第39話 健康診断
授業登録を済ませた翌日。今日は、午前九時から午後十二時までの間に学校に行って健康診断を受けないといけない。そんな日でも、朝から修行をしていた。
「健康診断なのに、修行していても良いのかな……?」
「使っているのは魔力だけなんだから、問題ないわよ。ほら、次」
「は~い……」
しっかりと修行をして、汗を流してから軽く朝ご飯を食べる。ただ、今日は茜さんも一緒に朝ご飯を食べていた。
「茜さんは、学校に行かないで大丈夫なんですか?」
「うん。今日は、特に予定がないからねぇ。健康診断もこの前やらされたばかりだし。あっ、そうそう。水琴ちゃんの健康診断には、一つだけ項目が増えてるからねぇ。そこは覚えておいてぇ」
「えっ……前学期でやった内容の何かって事ですか?」
私だけという点から、その年最初の学期でだけする健康診断の項目があるのかもしれないと考えられる。でも、この疑問に対して、茜さんは首を横に振って答えた。
「いや、魔力の方だよぉ」
「魔力?」
「水琴の魔力は、アレと私の魔力も混ざっているでしょう? それの検査が項目として追加されているのだと思うわよ」
師匠にそう補足されて、ようやく理解出来た。自分の事だけど、魔力が混ざっていると言われても自覚出来ていないから、頭の中からすっぽ抜けてしまう。それによって、魔法の威力が下がるという実害は、しっかりと受けているみたいだから、意識しないといけない事ではあるのだけどね。
「因みに、検査機器はこの子だと思うわよ」
「えっ……」
師匠が茜さんを指さすので、そのまま茜さんを見ると、ニコニコと笑っていた。本当に茜さんが検査機器の代わりらしい。検査なのに、それで良いのかと思ってしまうけど、茜さんの体質は、かなり正確なものらしいので仕方ないかとも思ってしまう。
「そういう事もあって、水琴ちゃんは個室で全部の検査をするから、そのつもりでいてって美玲ちゃんが言ってたよぉ」
「茜さん、そういう事はもっと早く言って下さい……」
「どうせ一緒に行くから良いかなぁってぇ」
隣で一緒にご飯を食べている師匠が呆れたように息を吐いた。それを受けて、茜さんがビクッと肩を跳ねさせていたけど、すぐに平静を取り戻していた。もう既に慣れているのかもしれない。
「でも、なんで、私だけ個室になるんですか?」
「この子の検査というのもあるけれど、魔力が混ざっているという事をおおっぴらに話すわけにもいかないでしょう」
「混じってるのが、化物の魔力だから?」
「そういう事。知られても大した問題にはならないとは思うけれど、多少は配慮した方が良いとミアは判断したという事よ。それより、ジルはさっさと食べなさい」
「はぁい」
皆で朝ご飯を食べ終えて、制服に着替えてから、いつものスタイルで学校に向かう。茜さんの案内で進んでいくと、小さな教室っぽい場所に連れて行かれた。そこには、美玲さんだけじゃなくて、冷音さんと白も一緒にいた。白の髪の毛が編まれて、床に付かないようにされていた。
「来たか」
「何で白もいるの?」
「水琴の身体の状態が気になったからな。何かあった場合、私の無駄に多い知識が使えるかもしれんと思って来てみた」
白と久々にあった友人のように手を合わせながら訊いたら、少し困惑しながら答えてくれた。こういう事に対する知識はなかったらしい。
「水琴ちゃん、こっちに来て」
困惑している白が可愛いので、そのまま一緒にぴょんぴょんと跳ねていると、美玲さんから呼ばれた。目的が健康診断だから、大人しく美玲さんの方に向かう。パーテーションに区切られた場所に入ると、身長計と体重計とその他諸々が置かれていた。
「何か、本格的な健康診断みたいですね」
「まぁ、普通の高校生と違って色々と危険があるから、健康状態の確認は重要なの。はい。じゃあ、近いから体重から」
「はい」
靴を脱いで体重計に乗ると、普段の体重よりも遙かに大きな数字が出て来た。
「朝ご飯食べすぎたかな……」
「いや、まぁ……制服だし、背中に師匠を背負ってるわけだし」
「あっ……」
美玲さんの指摘で、師匠がポンチョの中にいる事を思い出した。
「師匠は、冷音さんのところに行って下さい」
「それもそうね」
師匠は、ポンチョから降りると冷音さんの方に歩いて行った。師匠という重りがなくなったところで、ポンチョとブレザーを脱いでおく。
「もしあれだったら、全部脱いでも良いけど。ここにいるのは、私達だけだし」
「…………いや、このくらいだったら大丈夫です」
ちょっと迷ったけど、普通に体重計に乗る事にした。体重的には、最後に量った時よりも増えていたけど、筋トレとかの成果が出ているだけだと思う。
そのまま身長も測っておく。身長の方はあまり変わっていない。
「平均よりも小さいけど、少しくらいだから気にしなくて良いと思う。体重の方は健康的かな。ちょっと手を出して」
「はい」
美玲さんに手を差し出すと手を握られる。直後に、身体の中に何かが入ってくるような感覚があった。
「魔力?」
「ううん。あ、いや、合ってはいるか。正しくは、私の魔法ね。ソナー的なものを撃ち込んで身体の状態を確認するの。今は神経、骨、筋肉、内臓の確認ね。取り敢えず、異常はなし。ただ、筋肉が結構傷付いてるけど、筋トレでもした?」
「はい。修行で」
「朝から修行って……まぁ、師匠らしいか。回復してきているから、特に止めないでも大丈夫。血圧と呼吸も問題なし」
「へ? 血圧も測ったんですか?」
ちゃんと血圧計もあるけど、そっちは使っていない。でも、美玲さんは血圧も問題がないと断言していた。脈拍なら、まだ分かるのだけど。
「うん。ちょっとコツが必要だけどね。こっちの方が早いし」
「じゃあ、何で血圧計を持ってきたんですか?」
「上手く測れる時と測れない時があるの。人によって違ったりするから、念のためね」
「因みに、血圧を魔法で測る事が出来るのは、美玲だけだ。豊富な経験に基づくものだからな。文字通り一生では得られるものではない」
「へぇ~」
いつの間にか、こっちに来ていた白が補足してくれた。ちょっとコツがいるどころの問題では無かった。美玲さん自身は苦も無く使えるから、自覚がないとかなのかな。
「ところで、身体に異常はなかったんだな?」
「はい。魔力が身体を傷つけているというような形跡はありませんでした。脳の方にも異常はありません」
「そうか」
それを聞いた白は、そのまま師匠達がいる方に戻った。診断の内容が知りたかっただけみたい。
「それじゃあ、次は血液検査ね」
「採血って事ですか?」
「そういう事。そこに検査機器役がいるけど、普通に血液検査しておきたいから。採血するから、師匠達はこっちに来ないでくださいね」
美玲さんが、皆にそう言った直後に周囲の空間が揺らいだ気がした。
「今、何かしたんですか?」
「ん? ああ、うん。菌の侵入とかを防ぐ結界をね。聖域化はしてるけど、普通に人もいるし」
「聖域化?」
聞き覚えのない言葉に首を傾げる。
「簡単に言えば、医療魔法の効果を引き上げる医療魔術ってところかな。そこまで強力なものじゃないけど、使っておいた方が良いって感じのものかな。はい。採血するよ」
説明をしながら、美玲さんがテキパキと準備を進めていた。美玲さんの指示に従いながら、採血を終わらせる。
「はい。それじゃあ、ワイシャツを脱いで」
「はい」
美玲さんが聴診器を着けたので、指示に従ってワイシャツを脱ぐ。キャミソールを捲って、聴診器を当てられる。
「はい。異常なし。口を開けて」
口を開けると、舌圧子で喉を見られる。
「こっちも問題なし。触診するから、大人しくしていてね」
「はい」
美玲さんに身体のあっちこっちを触られる。胸とかも触られるから、ちょっと恥ずかしかったけど、美玲さんが相手なので大人しくしておく。
「問題なし」
一応、身体とかに問題が現れているという事はなさそう。普通の健康診断で言えば、健康体という事になるのかな。まだ血液検査が終わっていないから、本当に全部問題がないとは言い切れないけど、ひとまずは健康そのものと思っておこうかな。
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