんだからしょうがねえだろ!?」
ふとディスプレイに割り込んできた、先ほどの金髪幼女。酷く慌てているが。
『も、申し訳ありません! み、右手に適格者の紋章もありましたし、てっきり……! ホクトさん、彼は一般人です! 搭乗するはずだった榊原さんはまだ寝てます!』
『マジでか……』
「いや、なんかごめん。何で俺、紋章持ってんだろうね……」
『おい、まだ敵の反応が三体あるぞ! 一匹任せていいか! 任せるぞ、いいな!』
「え!? あ、ちょ……!?」
北斗と名乗った青年のポップアップが消えた。
深く考えない方がいい。無理だって無理。諦めろ。現実を知ろうぜ。
俺はこれを動かせてしまう。それを求められているのならば、やることは一つ。
「……やりますか」
魔力残量九十四パーセント。余裕だ。
フロートペダルを再び踏み込む。浮かび上がる視界だが、不思議と怖くない。何故か、懐かしさすら感じるほどに自分の体に馴染んでいく。
いつの間にか、体に満ち溢れているこの力の使い方も、何となくだが理解できていた。
ブーストペダルを踏みこむ。空中ではアクセルペダルが意味をなさない。アクセルペダルはあくまで地上用。空中の推進にはブーストペダルを踏む必要がある。
ペダルには種類がある。ブレーキ、アクセル、ブースト、ブーストブレーキ、フロートの五種類を踏み分けねばならない。慣れないうちは誤作動させる人間が山ほどだったが……何で俺はそんなことを知っているのか。何で意識もしてないのに操作をトチらないのか。分からないことだらけだが、今はそれは横に置いておく。
敵が迫ってくる。いや、実際はこちらが近づいているわけだが。
北斗の機体だろうか。青の機体に狙いを定めて向かって行っている今がチャンスだ。
時間が緩やかになっていく。泥の中にでもいるかのように全ての動きが鈍る中、こちらの速度だけは変わらない。自分の中で力が燃えている感覚。不完全燃焼感はある。これが全力でないのは分かるが、全力を出したら――遅くなるだけじゃすまないと、何故か理解できてしまう。
緩やかな時の流れの中、一陣の風となった俺が、宇宙怪獣をビームエストックで貫き通して抜けいく。更に、ビームマグナムを取り出し、一発遠くの北斗に近い宇宙怪獣に放つ。
刹那に、時が追い付いてきた。
貫通と貫通。貫かれた宇宙怪獣は体内の魔力を制御できずに爆発、撃たれた怪獣も同じ。
豪快な拳の一撃で一体を殴り伏せた北斗の機体がこちらを見る中。
『お疲れ様です! 凄い戦果です……あ、あれ!? アスカ君!? アスカ君、しっかりしてください! アスカ君!?』
俺は荒い呼吸を整えながら、しかし平静を保つのも難しく……混乱の中、なんとかヘカトンケイルに着陸し、意識を失った。
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