第2話 アルテ・ランドという男2



 ――スキル【時間操作】。それが俺の持つ超常の異能だ。


 なぜ持っていたのかは知らない。前世という別の時空間を知る魂であるゆえか、あるいは誰かに持たされたのか。


 全知全能と謳われた『古の賢者アルテ』なら答えをくれるかもしれんが、未来の病原菌を持ち込んでしまったら大惨事なので、大昔に飛ぶことは控えている。


 ともかく俺は、『時間』に関することなら大抵のことは出来る。

 たとえば肉体や物体の時間を操ったり、あるいは過去にちょっとだけ飛ぶことで……、



「家が! 家が!?」


「何を驚いているんだ? さっきからずっと、家々ならそこにあっただろう」


「ッ!?」



 そう。俺の背後には立派な家屋がいくつも立ち並んでいた。



「男爵の手を煩わせるのも悪いからなぁ。ある金を使って、から職人を大量に雇って建てさせたんだ。ここに来るまで見えなかったか?」


「っ……あ、ああ、そう、だったな。そういえば途中から、いくつかの家が見えてたわ……」



 ああ、そうだったそうだった……と、鎧男は自分に言い聞かせるように呟いた。


 どうやら一瞬だけ違和感を覚えてしまうらしいな。



「ちょうどよかったな。どうやら男爵の寄越した力自慢たちは、ずいぶんと貧相らしい」



 俺は荷馬車の上の病人たちを見た。


 彼らもまたポカンとし、そして、わっと顔を明るくさせた。



「こ、こんな村に住んでいいのかーっ!?」

「もう、終わりだと思ってたのに……!」

「おぉぉおおお……!」



 涙ながらに感動している者もいた。

 土地を切り拓けと言われたときには絶望しただろう。だが辿り着いてみれば、村長が用意周到に住処を用意していたんだからな。嬉しくなったようで何よりだよ。


 さて、



「おい鎧男」


「っ、オレのことかよ!?」


「そうだ。お前に一つ問う」



 これは確認だ。お前が、変わってないかどうかのな。



「この地に送られた病人たちを、可哀そうだと思わないか?」


「ハッ、ふざけんなボケ!」


「そうか」



 鎧男は俺の足を踏もうとした。ああ――変わってなくてよかったよ。



「おかげで、罪悪感を感じない」


「なにを……って!?」



 鎧男はバランスを崩して倒れた。「ぐぅっ……」と無様に地で呻く。



「気を付けろよ。だってお前、足の指が一本不自由なんだろう?」


「っっっ!?」



 彼は冷や汗をかきながらブーツを脱いだ。すると、右足の小指がひしゃげて変形していた。



「あっ……ああぁああっ!? な、なんでぇ……!?」


「歩き方が不自然だからわかったよ。それ、どうしたんだ? 誰かにやられたのか?」


「ッ!? そ、そうだ……! 前に夜街で、変なフードの男にボコボコに殴られて、足の小指を踏み砕かれて……!」


「そうか、そうか。お前は乱暴そうだからなぁ。やり返される覚悟もなくヒトを傷付けて、で恨みを買ったのかもなぁ?」


「っっっ~!?」



 男は激昂して殴りかからんとした。だが変形した小指を見て逡巡し、握りかけていた拳を解いた。はは。



「『片足が不自由じゃ喧嘩しても負けそうだ』、ってか? どうやらその傷はお前に自重を与えてくれたようだな」


「う、うるせえ!」


「その調子で優しい人間スローライフになれよ。そしたらいつか、傷がパッと治るかもしれないぞ?」


「なんだよスローライフって!? くそっ、テ、テメェのことは苦手だっ! 帰る!」



 男は病人らを降ろすと、さっさと引き返していってしまった。


 ヒドロア男爵によろしくな~。きっと大変な思いしてるだろうから。



「……さてと」



 俺は村人となる者たちを見渡した。


 全員、『前の時間軸』よりかはイイ顔で立っている。体調は相変わらず悪そうだがな。



「さてお前たち」


『っ!』


「俺の名はアルテ・ランド。このランド村の村長になる男だ。まずはみんなの名前を聞きたい」



 と言うと、七十二名の者たちがおずおずと順々に名乗っていった。ふむなるほど。



「把握した。前列の右側から、バエル、アガレス、ウァサゴ、ガミジン、マルバス、ウァレォル、アモン、バルバトス、パイモンにブエルに……」


『!?!?!?』



 村人たちは驚いている様子だ。「もう顔と名前を覚えたのですか!?」とざわついている。


 ふ、ふふふふふ……言えない。


 本当はいちいち時間止めて、メモ取りながら覚えたなんて言えるわけがない……! ちなみに一度覚え間違えて時間巻き戻しました(一敗)。ごめんねぇ。



「……セーレ、ダンタリオン、最後にアンドロマリウスと。よし覚えたぞ(うれしい)。全員、これから俺とよろしく頼む」



 頭を下げると、『こちらこそっっっ!』と元気いっぱいの声が返ってきた。よしよし。


 

「よし、見ての通り、全員が住める分の家は用意したからな。備品も取りそろえたので安心してほしい」


『アルテ村長ぉ……!』



 って家に住めるくらいでなに感動してるんだよ。

 雨風凌げるなんて当たり前の話で……って、これは前世の常識か。いかんな。たまにズレることがあって困る。



「さて、いつまでも突っ立てるわけにはいかないな。お前たち。村長権限で、全員に仕事を言い渡す!」


『っ!?』



 村人たちの顔に緊張が走る。ひそひそと、「自分たちに出来る仕事なんて……」「私たち病人にこんなによくしてくれたのは、何かウラがあって……?」「こ、この村に住めるなら、危険なことだって……!」と、囁き合い始めた。



「やれやれお前ら。勘違いしてるぞ」



 溜息を吐きつつ、俺は彼らに言い放つ。



「大量の食糧と、医療品を用意した! 全員しばらくは飯食ってクスリ飲んで元気になれっ! それがお前たちの仕事だ!」


『オッ、オオオオオオオオオオォォオオオオオッ!!!』



 いちいち反応が大げさな村人たちだ。


 ……さて、いったん時間を止めて、ハンカチを大量に買ってこないとな。




—————————————————————————


 ・スローライフ(足の指を砕いて歩きづらくするの意)



 ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

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