第45話 ガイダンスとお金
体力測定を終わらせた翌日。朝の修行をしてから朝ご飯を食べた後、師匠と一緒に登校していた。今日は、ようやく授業が始まる。とは言っても、授業の内容説明だけで本格的な授業はないみたいだけど。
「必修科目だったら、寧音とか蒼と一緒かな?」
「どうかしらね」
「一緒だったら勉強も教えて貰えるかな?」
「さすがに意地悪はされないと思うわよ」
「だよね!」
少しは予習しているけど、独学で学んでいるから、どこまで正しいのかは分からない。そこら辺の答え合わせとかも出来ると良いかな。
学校に着いた私は、職員室に寄る。理由は、昨日の夜に茜さんから寄るようにと言われていたからだ。
「失礼します」
「水琴さん。ちょうど良かったです」
職員室に入ったら、すぐに美玲さんがやってきた。そして、収納魔法から何冊も本が出て来た。それに次いで、沢山の紙束も出て来る。
「取り敢えず、この本を読んでレポートをいくつか書いて来て下さい。内容はお任せします。こちらの紙束は問題集になります。問題を解いたら、私のところに持ってきてください。まとめて持ってきても一枚ずつでも構いません。これが座学の補習になります。期間は十二月までです」
これが私に課せられた宿題みたいだ。問題集はともかくレポートまであるとは思わなかった。
「難しそう……」
「はい。頑張ってくださいね」
冷音さんは私の頭を撫でて離れていった。それ以上の用事はないので、私は職員室から出て行った。
「どうしよう……」
「頑張りなさい。添削とかはしてあげるから」
そんなこんなで、最初の授業の教室へと向かった。最初は必修科目だからかいつもの教室だった。教室には、既に寧音がいたけど、寧音は友達と話しているので、会話の邪魔をしないように一番の後ろの席に座る。
取り敢えず、授業開始の時間までは暇なので、さっき貰った本の内の一冊を取り出す。内容は、魔法の基礎だった。師匠から教えられた事の復習みたいな感じなので、すらすらと読める。
「師匠が教えてくれた事そのままって感じ」
『そうね。新解釈も生まれていないようね』
魔法の不発や暴走の危険。その際に起こる事なども詳しく書かれている。師匠の話よりも具体的な例が書かれているので、結構グロい。
『言霊の反動も似たようなものよ。軽いものを味わっているでしょう?』
確かに、言霊の反動で喉がやられた事があった。それは、ここにある魔力の暴走による事故例と同じような感じだった。ただ反動の方が軽かった気もする。
「ドラゴン相手なのに、あれで済んだのは運が良い?」
『そうね』
そんな話をしていたら真横に人が座ったから驚いた。その正体は蒼だった。
「おはよう、蒼」
「おはよう」
隣に座ってくれてちゃんと挨拶もしてくれる。昨日だけで、完全に打ち解ける事が出来た証拠だ。あまり人と関わらないという蒼と打ち解けられたのは、ちょっと嬉しい。
「何の話?」
「宿題の話。訳あって、半年間勉強が出来てなかったから」
「そう。魔法の基礎?」
「うん。ここら辺は師匠に習ってるから、復習って感じだけどね」
「ふ~ん」
蒼は、私にぴったりと張り付くと本をジッと見る。私がページを捲らないでいると、ちらっと私の事を上目遣いに見る。
「読まないの?」
「ううん。読むよ」
二人で本を読んでいると、反対側の隣にも人が来た。
「二人でな~に読んでるの?」
やってきたのは寧音だった。タックルするように隣に来ると、本の中身を見る。
「ふ~ん……基礎的な事じゃん」
「色々あって半年勉強が出来なかったから、復習を兼ねてるから」
「へぇ~、何があったの?」
寧音は具体的に話を聞こうとしていた。半年も勉強が出来なかった理由が気になるからだと思う。
『ある程度の事だったら話しても良いと思うわよ。ただ、あまり深く話すのは止めなさい。言霊と魔力の事は、特にね』
師匠からそう言われた事もあり、二人に軽く事情を説明した。裏世界を歩いて帰ってきたというだけだけど、二人はぽかんとしていた。
「えっ、裏世界で生き残ったって事?」
「うん。まぁ、そういう事だね。師匠がいたからっていうのもあるけど」
「凄い」
「裏世界に入る授業は二年生からだし、今生き残っただけでも凄いよ。それで入学って事かぁ……中途半端な転校だなぁって思ったけど、そういう事情だったんだね」
「そういう事。それで悪いんだけどさ。授業で分からない事があったら、教えてくれない?」
「勿論!」
「ん」
二人ともすぐに了承の返事をしてくれた。優しい友達が出来て、本当に良かった。これで二人と一緒の授業なら安心だ。私がホッとしていると、予鈴が鳴って、教室に西宮先生が入ってきた。
「はい。それじゃあ、授業を始めるよ。前期と同じで基本的に必修科目は、私が教えるからそのつもりでいるように」
そこからガイダンスが始まる。ガイダンスの内容は、これからの授業の予定と教科書配りくらいだった。今日の授業は、数学、社会、魔術基礎学、魔術触媒学、魔法学基礎、モンスター学の六つだった。二人とも私と同じ授業を取るつもりみたいで、全部一緒になった。私に気を遣ったというよりも授業を選ぶのが面倒くさいという感じみたい。特に私が選んでいる授業の内容に興味が無いわけじゃないから、同じでも問題ないって言っていた。
大分面白そうな授業ばかりで、私も満足だった。師匠は退屈そうにポンチョの中で丸くなっていたけど。今日はガイダンスだけだったから仕方ないかな。
途中昼食の時間に食堂に案内して貰った。食堂のメニューは、基本的に二、三百円で買えるものばかり且つ量も少し多めという事でお財布に優しかった。ただ、そこで一つ気付いた事もあった。それは、私のお金の出所だ。お母さん達から昼食代として貰おうにも、私が住んでいる場所は茜さんの家なので、それは出来ない。
ご飯を食べながら、その事について悩んでいたら、寧音と蒼が話し掛けてきた。
「何を悩んでるの?」
「お金?」
寧音は遠回しに訊いてきたけど、蒼は直球に訊いてきた。そこら辺も二人の性格が表れている。
「うん。自分で自由に出来るお金を手に入れないと。バイトか何かをしたいけれど銀行口座の問題とバイト先の問題があるんだよね」
「ここでバイトすれば? 大体の学生はやってるよ」
「学校でバイト?」
「というより、仕事」
「???」
聞いた事のない話に、頭に疑問符が浮かんでいく。
「放課後に案内してあげる。口座の方は、親に頼むしかないんじゃない?」
「通帳とカードと印鑑を預かっているわよ」
「!?」
衝撃の事実に驚きを隠せない。食事中という事もあって師匠はポンチョの中で丸くなって動かないでいる。だから、師匠の顔を見る事は出来ない。
「何で!?」
「必要になった時に渡して欲しいと言われていたのよ。それまでは基本的に私が管理するという風にね」
「後でお母さん達に文句のメッセージ送らないと。もう少し娘を信用しても良いと思うんだけど。お年玉とかだって、結構貯めてる方だし」
「いくらくらい貯まってるの?」
「今は……十万くらい?」
「うわっ……凄っ。私はすぐに使っちゃうからなぁ」
「寧音っぽい」
何にせよ。口座が開設してあるなら、バイトをしても問題はないと思う。一応、メッセージでお母さんに訊いておく。お昼だからか、すぐに返事が返ってきた。取り敢えず、稼ぎすぎなければ大丈夫との事だ。それとお昼代は、口座の方に入れておくとも書かれていた。だから、バイトをするのなら、そのお金は自由に使って良いって事だと思う。お昼代って言っても高くてワンコインなので、そこまでの額は振り込まれないかな。
それと最初から入っている分のお金は手を付けないようにとも書かれていた。それは、茜さんへ渡すお金でもあるらしい。茜さんからは断られているけど、いざという時にすぐに渡せるように、こっちに入れておいたらしい。だから、師匠が管理するようにしていたみたい。
(う~ん……これだと文句は言えないなぁ……まぁ、ちゃんと通帳で把握しておこう)
改めて両親に感謝しつつ、お昼代の心配が消えた事にホッとした。でも、一応バイトの話は聞いておく事にした。自由に使えるお金は欲しいし。
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