第40話 水琴の魔力
「それじゃあ、後は、魔力だけね。茜、こっちに来て」
「はぁい」
茜さんがやって来て、私の前で中腰になると、そのままキスをしてきた。あまりの綺麗な流れに、私は反応する事も出来なかった。口の中に舌を入れられて、どんどんと唾液が取られていく。十秒程で茜さんが唇を離した。
「どう?」
「水琴ちゃんの魔力は増えてるけど、割合が変わってない」
「本当に?」
「うん」
二人とも真剣な顔になっていた。茜さんも普段みたいな少し間延びしている話し方じゃなくなっている。それだけ真面目な話になっているというのが分かる。
「何か良くないんですか?」
「水琴の魔力が増えているのは、魔力増加の結果だから当たり前だけれど、問題は割合が変わっていないという事よ」
冷音さんに抱えられた師匠や白もこっちに来ていた。
「割合……それって、私の魔力と混じってる師匠と化物の魔力だよね?」
「そうよ。私の魔力が増えているというのは、一緒に生活しているからあり得ない話ではないけれど、アレの魔力も増えているとなると、話が変わってくるの。水琴の中で成長しているという事だからね」
「前に確認した時は?」
「同じ割合だった。私も色々とする事があったから、頻繁に調べられてなくて」
私の受け入れや学校での仕事など、茜さんも割と忙しそうにしていたので、私の魔力を調べる時間が無かった。なので、割合が変わっていないのは、今初めて判明した事だった。
「まぁ、そこは仕方ないか……師匠、何か変わった事した?」
「魔力増加と身体強化、部分強化を使った戦闘訓練くらいよ。茜の家に来て、魔力弾を使った訓練もしているけれど、特別な事はしていないわ」
「茜の家の大気魔力成分は調べたのか?」
「何か異常があったら、メイちゃんが気付くはず。そういう事も含めた管理をお願いしてるから」
「なら、水琴の家の大気魔力成分はどうだ?」
「前に確認した時は、特に異常はなかったよ」
これを受けて白は、少し考え込む。
「そうなると、自然に成長したと考えるのが妥当だろうな。茜、もっと深く調べろ」
「もっと深くとなると、唾液からじゃ……」
「血は駄目」
血に関しては美玲さんから禁止された。感染症とかの危険性があるからかな。
「そうなったら……でも、これはなぁ……仕方ない。水琴ちゃん、五分くらいキスするから、我慢してね!」
「五分!?」
何か考えていたようだけど、結局唾液から読み取る事にしたみたい。五分もキスをし続けるというのは、質か何かの問題を量でカバーするって感じかな。
「それって、本当にしないと駄目ですか?」
「した方が良いだろうな。今後、水琴の身体に異常が起こらんとも限らない」
「やっておきなさい」
白と師匠からそう言われてしまったら、私も断り切れない。私にとって重要な事ではあるし。
「分かりました。お願いします」
「じゃあ、こっちに来て」
椅子に座った茜さんが膝を叩くので、茜さんの膝に座る。茜さんが私を支えながらキスを始めた。茜さんとのキスは五分以上続いた。
キスを終えて、茜さんが唇を離した段階で、私の後ろに回っていた冷音さんが口を拭いてくれる。私と茜さんの唾液を拭き取ってくれたみたい。そのまま私の事を抱き上げると、別の椅子に座らせてくれた。そして、師匠が膝に乗ってくるので、ちゃんと抱える。
「……ありがとうございます」
「いえ、お疲れ様です」
冷音さんはそう言いながら頭を撫でてくれた。冷音さんなりの労いみたいな感じかな。
「どうだ?」
「深層域で三つの魔力がくっついてるんだけど、師匠の魔力が二つとくっついて、水琴ちゃんとアレの魔力は反発してるみたい。そのせいで、上手く混ざり合わないのかな。一応、休眠状態ではあるみたいだから、直接水琴ちゃんを傷つける事は無さそうだよ」
「なるほどな。アリスの魔力が繋ぎになっているわけか」
「それって良い事?」
「悪い事では無いな。おかげで、水琴の身体に悪影響を及ぼさないようになっているわけだからな。アリスの魔力が水琴の魔力を守っていると言えば分かりやすいだろう」
「まぁ、その結果、水琴ちゃんの魔力を糧にして成長しているみたいなんだけどね」
「このまま修行しても大丈夫?」
私の魔力を使って、師匠の魔力と化物の魔力が成長していたのだとすると、このまま修行をしていたら、私の魔力と同時に師匠の魔力と化物の魔力も育ってしまう事になる。それが危険な事なら、修行は続けられないという事になる。
「寧ろ、修行を続けた方が良いだろうな。全ての魔力を支配下におけるような修行も含めてな。アリスなら出来るだろう」
そう言われたので、膝に乗せている師匠を見る。私の視線に気付いたのか、師匠はこっちを見上げてきた。
「少し厳しいものになるけれど、水琴は大丈夫かしら?」
「うん。必要ならやるよ」
「それじゃあ、頑張って貰うわね」
師匠との修行でどこまで変わってくるのか分からないけど、ちょっと変わると良いな。
「検査は、一週間に一回やれ。茜の家に住んでいるならやりやすいだろう。茜は、検査の結果をまとめて、美玲に提出しろ。美玲は、それを私と共有してくれ」
美玲さんが主治医になるみたいな感じかな。美玲さんが一番忙しくなりそうだ。
「検査って、今の検査?」
「そうだな。精密検査の方でやってもらう。正確に状態を把握したいからな」
「わ、分かった」
一週間に一回精密検査をするとなると、若干気が重い。毎回キスをしないといけないし。検査方法的に私の唾液を摂取できれば良いから、実際にキスをしないといけないわけではないのだけど、他の方法となるとアブノーマルな状況になるし、キスが一番良いのかもしれない。
(ファーストキスが茜さんというのは……まぁ、別に嫌いな人ってわけじゃないし良いのかな……てか、ああいうキスって恋人同士のキスなんじゃ……)
その部分にだけ引っ掛かっていたけど、考えても仕方ない事と割り切る事にした。
「健康診断を別室にして正解だったな。だが、水琴のような例は、他にあったか?」
白の確認に、師匠達が顔を見合わせる。それぞれに心当たりがあるかどうかを確認しているのだと思うけど、全員首を横に振るだけだった。
「ないみたいだな。そもそもアレの魔力が溢れ出てくる事は一度も無かったというのもあるか。中々に厄介な事になったな」
「でも、私で問題を解決出来れば、これからの問題にはならないよね?」
「まぁ、そうだな」
「じゃあ、尚のこと頑張らないとね」
「水琴は、頼もしいな。これで健康診断は終わりだな。一緒にお茶でも飲まないか?」
「えっと……」
一応、師匠を見て確認する。すぐに修行に移るとかだったら、一緒にお茶は出来ないし。
「大丈夫よ。お茶をして帰ってからでも時間はあるわ」
「あ、うん。そうだね」
確かに、濃密な時間だったから忘れていたけど、まだお昼前の時間なので、白と長話をして、お昼を過ぎたとしても、修行の時間は十分に確保出来る。師匠の事だから、夜の自由時間を削るという話しになりそうだし。
師匠から許可も貰ったので、白と一緒にお茶を飲むことになった。白の間で世間話をしながら美味しいお茶を飲んでいった。気を利かせてくれたのか分からないけど、師匠達は師匠達で談笑していたらしい。師匠達も師匠達で積もる話があるみたいだし、そういう時間があっても良いと思う。
まぁ、美玲さんだけは仕事で参加出来なかったみたいだけど。こればかりは、健康診断があるから仕方ないけどね。今度は、美玲さんも一緒に話せると良いかな。
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