第30話 五ヶ月ぶりの実家

 しばらく経って、段々と見慣れた景色が増えてきた。懐かしいと思うのと同時に安堵感がこみ上げてきた。そして、私の家の前に着く。家を見た師匠は、目を丸くしていた。


「水琴の家って大きいのね」

「ね。私もびっくりしたよぉ」


 両親に事情説明をしに行っていた茜さんも最初に見た時は驚いたらしい。確かに、大きな日本家屋にもう二件家が建てられそうな庭があるから、普通の人が見たら驚くと思う。私も無駄に広いと常々思っているし。


「茜さんも上がっていってください。お茶くらいなら出せますから」

「えっ、あ、うん。じゃあ、お言葉に甘えようかなぁ。学校に帰ったら怖いしぃ……」


 茜さんの車を家の駐車場に駐めて貰う。そして、師匠を抱えて家の方に歩いて行く。そして、門の前で足が止まってしまった。


「水琴?」


 腕の中で師匠が見上げてくるのが分かる。せっかく家に帰る事が出来るのに、その前で止まってしまったのだから、師匠が疑問に思うのも当然だ。


「ちょっと緊張しちゃって……私の家なのにね」

「水琴。深呼吸しなさい」

「え、うん」


 師匠に言われた通り深呼吸をする。そのおかげか、ちょっとだけ落ち着いたような感じがする。


「大丈夫よ。さっ、水琴の家に帰りましょう」

「うん!」


 ようやく一歩を踏み出す。門の横にある扉を開けて、中に入っていく。鍵が掛かっていると思っていたので、普通に開いた事に驚いた。

 草木が生い茂っている訳でも無く、ただただ広い庭が見える。五ヶ月もいないとこんな何もない庭にも懐かしさを感じる。前庭を通り過ぎて玄関前に着いた私は、戸を開く。


「ただいま」


 声を掛けてから、玄関で靴を脱ごうとしていると、家の中から大きな足音が聞こえてきた。そっちを向いたら、お母さんとお父さんがいた。そこで堪えていた涙が零れた。


「水琴!!」


 お母さんが私に駆け寄って思いっきり抱きしめられた。同時に、大粒の涙が溢れてくる。


「水琴……!! 無事なのね……!!」

「うん……ただいま……」

「おかえりなさい」


 お母さんに抱きしめられている間に、お父さんが茜さんに頭を下げていた。茜さんが私の捜索をしてくれていたから、そのお礼を言っているみたい。


「この度は本当にありがとうございました! どうお礼をすれば良いのか」

「いえ、お気になさらず」

「いや、このお礼は必ず」


 お父さんがこう言っているけど、言われている茜さんは困ったような表情をしていた。本当にお礼は要らないという感じなのかな。


「み、水琴……苦しい……」

「あっ!? ごめん、師匠!」


 慌ててお母さんから離れると師匠が大きく息を吸っていた。喋っていた師匠を見て、お母さんとお父さんが目を丸くしていた。魔法についての説明は聞いていても、猫が喋るところを見たら驚いてしまうみたい。


「あっ、紹介するね。私に裏世界で生き残る術を教えてくれた師匠だよ」

「ご息女を危険な目に遭わせてしまい、誠に申し訳ございません」

「師匠に責任はないよ。だから、師匠を責めないで。私が自分の意思で師匠を助けたいって思ったからなの!」

「えっと……とにかく家に上がって。そこでちゃんと話を聞かせて。灰沢さんもどうぞ」

「あ、お邪魔します」


 師匠や茜さんを伴って、和室に移動した。そこで、裏世界に落ちた理由などを説明していった。ある程度の知識は、茜さんから聞いていたようで、魔法に関する部分で割り込まれるという事もなかった。


「そうなの……それじゃあ、水琴もお師匠さんも悪くはないわね。お師匠さんもご自分を責めないでください。それでは、水琴の助けたいという気持ちも否定されてしまいます。この子の気持ちを汲んであげて下さい」

「そう言っていただけると助かります。ごめんなさいね、水琴」

「ううん。そういえば、私の行方不明ってどうなってるの?」


 実際行方不明にはなっていたので、ちゃんと届け出は出されていると思うけど、茜さんから説明を受けた後はどういう風にしていたのかは分からない。


「あっ、あなた、警察」

「そうだな。すぐに行ってくる」


 そう言って、お父さんは出て行ってしまった。まぁ、今も捜索しているかもしれないから早めに行った方が良くはある。私がいないでも大丈夫なのか、ちょっと心配になったけど、まぁ大丈夫だろう。


「ふぁ~……」


 話が一段落したところで、急に睡魔がやってきた。本当の意味で安堵できる状況になったからかな。


「今日は、ここまでにしておきましょう。水琴、夕飯になったら起こしてあげるから、ゆっくり寝てきなさい」

「え? あ、うん。分かった。じゃあ、茜さん。また今度」

「うん。またね」


 茜さんに手を振って別れてから、私は自室に向かう。私の自室は二階にあるので、階段を上がり、そのままベッドに寝っ転がった。師匠を抱えたまま。


「おやすみ、師匠……」

「おやすみなさい、水琴」


 師匠が苦笑いしている感じがする。でも、私はすぐに意識を夢の中に飛ばしてしまったので、師匠に確認する事は出来なかった。

 五ヶ月に及ぶ裏世界旅は、私に取って大きな刺激となる日々だった。これが私の

これからの人生を大きく変える事になる。その事は私自身もよく分かっていた。

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