第10話 アルテ・ランドという男10
『おっ、お帰りなさいませ村長ォオオオオオーーーーーッ!!!』
「ってうおお!?」
その日の夕方。『痛みの森』から帰還した俺を、なんと村人が総出で出迎えてくれた。
なんかみんな「よくぞご無事でぇ!」「がえっでぎでぐだざっでよがった~!」「おぉ救世主様ぁぁあああ~!」と泣き喚いている。
メイドのシトリーさんなんてチワワみたいに震えながら前に出てきたあと、「も、戻ってきてくださったのですねぇぇぇ……!」と噛み締めるように呟き、くずおれるように跪いて祈りのポーズを取り始めた。まるでこの世で神にあったような大げさぶりだ。なんなの?
「うわぁパイセン愛されてますねェ!? 何したんスか一体?」
「別に大したことはしてねーよ。彼ら、元々隣領から押し付けられた病人とかだったから、全員分の家を事前に用意したりメシと薬大量に用意して癒しただけだよ」
「めちゃくちゃ救ってるー!? そらああなるっスよ!?」
そ、そうかぁ?
「住民の衣食住や最低限文化的生活を保障するのは、市町村長なら普通のことでは……」
「そんな上役いませんよ! いや働けない人はフツー切り捨てますからね!?」
って、ああそっか。この世界そのへん中世なんだったわ。
いかんなぁ、前世の意識でたまにズレることがあるや。
じゃあこれからは住民に厳しく――するのはナシだな。なんで俺のほうが意識変えないといけないんだよ腹立つ。
俺は俺のままでいいや。自分の好きに生きて、嫌いなものは消す。それがスローライフだよな。
『それただの暴君ッッッ!』
(うざナイフくん)
俺は村人に見えない亜光速の速さでナイフを宇宙に投げた。星になった。ばいばい。
「ともかくみんな、ありがとう」
俺を出迎えてくれた村人らに向き直る。
「俺は最強だからな。どこに行くとしても、必ずみんなのところに戻ってくるから、安心しろ」
『村長ぉぉお……!』
「俺とみんなで、このランド村を最高にスローライフできる地にしような?」
そう言うと、村人たちは『はぁああああああああいッッッ!』と力強く頷いてくれた。ははっうるさ。
「というわけで、おみやげを持ってきたぞ」
俺はフードに手を突っ込むと、そこから一軒家ほどの巨大牛『キング・ブル』を取り出した。
「ってデッカぁあああーーーーっ!?」
「なんですか村長これぇ!?」
「ず、図鑑で見たことあります! これ深層級の魔獣では!?」
わーぎゃーと騒ぎ出す村人たち。はっはっは。苦労して運んできた甲斐があったよ。
フードには入るけど重さ的に運べないから、いったんフードに入れてから一億年くらい【時間操作:
ちと面倒だったが、病み上がりのみんなにたっぷり食べさせたかったからね。魔獣肉ってめっちゃ栄養あるし。
「よぉーしっ、みんな好きなだけ持って行ってくれ! 栄養付けて明日からも頑張ろうな~!」
『う゛ぉおお゛おおお゛おおおーーーーぞ゛ん゛じょぉおおおおおーーーーーーッッッ!!!』
かくしてこの日、俺たちは村の中央にて大火と鉄板を用意し、みんなで焼肉祭りをするのだった。
これはスローライフ!
◆ ◇ ◆
数週間後。ついにその日が訪れた。
ランド村の門前に、王国紋章付きの馬車がやってきた。
月に一度、ちゃんと『痛みの森』を調査できてるか調べに来たのだ。
「ようこそおいでくださいました、監査官殿。長旅お疲れでしたでしょう。ああ、自分の名前は」
「ふん、挨拶は結構だよアルテ・ランド村長」
馬車から降りてきたのは瀟洒なスーツの老紳士さんだ。ナイスミドルだぜ。
「私はヒラム。王族直属の未開域開拓監査官である。私がキミに求めているのは結果のみだ」
「は」
ツンとすました監査官殿に頭を下げる。
特に不快感はない。俺の黒髪を馬鹿にすることもないしな。この人は。
「……ちなみに本来はボイドという男が監査に訪れる予定だったが、少し前に不審者に襲われて再起不能となった」
「そっすか」
本来の歴史では監査官な人ですね。
俺を差別したので、過去に戻って半殺しにしました。歴史からばいばい。
というわけで二人目がこの人ですぅ~。
「釘をさしておくが、賄賂も媚態も私は求めん。下した評価はそのまま上に伝えることを留意したまえ」
「かしこまりました」
そりゃ安心したよ。逆に言えば、『接待してくれないと評価しないぞ』ってことはないんだからな。
その点、ボイドって野郎は俺を馬鹿にした上に酒とか金とか要求してきたから以下略。
音速ケツキックで骨盤五十六個に粉砕骨折させるの気持ちよかったねぇ。
「ではヒラム監査官殿。どうぞこちらをお受け取りください」
そう言って俺は『痛みの森』の調査報告書を渡した。最初に森に潜った日から数週間、ちまちまと書き上げ続けたモノだ。
「む、分厚いな」
「申し訳ありません、文章を纏めるのは苦手なもので」
「ふん。薄い内容を水増ししていたら評価を下げるぞ」
毅然と報告書を受け取る監査官。そして静かにめくっていくと、やがて彼は難しそうな顔をし始めた。おん?
「監査官殿、何かご不満が?」
「い……いや、逆だ。とてもよく調べられている。表層に現れる魔獣二十四種、中層より比較的高確率で迷い込む魔獣三種、中層までのルート十六パターン、おおむね安全な野営地三十八か所、その他主な薬草に……うぅむ」
あぁよかった。どうやら怒ってるわけじゃないようだ。
「んん……一か月でよく調べ上げたものだ。この報告書があれば、表層の範囲内ならば安心して冒険者も送り込めるだろう。中層探索をする上でも橋頭保となる。賞賛遣わそう、アルテ村長」
「恐縮です、監査官殿」
再度頭を下げる俺に、ヒラムさんは一つ頷き、「さすがは【黒雷】。冒険者ギルドマスターのお気に入りという噂は、本当だったか」と何やら納得していた。
その二つ名と噂、目立っちゃうからやめてほしいなぁ。
「うぅむ……正直に言えば、最初の一か月は探査よりもまず村づくりに精いっぱいになるものと思ったのだが……」
彼はどこか呆れた表情になり、言葉を続ける。
「私は『痛みの森』の調査具合に加え、貴殿の村長としての立ち振る舞いも図るのが仕事だ。一応聞いておくが、村人から死者は出したか? 浮浪者はいるか? 統制は出来ているか?」
そう聞いてくるヒラムさん。そんな彼に、俺は苦笑しながら村のほうを指さした。
そこには、すっかり健康な肌ツヤとなった村人たちが居並んでいて……、
「なんかあの爺さん、われらが偉大なる村長様に高圧的では……!?」
「村長様ァーーーッ! いじめられたら呼んでくださいっ、バトルします! しゅしゅしゅしゅ」
「村長様を監査するなど無礼千万……! 神の偉大さを疑うかのような愚行……ッ!」
どいつも、なんかヤバそうな雰囲気で監査官殿を見ていた。
「あーー、アルテ・ランド村長……。どんな手腕をしてるか知らんが、村人にアホほど慕われているのはわかった。だが……」
「はい……」
「彼らの手綱は、しっかりと握っておくように……!」
そうガチめな声で注意されてしまった。俺は常識人なのにちくしょー!
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ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
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