第42話 体力測定
魔力測定を終えると、今度は体育館みたいな場所に移動した。冷音さんは、別の場所に移動している。他のクラスの魔力測定があるからだ。
「はい。それじゃあ、体力測定をしていくから、順番に回っていってね。体育館では、握力と長座体前屈と反復横跳びと立ち幅跳びと上体起こしをしていって。それが終わったら外でソフトボール投げと五〇メートル走と持久走があるから、そのつもりでね」
そう言って西宮先生は体育館の端っこに移動した。ここからは、私達が自由に動かないといけないらしい。
「先にペアで終わらせないといけないものやろうっか」
「私とペアで良いの?」
寧音がペアを組んでくれると言うので、他の友達は大丈夫か心配になった。向こうの交友関係に罅を入れたいとは思わないから。
「大丈夫、大丈夫。向こうは向こうでペアを組めるから。一人余っちゃうから丁度良いとも言えるかな」
「そうなんだ。じゃあ、お願いしようかな」
「じゃあ、じゃんじゃんやっていこう!」
体育館内で行われる通常の体力測定を終わらせていく。師匠との修行のおかげか、裏世界での経験のおかげかは分からないけど、軒並み良い結果を残す事が出来た。元々身体を動かす方が得意だからというのもあるかもしれないけど。
「魔力測定も優秀だけど、体力測定もすごっ……」
「一番得意なのは持久走だけどね」
「へぇ~、でも、ここの持久走は、普通の持久走じゃないけどね」
「どういう事?」
「体力が尽きるまで走り続けるの。その時間を計るって感じだから、クラス毎に分かれて一斉に走るんだよねぇ。長くても二時間とかくらいかな」
「へぇ~、変な感じだね」
『逃げ足を鍛える意味合いもあるのでしょうね。裏世界での活動を想定したものだと思うわよ』
師匠の念話で納得した。確かに、裏世界での活動を想定すれば、走り続けるという事は重要だった。裏世界での移動は、ほぼほぼ走っていたから。寧音と師匠と一緒に西宮先生の元に戻って、皆が帰ってくるのを待つ。すると、塩谷さんが一人で戻ってきた。
「来て」
「へ?」
塩谷さんに手を掴まれて連れて行かれる。
「数えて」
「ああ、なるほど」
どうやらペアが組めなかったみたい。そこで、先に全部終わらせている私を選んだみたいなところかな。
『良かったわね。友達が増えたわよ』
師匠が念話でそう言ってきた。
(これは友達と言えるのかな……)
塩谷さんの体力測定を紙に記入していく。基本的に私と似たような結果になっていた。身体能力が優れているというのも嘘じゃないみたいだ。
「ん。ありがとう」
「ううん。塩谷蒼さんだよね?」
「ん。蒼で良い。水琴で良い?」
「うん。良いよ」
「ん」
紙を返すついでに自己紹介じゃないけど、名前の確認とかをした。そうしたら、まさかの名前で呼んで良いと言われた。寡黙な子と言われていたように、言葉数は少ない。それに、それだけ話して離れて行ってしまった。人見知りって感じじゃないから、単純に一人が好きな子なのかもしれない。
なので、私も寧音の元に戻る。
「お疲れ~友達になれた?」
「名前で呼び合う仲にはなったかな」
「友達じゃん」
「そうなのかな?」
「だって、私はそこまでの仲になれてないし」
「何か気に入られる要素でもあったのかな」
「見た目が好みとか?」
「美少女に産まれてしまってしまったおかげかな」
「何言ってるんだか」
そんなやり取りが面白すぎて、二人で同時に吹きだして笑ってしまう。今日知り合ったばかりなのに、ここまで笑い合えるような仲になれるとは思わなかった。多分、寧音のおかげかな。
そんなこんなで、全員が体育館内での体力測定を終えて集まってきた。
「はい。全員揃ったかな。じゃあ、外に出て残りの体力測定をするよ」
西宮先生に続いて外に出ると、校庭の方に移動する。校庭は複数箇所あるみたいで、空いている校庭に入った。
「本当に敷地が広いね」
「でも、無駄は省くためにぎゅうぎゅう詰めになってるみたいだけどね。校庭と校庭の間も細い道が一つあるくらいっしょ?」
「本当だ。まぁ、校庭そのものが大きいけど」
「そこは色々使うから」
そんな話をしている間に、ソフトボール投げが始まっていた。次々にボールを投げていく。誰も計測する場所にいないけど、西宮先生が距離を口で言っているので、何かしらの魔法で計測しているみたいだ。
ソフトボール投げに続いて五〇メートル走もやっていく。こっちも新記録を出せたけど、身体強化を使えたら、もっと良い記録が出せたと思うけど、普通の体力測定なので使えない。
「水琴、すごっ! ほとんど八から十取れてる」
「運動は得意だからね。まぁ、ここまでは取れた事なかったけど」
やっぱり師匠との修行とか裏世界での移動が大きいのかな。でも、成長できているという事が、実感できる結果だったので満足感は大きい。
「それじゃあ、最後の持久走に移るから準備して」
西宮先生がそう言ったので、皆が準備運動を始める。私も身体を伸ばして準備していく。
「水琴さん。アリスさんを背負ったまま走るの?」
「え?」
西宮先生に言われて、師匠をポンチョに入れていた事を思い出した。
『そのまま走りなさい』
「そのまま走ります」
「そう? 水琴さんが良いのなら良いのだけど」
どう考えても猫一匹を背負っている時点で、持久走には向いていないだろうから、西宮先生も本当に良いのかと心配していた。でも、師匠が言うのだから仕方ない。どうせ、良い修行になるからとかの理由だろうし。
まぁ、別に基本的に背負って過ごしているから、負担でも何でもないのだけど。
「はい。じゃあ、持久走を始めるから、位置について」
皆でトラックになっている場所に並ぶ。一周の長さは、大体四〇〇メートルくらいかな。距離も分かりやすいようにしているのかもしれない。西宮先生用に椅子も用意されているし。
「限界だと思ったら、トラックの内側に移動する事。一度でも歩いたら、その時点が記録になるから気を付けるように。それと身体強化も禁止。それでは、スタート!」
西宮先生の合図で皆が走り始める。
『全力の三分の一くらいの速さを維持しなさい』
「は~い」
言われた通りの速さを維持すると、皆の中から一人だけ突出してしまう。別に速さを競っているわけじゃないのだけど、私に追いつこうと男子達が追い掛けてきた。
『男子のプライドかしら』
師匠の呆れたような念話が聞こえてくる。自分のペースで走らないと、すぐに体力が尽きてしまうに決まっている。本当なら、もっと耐えられるはずなのにという事になりかねないのに、それを考えていないみたいだ。
一定ペースを守って走り続ける私を追い抜いた男子達がドヤ顔でこっちを見てくるけど、泣きを見る事になるのは自分だと思う。
実際、二分もしない内に男子達に追いついて追い抜いた。その時の男子達は疲労困憊の様子だった。
「あの様子じゃ、一分くらいしか保たないでしょうね」
「寧音の方は?」
「自分のペースを守っているわね。ちょっと速度が足りないけれど」
「それって、裏世界のモンスターから逃げるための速度って事? でも、身体強化があるから、大丈夫なんじゃない?」
「水琴は大丈夫じゃなかったでしょう?」
「……確かに。でも、全力疾走をいつまでも続けられる人なんて、そうそういないでしょ?」
「水琴程の人はいないでしょうね」
「ふふん!」
「得意げになっていないで、ペース維持しなさい」
「は~い」
そんな会話をしながら、ペースを維持しつつ走り続ける。最初に私を追い掛けてきた男子達がリタイアしていき、ペースを保っていた寧音達も次々にリタイアしていく。残ったのは、私と蒼だけだった。蒼は、寧音達の集団の中にいたみたいだった。体力を温存していた感じかな。
そのまま一時間走り続ける。時折師匠と話しながら走っているので、あまり退屈するという事はない。
「蒼は、まだまだ余裕そう?」
「少し息が上がってきているわね。でも、あの調子ならまだまだ走られると思うわ」
「やっぱり、蒼も凄いね」
「そうね。私と喋っている水琴はおかしいレベルだけれど」
「出来るんだから仕方ないじゃん。でも、これっていつまで続ければ良いんだろう?」
「体力が尽きるまででしょう。頑張りなさい」
「師匠が暇つぶしになってよ?」
「はいはい。分かっているわよ。その代わり、ペースは維持しなさい」
「は~い」
それから二時間走り続けて、蒼がリタイアした。計三時間も一定ペースで走り続けていたのだから、寧ろ頑張った方だと思う。師匠が数えてくれていたみたいで、大体六十キロ近く走っているらしい。それでも、私には余裕があるので、そのまま走り続ける。
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