魔法学校入学
第31話 あっさりとした受け入れ
裏世界から帰ってきた日。日が沈んだ頃に目が覚めた。お母さんが呼びに来ていないから、まだ夕飯までは時間があるだろうけど、取り敢えず起きる事にする。
「あれ? 師匠?」
一緒に寝ていたはずの師匠の姿がない。
(まさか……)
裏世界から帰った事で、師匠の役割も終わったと思って帰ったのではと考えた私は、慌ててベッドから跳ね起きる。師匠を探しに行くとして、まずはお母さんに一言言っておかないといけない。また急にいなくなって心配を掛けたくないから。
「お母さん!」
居間に繋がる襖を開くと、そこには師匠と談笑しているお母さんの姿があった。師匠がいなくなったと思っていたから、そこに師匠がいた事で膝の力が抜けてしまった。
「水琴!?」
急に膝から崩れたから、師匠が驚いて近づいてきてくれる。
「良かったぁ……師匠がいなくなったかと思った……」
「そう。その事について、水琴のお母様と話していたのよ」
「どういう事?」
「お師匠さんに、これからも水琴の事をお願いしますってお願いしていたの。多分、いなくなったら、今みたいな事になるからと思って」
さすがはお母さん。私の事をよく分かっている。まだ師匠と会ったばかりなのに、私にとって師匠がどれだけ大切か見抜いていた。
「そうなんだ」
師匠を抱えてお母さんの前に座る。
「お母さん。一つお願いがあるんだけど……」
本当は、お父さんにも聞いて欲しいけど、まだ帰ってきていないみたいだ。なので、まずはお母さんに聞いて貰う。
「魔法の学校に行きたい……でしょ?」
「え!? 何で分かったの?」
私がお願いしたい事は、まさにその事だった。せっかく受験をして選んだ高校だけど、この五ヶ月の裏世界旅で、私は魔法の世界に強い興味を抱いていた。死にかけたりした嫌な思い出もあるけど、それでも師匠からまだ魔法を教わりたいし、魔法そのものをしっかりと学ぶなら、学校に通うのが一番だと思っている。
帰ってきたばかりで、また家を出て行くと言うのは、ちょっと勇気が必要だった。なのに、それを向こうから言われたら驚いても無理は無いと思う。
「水琴の事なんだから分かるわよ。でも、それは本気で言っているの? 水琴は、別の世界で苦労したばかりでしょ? それでも学びたいの?」
「うん。嫌なこともあったけど、それ以上に楽しいことがあったから。本当に良いの?」
「ええ。水琴が本当にしたい事なら、応援するわ。あまり危険な事はして欲しくないけどね」
お母さんは、私のやりたい事を認めてくれた。これまでこういうお願いをした事がなかったから、そう考えてくれたのかな。
「やった! じゃあ、茜さんに連絡してみないと……師匠、連絡先分かる?」
「分かる訳ないでしょ」
「だよね……あっ、そういえば、私の鞄って戻ってきてる?」
「机の上に置いておいたわよ。見てないの?」
「見てない! 取ってくる!」
急いで自分の部屋に戻って机を見てみると、私の鞄が置いてあった。記憶にある鞄よりもボロボロだけど、それは鴉に突かれたりしていたからだと思う。それに崖から落ちているし。その中にある携帯を取り出して携帯充電器で充電しながら、居間に戻る。
「取ってきた!」
「携帯があっても、ジルの連絡先は知らないでしょ?」
「ふっふっふ。茜さんの連絡先は知らなくても、めぐ姉のなら知っているからね!」
「そういえば、夜になったら恵ちゃんはこっちに来るみたいよ。昼過ぎに連絡があったわ」
「そうなの? うわっ!? めぐ姉からの着信多っ!」
お母さんやお父さんからも来ていたけど、めぐ姉からは二十件以上も来ていた。つい一時間くらい前にも掛かってきている。夜になったら来ると言っていたみたいだから、折り返しはしないで良いかな。
「取り敢えず、めぐ姉が来たら訊いてみよう」
そう言って、携帯を収納魔法で仕舞うとお母さんが驚いた。
「本当に魔法使いになったのね……」
「え? あ、うん。そうだね」
「杖が出たり消えたりしてるけど、どうなってるの?」
「へ? 身体の中に入ってるだけだよ?」
そう言うと、お母さんはまた驚いていた。何でもないように言ったけど、私も最初は驚いていたし、これが初めて魔法と杖に触れる反応みたいだ。師匠から見た私もこんな感じだったのかな。
そんな会話をしていると玄関が開く音がした。お父さんが帰ってきたみたい。お父さんにも話さないとと思っていると、居間の襖が開いてお父さんじゃない人が入ってきた。黒い髪をポニーテールにしているその人は、さっき話題に出ためぐ姉こと滝川恵だ。
「水琴!」
めぐ姉は、私を見つけるなり涙を流しながら抱きしめてきた。師匠は、お母さんの時に似たような事になったので、すぐに避難していた。
「め、めぐ姉……苦しい……」
「ちょっとくらい我慢して!」
めぐ姉に抱きしめられていると、その後ろからお父さんもやって来た。
「ただいま」
「おかえりなさい。遅かったわね」
「少し道が混んでいてな。それに、警察も混雑していたんだ。そのおかげで、途中で恵ちゃんを拾えたんだけどな」
「そう。それより、水琴から話があるそうよ」
「話?」
お父さんが座るのと同時に、めぐ姉が私を解放してくれた。めぐ姉は私の横に座った。めぐ姉にも聞いて欲しい事だったから、ちょうど良い。
「あのね。私、魔法の学校に通いたい」
「それは構わないが、そもそも転入できるものなのか?」
「どうなの、めぐ姉?」
「え、出来るは出来るけど、本当に転入するつもりなの?」
「うん。だから、茜さんに連絡したいんだけど」
「あぁ~……うん。先生には、私から連絡しておく」
「ありがとう! めぐ姉!」
今度はこっちからめぐ姉に抱きつく。めぐ姉は、慣れた動きで受け入れてくれた。
「そういえば、恵ちゃんも魔法の学校に通っているんだったな。水琴でもやっていけるところかい?」
「二学期からで出遅れてしまいますけど、特には問題ないと思います。魔法を学ぶという点を除けば、普通の学校と同じようなものですし」
「そうか。お師匠さんから見て、水琴は如何でしょうか?」
「継続は力なりを体現するような子ですので、誰よりも才能に溢れている子だと思っています。多少の問題もありますが、それは通っている間に解決するものかと。向こうには、ジル……茜を初めとした私の弟子達もいるので、妹弟子として可愛がってくれると思います」
「そうですか。それでしたら、安心ですね」
師匠の弟子は、私が知っているだけでも茜さん、美玲さん、冷音さんの三人がいる。可愛がってくれるのが文字通りの意味なのか、ちょっと厳しくしてくれるという事なのかは分からないけど、いてくれるだけでも、ちょっと安心感があるのは分かる。特に茜さんとは一ヶ月以上も一緒にいたから、安心感は段違いだ。
「先生から返信が来た。私の時と同じようにやればいいみたい。向こうからも働きかけてくれるので、少しは楽だと思います」
「それじゃあ、明日から手続きのために動くわよ。学校はどこにあるの?」
「えっと、ここから車で一時間くらいの場所。でも、通うのは寮からって聞いてる」
「あぁ~、その点は一つ変わるかも。先生が家に住まないかって」
「茜さん家に? それって有りなの?」
全寮制と言われていたから、絶対に寮に住む事になると思っていた。だから、茜さんから提案されたと聞いて、ちょっと驚いた。それを言ったのが、茜さんだったし。
「基本的にだからね。結界の範囲内に住んでいたら、その限りじゃないの。まぁ、基本的に教師しか住んでいないから、皆寮に入るんだけどね」
「でも、私だけ良いのかな?」
「まぁ、良いんじゃない? 後で、先生が怒られると思うけど……」
この辺りの事は慣れているのか、めぐ姉は少し呆れているような感じでため息をついていた。
「私もジルのところに住む方が良いと思うわよ。多分、あの子の事だから、寮の水琴の部屋に入り浸る可能性があるから」
「確かに……」
茜さんならやりかねないので、茜さんの厚意を受け入れておく方が良い。厚意なのか分からないけど。
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