第7話 アルテ・ランドという男7
「準備完了、と」
黒いフードに複数本のナイフを隠し、身に纏う。
そして黒布を口元に巻いた。これが俺の冒険者スタイルだ。
一般的な冒険者たちは華やかな衣装を纏う傾向がある。格好良く目立つことで、吟遊詩人に謳われるためだ。この辺は名乗りを上げる騎士と変わらないな。自己顕示欲を満たし、かつ伝承となることである種の不死性を得ようという魂胆だ。
しかし俺にはそういう欲がない。
暗殺者紛いの恰好で結構。目立たず急所を突いて終わりだ。仕事はサクッと片付けるに限るよ。
「じゃ、行くかティア」
「はいっ、パイセン!」
猫ピンク後輩のティアと玄関に向かう。これから軽く村を案内しながら森に向かって、彼女を補佐しつつ調査する予定だ。
そうして家を出る俺たちを、エルフメイドのシトリーさんが見送ってくれる
「いってらっしゃいませ、愛おしいご主人様」
彼女の表情は心配に曇っていた。
「ティアさんもどうかご無事で。戦えないわたくしの代わりに、ご主人様のことをお頼み申し上げます」
「っスっス。パイセンは絶対生きて帰すっスよ!」
「どうかよろしくお願いします……!」
やはり不安らしいなシトリーさん。こりゃさっさと元気に帰ってきて晴らしてやらないとな。
「愛おしいご主人様、必ず無事に帰ってきてください……それと」
それと?
「どうか、ご童貞のまま帰ってきてくださいませ……!」
「何を心配してるんだシトリーさんっ!?」
◆ ◇ ◆
「あそこが酪農地だな。今はコッコだけ飼ってるが、いずれはブルも飼う予定だ。で、あっちの川辺には水車小屋を建てた。病気前はパン屋や米屋だった村人がいるから、脱穀や粉ひきついでに管理してもらう予定だ」
「へぇ~しっかりした村っスねぇ」
森に向かう道すがら、ティアに村を案内していく。
「あまり工期はかけられなかったからな。住宅が画一的でシンプルすぎるのがちょっと気になるな。ま、ここは元大工の村人にいじってもらうが」
「住む分には十分っスよ~。数も百軒くらいあるし、よく急ピッチで用意できましたねぇ。だいぶお金かかったのでは?」
「ははは」
仕返しにパチッた金だから痛くもかゆくもないな。
「他にも用意中の施設はあるが、その紹介はのちのちだ。ここからは引き締めていくぞ?」
「はいっス……!」
村から出たところで気を張ることにする。
例の『痛みの森』から魔獣が出ることはあまりないらしい。が、あくまで少ないだけで、絶対じゃない。道中でいきなり魔獣に出くわして殺されることもありえるからな。
そいつは俺とて例外じゃない。【時間操作】する前に頭割られたらフツーに死ぬしな。
「
「えへへ、索敵ならおまかせっスよ。でもたまに辛い時もあるんスよね~、体臭がきつい人の側とか」
「へー、ちなみに俺の匂いはどうだ?」
日本人時代のメンタルで、出来るだけ清潔なのを心がけてるが。
「ぱ、パイセンの匂いっスか? それは……でへへっ……!」
なんだその笑いは!?
◆ ◇ ◆
「さていくかー」
たどり着いた『痛みの森』。一見すると普通の森林に見えるが、木々の向こうに見える景色は、徐々に毒々しい深紅に染まっていく。
「うへぇ……奥に行くほど、葉っぱの色がおかしくなってるみたいっス……」
「魔素の影響だな。魔力をエネルギーとする魔物たちは、魔力の源となる魔素が濃い地じゃないと生きられない。そして魔素には物理法則を歪める力があるため、濃い場所ほど木々の色合いや大きさがおかしくなる」
ゆえに中央に向かうほど異様な光景が広がるってわけだ。敵も強くなるしイヤだよな~。
「怖気づいたか、ティア?」
「いえ、大丈夫っス。いきましょうパイセン!」
慎重に森に踏み込む。そうして十歩ほど進んだところで、
「ッ、パイセンなんか来るっす!」
『ギシャァーッ!』
木の天辺から赤目の巨大雀が飛び掛かってきた。ブラッドスパローか。
「いきなりか、よっと」
懐から漆黒のナイフを投げる。そいつが脳天にサクッと刺さって終了だ。巨大雀はそのまま『キュァアァ……?』と困惑しながらおっこちた。
「結構うまいんだよなぁ、ブラッドスパロー。たんぱく質が多いのかなぁ。コッコよりも野性味が強い感じで、串焼きにすると道中のいいエネルギー補給になるぞ」
塩味もあるから塩分補給にもなる。コリコリとした肉質も砂肝感あって好きだ。
「ふぁあぁあぁっ……パイセン、あっさり倒しちゃいましたね……。すんごい速さでナイフ投げて……」
「まぁな」
自分の時間を加速させただけだ。あとはズル筋パワーで投げれば、だいたいの敵は貫ける。
「さて、帰ってこいナイフくん」
そう言うと、雀の頭に刺さっていたナイフがひとりでに浮き上がった。ティアが「わぁっ!?」と声を出す。
「もしやそれ、魔装っスか?」
「ああ」
――魔装。それは魔獣の素材から作られた武装のことだ。
魔獣の素材は強靭で加工が難しいが、手間暇さえかければ強い武器になってくれる。
「このナイフは鉄鋼製ゴーレム『ブラック・ネロ』の黒鋼を刃に、上位アンデット『ダークリッチ』の骨を柄とすることで生成したモノだ。決して刃こぼれせず、また俺がリッチの頭骨部から作った核のナイフを有している限り、こちらに戻る特性を持つ」
ぶっちゃけ貧乏性で作った魔装だ。初期費用こそとんでもなくかかったが、壊れないし自動回収機能あるから、もうだいぶ長いこと使えてるよ。コスパよし。
「ティアは使わないのか? 魔装。まぁ駆け出しには高すぎるだろうが」
「うぅ……それもあるっスけど、でもティア知ってるっスよ。魔装って、魔獣の魂が宿ってて、使い手の脳内に奇声を出してくることあるんスよね……!?」
「あー」
あるなぁ。特に俺のはうざいわ。人語も話せるかしこい系アンデットの『ダークリッチ』素材にしたから、よく色々言ってくるよ。
たとえば今だって……、
『スローライフじゃない……!』
(あ?)
『憎い相手を過去に戻って指潰したりッ、お金盗んだりッ、それでポンと家を建てるのはスローライフじゃないッッッ! 異常者!』
(うるせー)
とこのように、グチグチ細かいこと言ってきやがる。
あーあ。最初はあんま理性なくて、『恨めしやァァァァ……!』とかだけ言ってたのになぁ。
時間止めて不都合なことちょくちょく消してスローライフしてたら、『え……貴様なにやってんの……?』とか困惑しはじめて、今やこれだ。
『世界の癌!』
(うるせーな。あんま騒ぐとスローライフにするぞ)
『ひっ!?』
ナイフは黙った。それでよし。
「パ、パイセンどうしたんスか?」
「ちょっとナイフと話してただけだ。たしかに頭の中がうるさくなるが、仲さえよければたまの暇つぶしになるぞ」
「ほぁぁ、そういう考えも……!」
さすがはアルテパイセン、と俺を慕ってくれるティア。いい後輩だ。
「パイセン、ナイフと仲いいんスね~」
「マブの相棒だよ。なぁ?」
『えっ』
「なぁ……?」
『は、はい!』
ナイフはコクコクと空中で頷いた。
友情確認! う~んこれはスローライフ。
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