第2話 アルテ・ランドという男2
――スキル【時間操作】。それが俺の持つ超常の異能だ。
なぜ持っていたのかは知らない。前世という別の時空間を知る魂であるゆえか、あるいは誰かに持たされたのか。
全知全能と謳われた『古の賢者アルテ』なら答えをくれるかもしれんが、未来の病原菌を持ち込んでしまったら大惨事なので、大昔に飛ぶことは控えている。
ともかく俺は、『時間』に関することなら大抵のことは出来る。
たとえば肉体や物体の時間を操ったり、あるいは過去にちょっとだけ飛ぶことで……、
「家が! 家が!?」
「何を驚いているんだ? さっきからずっと、家々ならそこにあっただろう」
「ッ!?」
そう。俺の背後には立派な家屋がいくつも立ち並んでいた。
「男爵の手を煩わせるのも悪いからなぁ。ある金を使って、二か月前から職人を大量に雇って建てさせたんだ。ここに来るまで見えなかったか?」
「っ……あ、ああ、そう、だったな。そういえば途中から、いくつかの家が見えてたわ……」
ああ、そうだったそうだった……と、鎧男は自分に言い聞かせるように呟いた。
どうやら一瞬だけ違和感を覚えてしまうらしいな。過去が改変されると。
「ちょうどよかったな。どうやら男爵の寄越した力自慢たちは、ずいぶんと貧相らしい」
俺は荷馬車の上の病人たちを見た。
彼らもまたポカンとし、そして、わっと顔を明るくさせた。
「こ、こんな村に住んでいいのかーっ!?」
「もう、終わりだと思ってたのに……!」
「おぉぉおおお……!」
涙ながらに感動している者もいた。
土地を切り拓けと言われたときには絶望しただろう。だが辿り着いてみれば、村長が用意周到に住処を用意していたんだからな。嬉しくなったようで何よりだよ。
さて、
「おい鎧男」
「っ、オレのことかよ!?」
「そうだ。お前に一つ問う」
これは確認だ。お前が、変わってないかどうかのな。
「この地に送られた病人たちを、可哀そうだと思わないか?」
「ハッ、ふざけんなボケ!」
「そうか」
鎧男は俺の足を踏もうとした。ああ――変わってなくてよかったよ。
「おかげで、罪悪感を感じない」
「なにを……って!?」
鎧男はバランスを崩して倒れた。「ぐぅっ……」と無様に地で呻く。
「気を付けろよ。だってお前、足の指が一本不自由なんだろう?」
「っっっ!?」
彼は冷や汗をかきながらブーツを脱いだ。すると、右足の小指がひしゃげて変形していた。
「あっ……ああぁああっ!? な、なんでぇ……!?」
「歩き方が不自然だからわかったよ。それ、どうしたんだ? 誰かにやられたのか?」
「ッ!? そ、そうだ……! 前に夜街で、変なフードの男にボコボコに殴られて、足の小指を踏み砕かれて……!」
「そうか、そうか。お前は乱暴そうだからなぁ。やり返される覚悟もなくヒトを傷付けて、どこかで恨みを買ったのかもなぁ?」
「っっっ~!?」
男は激昂して殴りかからんとした。だが変形した小指を見て逡巡し、握りかけていた拳を解いた。はは。
「『片足が不自由じゃ喧嘩しても負けそうだ』、ってか? どうやらその傷はお前に自重を与えてくれたようだな」
「う、うるせえ!」
「その調子で
「なんだよスローライフって!? くそっ、テ、テメェのことは苦手だっ! 帰る!」
男は病人らを降ろすと、さっさと引き返していってしまった。
ヒドロア男爵によろしくな~。きっと大変な思いしてるだろうから。
「……さてと」
俺は村人となる者たちを見渡した。
全員、『前の時間軸』よりかはイイ顔で立っている。体調は相変わらず悪そうだがな。
「さてお前たち」
『っ!』
「俺の名はアルテ・ランド。このランド村の村長になる男だ。まずはみんなの名前を聞きたい」
と言うと、七十二名の者たちがおずおずと順々に名乗っていった。ふむなるほど。
「把握した。前列の右側から、バエル、アガレス、ウァサゴ、ガミジン、マルバス、ウァレォル、アモン、バルバトス、パイモンにブエルに……」
『!?!?!?』
村人たちは驚いている様子だ。「もう顔と名前を覚えたのですか!?」とざわついている。
ふ、ふふふふふ……言えない。
本当はいちいち時間止めて、メモ取りながら覚えたなんて言えるわけがない……! ちなみに一度覚え間違えて時間巻き戻しました(一敗)。ごめんねぇ。
「……セーレ、ダンタリオン、最後にアンドロマリウスと。よし覚えたぞ(うれしい)。全員、これから俺とよろしく頼む」
頭を下げると、『こちらこそっっっ!』と元気いっぱいの声が返ってきた。よしよし。
「よし、見ての通り、全員が住める分の家は用意したからな。備品も取りそろえたので安心してほしい」
『アルテ村長ぉ……!』
って家に住めるくらいでなに感動してるんだよ。
雨風凌げるなんて当たり前の話で……って、これは前世の常識か。いかんな。たまにズレることがあって困る。
「さて、いつまでも突っ立てるわけにはいかないな。お前たち。村長権限で、全員に仕事を言い渡す!」
『っ!?』
村人たちの顔に緊張が走る。ひそひそと、「自分たちに出来る仕事なんて……」「私たち病人にこんなによくしてくれたのは、何かウラがあって……?」「こ、この村に住めるなら、危険なことだって……!」と、囁き合い始めた。
「やれやれお前ら。勘違いしてるぞ」
溜息を吐きつつ、俺は彼らに言い放つ。
「大量の食糧と、医療品を用意した! 全員しばらくは飯食ってクスリ飲んで元気になれっ! それがお前たちの仕事だ!」
『オッ、オオオオオオオオオオォォオオオオオッ!!!』
いちいち反応が大げさな村人たちだ。
……さて、いったん時間を止めて、ハンカチを大量に買ってこないとな。
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・スローライフ(足の指を砕いて歩きづらくするの意)
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