第3話 アルテ・ランドという男3(ヒドロア男爵視点)
「くそ、まだ下手人は見つからないのか……!」
壮年の男が机を叩いた。
彼の名はヒドロア・フォン・マクレガー。付近一帯を治める男爵である。豪奢なスーツが特徴的な男だ。
「くそっ、くそ! ふざけるなよ! 誰が私の金を奪ったのだっ!?」
二か月前より彼は苛ついていた。
なにせ、贅沢のために貯め込んでいた隠し財産が、何者かに奪われていたのだから。
「――あ、あの、男爵」
と、その時だ。ノックと共に声が掛けられた。ヒドロア男爵が「なんだ!?」と怒鳴ると、鎧の男がおずおずと顔を見せた。
「ただいま戻りました。例のアルテ・ランドのところに、口減らし連中を届けてきました」
「おぉそうか!」
男爵の口元に笑みが浮かぶ。それは嗜虐の笑顔だった。
「ぬふっ、話を聞かせろ。例の黒髪男め、泣きそうな顔になってたんじゃないのか?」
ちょうどいいストレス発散になる。そう期待する男爵だが、しかし。
「いやぁそれが……いつの間にか、立派な家が建ってまして……!」
「は、はぁ!?」
「アルテの野郎、こうなることを予測してたみたいでして。全然堪えてなくて……!」
「ふざけるなよっ!?」
男爵は鎧男にペンを投げつけた。「ひぃっ!?」と咄嗟に避ける鎧男。そのせいで、片足の不自由な彼は転倒してしまう。
「くそっ、くそ! 金を奪われ、あげくに戦場でたまたま活躍した黒髪男に、近隣に村を建てられるだと!? 早々に排除するための策も無駄に終わっただとぉ!?」
怒りのままに机の上を薙ぎ払った。領地運営に関わる書類が舞うが、どうでもいい。
心血注いで運営する気などさらさらなかった。顔も名前もロクに知らない領民どもなど、放っておいてもどうせ増えるのだから。
「チッ……腹の虫がおさまらんな。よし決めたぞ。今月より税を二割増しとする。さっさと徴収に行ってこい」
「なっ、二割増しですか!?」
「貴族に質問をするな! 返事は!?」
「は、はひぃ!」
慌てて立ち去ろうとする鎧男。しかし小指の潰れた足の感覚になれず、思わずもう一度転んでしまった。
その様子に、男爵は「はっ」と嘲笑を飛ばす。
「やれやれ、不思議でならんなぁ」
「な、なにがでしょうか……?」
「貴様のような落伍者を、あの病人の集団に混ぜなかったことだよ」
「っ……!?」
悔しさに、鎧男は拳を握り締めた。
一体これは何の悪夢か。病人らを馬鹿にしていた彼は、気付けば自らが罵られる立場になっていたのだから。何かがおかしい。
「じ、自分は、違います! あんな連中とは違います!」
「ふんっ、だったらさっさと九本の指で立って働け。貴様の代わりどころか、上位互換は山ほどいるのだからなぁ」
「ハ……ッ!」
頷き、理不尽なる重税の徴収に鎧男は向かう。
当然ながら領民らの苦悶の声を聴くことになるが、その声は男爵に届かず、彼が浴びることになるだけだった。
「――ク、クククク……! まだだ、まだだぞアルテ・ランド」
鎧男の屈辱も知らず、ヒドロア男爵は醜く笑う。
「貴様が調査を命じられた『痛みの森』は、私さえ開拓に失敗した凶悪な魔物うろつく危険地帯だ。それに……!」
クククッと喉を鳴らし、執務室の窓からランド村の方角を睨んだ。
「貴様に寄越した病人の中には、現代の医学では治しきれない感染病者もいるのだからなぁ!」
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