第34話 白の理由
白の君と友達になった途端、白の君との距離が縮まった。心理的にもだけど、物理的にも縮まっている。白の君が私の方に身を寄せたからだ。
「私は水琴と呼ぼう。水琴は……白と呼べ。敬称などは要らん。呼び捨てにしろ。それが友達というものだろう?」
「えっ!? う~ん……まぁ、そうだね。分かった。白」
「うむ! 良いな! 茜とは、また違った嬉しさがある。水琴は、私に訊きたい事はあるか? 魔法の世界に入るというのだ。私が教えてやろう」
白は、私の膝に手を置いて身体を乗り出しながら目を輝かせている。どちらかというと、話を聞く方の姿勢な気がしてしまう。それに、茜さんが妹のように扱う理由もよく分かる。師匠達がいた時の厳格な感じがなくなっているからだ。純粋に可愛い。
「何だろう? 大抵の事は師匠が教えてくれるからなぁ……」
「ふむ。アリスか。確かに、奴ならば大抵の事は答えられるだろう。理論という点で言えば、全ての魔法使いの中で突出した知識量を持っているからな」
「やっぱり、そうなんだ。それにしても、白は、喋り方がぶっきらぼうだよね。どうして?」
「これか? 冷音から言われたんだ。この見た目で可愛らしい言葉遣いだと威厳がなくなるとな。私の立場上、それは避けなくてならん。だから、言葉遣いから変えている。水琴は嫌か?」
「ううん。何でだろうって思っただけ。嫌とかは思ってないよ」
私がそう言うと、白はホッとしていた。安堵して伏せられた目を見て、改めて睫が長い事が分かる。その睫も白い。
「ねぇ、白。初対面で訊くことじゃないかもだけど、どうして白の身体は白いの?」
白の君という名前を聞いた時から、ずっと気になっていた。
訊かれた白は、ソファに背中を預けつつ私に微笑む。
「分からん。だが、私は呪いの一種だと考えている。私は、水琴達とは違って触媒無しに勝手に転生するからな。アリスが開発した無限転生も、私に刻まれているものを参考に作ったものだ」
師匠の無限転生の元になったのが、白の身体の状態だったらしい。恐らく、白の状態を見ても、常人には作り出せないものだと思う。
「後は、豊富な魔力だな。ほぼ無限に近い魔力を持っている」
「えっ、それじゃあ、白だけで化物を倒せるんじゃない?」
そんな大量の魔力があれば、化物相手でも普通に勝てそうな気がする。それでも倒せていないのだから、何かしらの理由があるとは思うけど。
「倒せはするが、周囲への影響が強すぎる。アリス達が生まれる前に一度倒した事があるが、その際、島の一つとそこの住人を消し飛ばしてしまった。化物が消えた事を喜んでいる者が多かったが、私は自分自身のコントロール出来ない力を恐れた。先程水琴にしたように軽い魔法ならコントロール出来るが、威力を高めた強い魔法になると弁が壊れたような状態になる」
白は、少し悲しげな表情で教えてくれた。師匠が生まれる前という事は、本当に遙か昔の話だけど、それでもここまで引き摺るくらいには後悔しているみたい。
確かに、そんな過去があるのなら、白が自分で化物と戦いたくないと考えるのも分かる。善意で行動したのに、それで誰かを殺してしまったというのは、トラウマになってしまう出来事だから。
「じゃあ、弱い魔法なら沢山使えるって事?」
「ああ、後は継続する魔法は得意だ。ここの結界のようなものだな。魔力の最大値が減るという感じだな」
「そうなんだ。それって疲れないの?」
ずっと魔力を使い続けるという事だから、疲労感とか倦怠感みたいなものはないのかなと心配になった。
「魔法自体は自動で発動するようになっているからな。それに、海からバケツ一杯の水を持っていき続けるようなものだ。そこまで変わらん。それを言うなら、水琴のその魔力増加は疲れないのか?」
「へ? いや特には疲れないかな。呼吸するのと同じようなものだし」
ずっと続けている魔力増加は、既に呼吸するのと同じような感覚で勝手にやってしまっている。師匠が言うには、時々寝ながらもやっている時があるらしい。
「さすがに、身体強化と部分強化を同時に使っている時はやってないけど」
どちらか片方だけなら、併用出来るのだけど、魔力増加、身体強化、部分強化の三種類同時は、まだ出来た事がなかった。そこまでになると、意識がブレて全部が疎かになる。師匠もしばらくは二つずつにしておきなさいって言っていたから、三種同時はまだまだ先かなと思っている。
私の答えを聞いた白は、何か奇異なものを見るような目で見てきた。
「普通は常時魔力増加を続けないと思うが」
「そうなの? 師匠は続けなさいって言ってたよ?」
「水琴の魔力を底上げするのが目的か……下手すれば、水琴自身が危険なものだが、アリスの監督の下なら大丈夫だったという事か。それにしても、忠実に守るのは水琴が真面目だからだな」
「他の人は続けてないの?」
「やっている事が地味である事と水琴のようになるまでに時間が掛かる事をもあって、サボる者も多い。水琴が思っているよりも遙かに多いだろうな」
サボったら損をするのは自分の方なのだから、しっかりとやる人が多いかもと思っていたけど、そこまで集中力の続く人は少ないみたい。長年人を見ている白が言っているのだから、間違いはないのだと思う。
「う~ん……出来るようになるまで頑張れば、後は楽なのに」
「そう言えるのは、水琴が出来る側だからだな。今の水琴なら昇位試験も第三階位までなら余裕だろうな。混合されている影響を考えても、そのくらいの魔力になっている」
「昇位試験? 第三階位? それって何?」
「……いや、アリスが知らんのも無理はないな。これは、あいつが呪われてから出来たものだ。魔法使いの強さを表す。全部で十段階あるが、一人前と呼ばれるのは第三階位からだ。因みに、冷音は第九階位、茜は第七階位になっている。アリスは、全盛期であれば、第十階位だろうな」
「ほえ~……」
師匠に弟子入りして、魔法の世界に入ったと思っていたけど、私がいたのは、まだまだ入口付近だったみたい。こんな階級みたいなものまであるとは知らなかった。まぁ、師匠が知らないのだから、私が知るわけがないのだけど。
「そういえば、もう一つ気になっていた事があるんだけど、訊いて良い?」
「確認など要らん。何でも訊いてくれ」
「ありがとう。何で、部屋も真っ白なの?」
白と話しながら部屋を見ていたけど、白色以外の色が影くらいしかない。白の身体が真っ白になっているのが原因で、部屋の素材が真っ白になったとか考えたけど、その説明がなかったから、どうしてなのだろうと思っていた。
「白の君と呼ばれているのに、身の回りのものに白色以外のものがあれば、疑問を抱かれるだろう。完璧に白の君となるために、身の回りのものは白くしている」
「威厳的なもの?」
「そんなところだな。言葉遣いと同じようなものだ」
「本当は何色が好きなの?」
そう訊くと、白はちょっと恥ずかしげに顔を伏せた。
「……ピンク」
「そうなんだ。可愛いもんね」
そう言うと、白は小さく頷いた。正直、白の立場=白色で統一しないといけないわけじゃないと思うので、そこまで気にしないで良いと思うのだけど、白なりに頑張っているみたいなので応援したい。ここで、私が部屋にピンク色のものを置いたら、滅茶苦茶問題になるだろうし。
こんな風に談笑していると、扉が開いて冷音さんがやってきた。
「白の君。そろそろ水琴さんをお借りしてもよろしいでしょうか? 手続きが残っていますので」
「そうだな」
白は、寂しげな表情で頷く。本当はもっと話していたいのだと思う。でも、私にも用事があるので、ずっとというわけにはかない。だから、白の手を取ってこっちを向かせる。
「また話そうね」
「……ああ」
白と約束したところで、私は手を振ってから冷音さんのところに向かう。冷音さんは、私の事をジッと見てから、白に頭を下げて出口の方に向かっていた。私は、もう一度白に手を振ってから冷音さんを追い掛ける。
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