第46話 学校内での仕事
そんなこんなで、全てのガイダンスを終えた放課後。寧音達に案内された先は、掲示板が複数置いてある部屋だった。その掲示板の他に受付みたいなものもある。
「ここで仕事を選んで、色々な事をするって感じ。ゲームとか漫画のクエストみたいなものかな」
「えっ……討伐とか?」
「裏世界のなら二年生になってから。一年生の間は、表にいる幽霊退治とかになるかな。討伐系の仕事をするなら、色々な登録をしないとだから、最初は別の仕事が良いと思う」
「へぇ~」
取り敢えず、掲示板に貼り出されている仕事を見てみる。倉庫や図書室の整理、学校の様々な場所の掃除などお手伝い系のものが多い。討伐系もあるけど、本当に幽霊退治とかが書かれている。
「幽霊退治って簡単に出来るもの?」
「幽霊の程度によるわね。悪霊になっている場合は手強いわ」
「そうなんだ。寧音と蒼は討伐した事あるの?」
「ないよ。さすがに、入学したばかりで討伐はね」
「危険」
二人も討伐系の仕事は受けていないらしい。二人ともしっかりと考えて行動するタイプみたいだから、そこまで無謀な事はしないみたい。
「まぁ、二学期から受けようかなとは思ってたけど。一人じゃ怖いし、水琴が行けるようになるまでは一緒に掃除とかかな」
「ん。最初は掃除が良い」
「学校の構造とかも分かるから、迷子にならないようになるかもね。この辺の掃除をしにいく?」
「そんな急にやれるものなの? まだ、口座の登録とかしてないけど」
「大丈夫。信じられないかもしれないけど、手渡しだからね」
「そうなんだ。じゃあ、やってみようかな」
せっかくなので、学校の掃除をする仕事を受けに行く。紙を取って受付に持っていく。そこで学生証を出して三人で受ける登録を済ませる。紙と学生証があれば、仕事を受けられるみたいなので、結構楽だった。
掃除といっても本当に学校の一画を掃除するという感じなので、普通に小学校や中学でやっていた掃除の広範囲版って感じだ。
「さてと、師匠、掃除の魔法は?」
「外ならまだしも校内なら、普通に箒で掃いた方が良いわよ。下手すると、物を壊してビビに怒られるわ」
「…………」
「はい」
「ありがとう、蒼」
蒼が持ってきてくれた箒を受け取って、埃を掃いていく。一足制の学校なので砂とかも落ちている。それを一箇所に集めていると、寧音が雑巾を先端に付けたワイパーみたいなものを持ってきた。立ったまま雑巾がけが出来るものみたい。私と蒼で埃を取り除いて、寧音が拭き掃除をするという役割分担で掃除を進めていく。大体一時間くらいで担当する区画の掃除が終わった。
「ふぅ……疲れた。そうでもないと思ったけど、結構広いね」
「沢山の教室があるからね」
「何で、こんなに教室があるの?」
この学校には、本当に沢山の教室がある。色々な授業があるからという理由も考えられるけど、常に全部の教室を使うのは考えられないので、ここまでは要らない気がする。
「研究」
「先生の……じゃないよね?」
「うん。学生の自主研究とかで使ったりする感じ。自主研究で単位を稼いで授業を受けないって人もいるくらいだしね」
「それって、必修科目も?」
「う~ん……一応出来なくはないらしいけど、それだけ大きな成果じゃないと駄目って感じ。普通は無理かな。本当に大きな成果じゃないと必修科目分には出来ないし」
必修なのに授業を受けなくても良くなるのは凄いかも。それに値する大きな成果というのがどのくらいの成果なのか分からないけど、基本的には無理ってくらいだから世紀の大発見くらいは必要なのかも。
「生徒の自主研究というのは、面白いわね。水琴も勉強しているなかで気になるものがあった研究してみなさい。それをレポートにすれば、ビビも満足すると思うわよ」
「そんな無茶な。研究って難しいでしょ?」
「そんなことを言っていたら、いつまで経っても出来ないままよ。頑張りなさい」
「は~い……」
「その時は、私も手伝うよ。共同研究者になれば、私も単位を貰えるかもしれないし」
「ん。出来る事があるなら手伝う」
「ありがとう、二人とも」
まだ何を研究するかとかも決まっていないから、手伝って貰うようなものもないけど、二人が手伝ってくれるというのは、少し気が楽になる。
「それじゃあ、掃除が終わった報告に行こう。掃除だけして報告しなかったら意味がないから」
「ん」
「だね」
皆でさっきの掲示板がいくつもある部屋に向かう。そこの受付に報告すると、掃除の分の報酬を貰えた。一人当たり千円だったけど。
「少なくはないんだよね」
「まぁ、三人で分担して一時間だっただけで、一人でやろうとしたら滅茶苦茶時間が掛かるからね。掃除機でも使えれば別だったけど」
「魔法が一番」
「「まぁ、確かに……」」
蒼の言う通り、魔法で掃除出来れば、かなりの時短になる。建物や備品を壊さなければの話だけど。仮にそうなったら、短い時間で三千円を稼げるこの仕事は割りの良い仕事になる。
「掃除に使う魔法って言ったら、何かある?」
「掃除ってわけじゃないけど、『洗浄』と『乾燥』は使うかな。洗い物とかなら、かなり楽だったし。でも、掃除ってなると分からないかな」
「風で埃を飛ばす」
「でも、下手すると、余計なものまで飛んでいくでしょ? 水琴が使っていた『洗浄』も汚れを取るって効果が強いから埃に関しては使えないだろうし」
「ん。調節は難しい」
汚れたものを綺麗にするなら『洗浄』がぴったりだけど、普通に掃除する時の一番の敵は埃だ。それを飛ばすために風を使おうとすれば、軽いものも一緒に飛んでいってしまう。それらを元の場所に戻すとなると手間が増えるだけだ。それに、下手したら壊しちゃいけないものも壊れるかもしれない。
「埃だけ選択して飛ばせるようにするとか?」
「さすがに、無理があるでしょ。どうやって埃を選択するつもり?」
「……確かに。吸引するとかで考えても、結局動くものがあったら使いにくいしね。いっそ、埃だけを消滅させるみたいなのが出来れば良いんだけど」
「それって、制御ミスったら、他のものも消失するでしょ」
「そうなんだ……じゃあ、やっぱり埃だけを吸うみたいな選択を持たせられないと厳しいのかな。物体を動かす時に、物体だけを選択出来ているのは見えているから?」
「そりゃそうでしょ。埃だって、見えているようなでかいものなら選択出来るだろうけど、掃除って見えていないような埃を集めていく事にあるでしょ? だから、埃だけの選択は無理!」
完全に寧音に否定された。確かに、聞いていると厳しいという事が分かる。色々と気にしないで良いなら使い放題って感じだけど、校舎内で使うのは難しそうだ。
「じゃあ、やっぱり掃除機かな?」
「数がない」
「それにコンセントの問題もね。教室内ならともかく廊下は厳しいんじゃない?」
「それもそっか。あっ! じゃあ、魔法道具として作ったらどうかな?」
「一応ない事はないけど、結構高価だよ」
「高い」
「そうなんだ。後は、ホムンクルスを雇う!」
「造り出せるのは極一部の錬金術師だけだよ。それも超一流のね。つまり、高い!」
ここら辺の事は全部昔の人が考えついている事だろう。それでも現在に存在しないのは、それだけ無意味か難しいかという事だ。でも、改めて確認しておきたかった。幸い、寧音と蒼が全部説明してくれたから納得出来た。
「あれ? そういえば、師匠の家って何十年経っても綺麗なままだよね?」
「そうね。でも、それを校舎に付けようとすれば、それだけ大規模なものになるわ。保持するための魔力は大気魔力では賄えないでしょうね」
「そうなんだ。じゃあ、私達が掃除するのが一番良いって事なのかな?」
「そうね。加えて、あなた達の収入源にもなるわ。そういう配慮もあるのかもしれないわね」
確かに、収入源という意味では重要なものなのかもしれない。掃除は基本的に誰でも出来るようなものだしね。
「寧音と蒼は、他にどんな仕事をしたの?」
「私は掃除と図書館の本の整理とか。一回だけ先生の研究の手伝いとかしたよ。灰沢先生の絵のモデルがそうだった」
「へぇ~、茜さんのモデルってどんな事をするの?」
「ただのモデルだったかな。どんな研究をするのかはよく分からなかった」
茜さんの場合、本当にただのモデルとして雇ったのか絵画魔術の研究として雇ったのか分からないので、私も何とも言えなかった。
「私は掃除と倉庫の整理」
「寧音みたいに、研究の手伝いとかはしてないの?」
「ん。してない。私が出来そうなのはなかった」
「そうなんだ」
「でも、研究の手伝いは大きい」
やっぱり研究の手伝いにもなると報酬が大きいらしい。ただ、自分に出来るようなものじゃないと相手に迷惑を掛けるだけなので、ちゃんと選ばないといけない。
「そうだ。お店に行ってみる?」
「お店? 行く行く」
この学校周りから出られない以上、学校で買えるものは把握しておいた方が良い。なので、二人に案内して貰って学校にあるというお店を見る事にした。
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