第41話 魔力測定

 白とのお茶会を終えて、お昼過ぎくらいに家に戻る。茜さんは、午後から仕事があるみたいで、一緒には帰る事は出来なかった。


「そういえば、せっかく学校に通ってるのに、クラスメイトとの交流がない気がする……」

「そうね。この健康診断も個室だから、本当に交流がないわね。まぁ、まだ始まったばかりだから、気にする必要もないと思うわよ?」

「でも、もう二学期だか、それぞれのコミュニティが出来上がってそう……漫画とかでよくあるじゃん?」

「そうかしら? 私が読んだことのある漫画にはないわね」

「師匠って、漫画読むの?」

「まぁ、そこまで読まないわね。そんな事より、修行を始めるわよ」

「は~い」


 修行する場所は、自室だった。てっきり、外か射撃場とかになると思っていたから、ここは意外だ。


「どんな修行をするの?」

「水琴には、自分の魔力に加えて、私の魔力とアレの魔力を支配して貰うわ。そのために、まずは魔力を三つに分けて操る修行からね」

「それって、魔力増加と身体強化と部分強化を同時に使うって事?」

「そういう事よ。今日は出来るまでやるわよ」

「は~い」


 魔力増加は常にやっているので、ここに身体強化を追加する。ここまでは慣れたもの。ここに部分強化を追加して腕を強化する。


「身体強化が疎かになっているわよ」


 師匠に言われて、身体強化を意識する。


「部分強化が弱まっているわよ」


 部分強化を意識する。


「また身体強化が疎かになっているわよ」


 再び身体強化を意識する。こんな調子で、師匠に指摘されながら修行を続けた結果、止まった状態でなら、安定して三つ同時に扱う事が出来るようになった。まぁ、止まったまま使えたところで、動けないと身体強化も部分強化も意味がないのだけど。


「水琴は、魔力増加だけ揺るがなかったわね」

「ふっふっふ! 凄いでしょ!」

「身体強化と部分強化は、駄目駄目だったけれどね」

「むぅ……」

「取り敢えず、夜ご飯までは、その状態を維持しなさい」

「は~い」


 今は私の魔力でやっているけれど、最終的には師匠と化物の魔力を自分の意思で操れるようにならないといけない。そう考えると、自分の魔力で手こずっているようでは、全然まだまだという事になる。もっと頑張らないと。

 そんな健康診断と修行をした翌日。体力測定と魔力測定の日がやって来た。今日は、茜さんと一緒に登校せずに、師匠と二人で登校していた。茜さんも何かの役割を持っているのかな。

 師匠と二人で教室に入ると、全員の目が向いてきた。若干の居心地の悪さを感じる。というか、皆、運動着に着替えていた。


「あっ……先に着替えるのか。更衣室って分かる?」

「さすがに、分からないわね」

「更衣室なら案内しようか?」


 どうしようかと思っていると、急にそう言われた。声がした方を見ると、金髪ロングの女の子がいた。目は茶色だけど染めているのかな。


「良いの? 助かるよ」

「こっちこっち」


 女の子は、私の手首を掴むと、教室から連れ出した。


「私の名前は、羽島寧音はねしま ねね。よろしくね、水琴」


 いきなり下の名前で呼ばれた。距離の縮め方が早い人みたいだ。


(こうなれば、こっちも距離を縮めないとコミュニケーションが失敗になるかもしれない。恐らく、こっちも下の名前呼び捨てが正しいはず)


「よろしく、寧音」


 そう答えると、寧音はニコッと笑った。やっぱり正しかったみたい。師匠とか相手にするよりも、同年代相手の方が緊張する。向こうが受け入れてくれるという事が分かっているからとかなのかな。

 同年代の方が陰口とかがあるからみたいなのもあるかもしれない。でも、取り敢えずは大丈夫そうだ。

 そのまま歩いていくと、教室から二分くらいのところに更衣室はあった。中で運動着に着替える。そして、ポンチョを着て、師匠をいつものポジションに入れる。制服は収納魔法に入れておいた。


「その子は使い魔?」

「ううん。師匠だよ。私に魔法を教えてくれたの」

「へ?」


 寧音が師匠の方を見ると、師匠が軽く前脚を上げた。西宮先生の時には、声を出していたけど、寧音の前では声を出さなかった。


『あまり喋りすぎると、変に囲まれるわよ。喋る猫は珍しいから』


 念話でそう言われてしまったら、喋って欲しいとも言えない。まぁ、最初からそう思っていないからいいのだけど。


「猫の師匠なんて、変わってるね」

「そう? 寧音は、誰から教わったの?」

「私は両親から。代々魔法使いだから。水琴は、つい最近なんだっけ?」

「うん」

「魔法使いの中には、プライドが高い人もいるから、それはあまり言わない方が良いかもね」

「そうなの?」

「うん。ついこの間まで魔法の魔の字も知らなかったような奴が調子に乗るなとか言われるかもね」

「わぁ……漫画みたい」

「それが本当に起こり得るから困るんだよね~……魔法を特別視し過ぎてるって感じ」


 本当に漫画みたいな事があり得るみたい。それだけ魔法使いって事にプライドを持つ人もいるみたい。


(めぐ姉の時にも、そういう事はあったのかな?)


 学校が終わったら、めぐ姉にメッセージでも送ってみる事にする。

 教室の中に戻ってくると、改めて視線が集中してくる。


「入口で何してるの? 早く席に着きなさい」


 西宮先生がやって来たので、急いで席に座る。一応、一昨日と同じ席に座った。何故か寧音が隣に座っている。


(友達とかの方は良いのかな?)


 さっきまでいた席とは違う席だから、少し心配になるけど、自分から来ているから大丈夫だと思いたい。


「うちのクラスは、魔力測定から行うから、名前が呼ばれたら前に出てきて」


 西宮先生がそう言っている間に、冷音さんが教室に入ってきた。冷音さんは、教卓の上に何かの機材を置いた。中央に水晶が填め込まれたような機材だった。


「あれが測定器?」

「初めて見るの? あの水晶に手を置いたら、数値化された魔力量が書かれた紙が出てくるってやつ。私は前回122だったかな」

「それって多いの?」

「十六歳の平均値が110だから、ちょっと高い方になるかな」


 寧音はちょっとしたドヤ顔でそう言った。魔力量が多い事が自慢なのかもしれない。


「寧音は、何回くらい計測したの?」

「高校に入って初めて計測するはずだから、一年生は一回だけなはず。あの機材自体が高価なものだから、家庭で持っている人はいないと思う」

「へぇ~、そんな高い素材を使ってるって事?」

「それもあるのかもしれないけど、一番は南先生しか作れないからだね」

「へぇ~」


 冷音さんも凄い人なのだと改めて思った。まぁ、師匠の首輪を作れるくらいだし、もっと凄いものも作っているのかな。


「次、羽島寧音」

「あ、はい」


 寧音が呼ばれて、前に出た。寧音と話している間も計測が進んでいたらしい。寧音の話が気になって、ちゃんと見てなかった。なので、寧音の計測の様子を見ておく。

 寧音が水晶部分に触れると、水晶が光っていった。


「ちゃんと光るんだね」

「さっきから光っていたわよ。でも、寧音の光が一番強いわね」


 寧音がいないからか、師匠が普通に喋った。


「そうなの?」

「あの光でもある程度の魔力量は分かるみたいね。数値化というのがどういう基準なのか気になるところね」

「ふ~ん」


 出て来た紙を取った西宮先生がノートか何かに紙の内容を書き写してから、寧音に渡していた。一応、あれも貰えるらしい。紙を見た寧音は、ちょっとご機嫌で帰ってきた。


「どうだったの?」

「128! 半年で結構伸びてた!」

「へぇ~、平均よりもかなり上じゃん。凄いね」


 寧音は、またドヤ顔になっていた。平均値が110らしいから、本当に凄い数値なのだと思う。他の人の数値は分からないけど、師匠が寧音の光が一番強かったと言っていたので、ここまでの最高値なのだと思う。

 このクラスだと寧音が一番凄いのかなと思っていると、寧音よりも強い光を出した人がいた。その人は、髪の一部が青色の黒髪ボブの女の子だ。


「あの子は?」

塩谷蒼しおたに あお。結構優秀な子で、多分学年で一位二位を争うような子かな。魔法そのものよりも身体能力が優れているって感じ。魔法も凄いけどね。ただ寡黙な子で、会話が出来た人は少ないんだよね。私も全然喋った事ないし」

「へぇ~」


 寧音が凄いと思っていたけど、それよりも凄い子が出て来た。でも、身体能力が優れているらしい。どんな子なのか、ちょっと気になる。まぁ、自分から話し掛けられたら苦労しないのだけど。


「次、栗花落水琴」

「あ、はい」


 呼ばれたので降りていく。教卓の前に着いて、水晶に手を伸ばそうとすると、その前に冷音さんに止められた。


「水琴さん。魔力増加は解いて行ってください」

「へ? あ、なるほど」


 魔力を集中させて拡散させる魔力増加をし続けていると、上手く計測出来ないみたい。普通に続けていたから言われるまで、自分が魔力増加をしている事を忘れていた。

 魔力増加を解いてから、改めて水晶に手を伸ばして触れる。すると、さっきの塩谷さん以上に眩く強い光になっていた。

 西宮先生が紙を取ってノートに書き込んでいく。


「もう大丈夫ですよ」


 冷音さんに言われて、水晶から手を退かす。


「はい。これが結果ね」

「あ、はい。ありがとうございます」


 西宮先生から紙を受け取ると、321という数字が書かれていた。平均値は、大きく超えているけれど、これがどのくらい凄いのかは、まだ分かっていない。紙を持って寧音の横に帰る。


「どのくらいだった?」

「321」

「うぇ!? 私よりも倍以上あるし……」

「これって、どのくらい凄いの?」

「三年生の平均がそのくらいだった気がするから、そのくらい凄いかな」

「おぉ……でも、半年くらい魔力増加を続けていただけだよ? そうしたら、皆も同じくらいになってるはずじゃない?」


 私がそう言うと、寧音が信じられないものを見るような目で、こっちを見ていた。


「一日何時間してたの?」

「へ? 起きている間は、ずっとかな。時々出来ない時もあったけど、基本的にはそうだよ」

「…………」


 寧音の様子を見る限り、やっぱり魔力増加を私みたいにやっている人は少ないみたい。頑張るのは最初だけで良いのにと思ったけど、その最初のハードルが高いのかな。


「私も、もっと頑張ろ……」


 さっきまでドヤ顔をしていた寧音は小さな声で意気込んでいた。寧音への良い刺激になったかな。

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