第24話 初めての死闘
なるべく川に沿うようにして東へと移動していると、『探知』に生き物が反応した。川の反応は魚だと分かるけど、森の方からも何かが来ていた。
すぐに距離を取るために走る。でも、追い掛けてくる何かは、私の動きを読んでいるのか先読みをしているかのように動いている。おかげで、森の中に入って逃げる事は出来ず、川沿いを走らされる事になる。石が転がっている川原だと、さすがに全速力で走るのは厳しい。そうこうしている内に、何かに追いつかれそうになっていた。森の方を見てみると、そこには巨大な影があった。私の身長の二倍はあるだろうから三メートル以上はある熊だ。
真っ黒な体毛の熊は、私の事を睨んできている。確実に私を獲物として認識しているようにも思える。こっちに来る前に、魔力弾で牽制する。威力を抑えて、連続で放っていく。周囲の木や地面を抉るけど、熊は怯みもしない。
(ヤバい……多分、あの黒い狼よりもヤバい……)
こちらを睨み続ける熊は、そのまま川原に入ってきた。
「【突風】!!」
この前使った強烈な突風を起こす魔法を地面の石に向かって放つ。川原の石が異常な速度で熊に飛んでいく。狙いを付けられるようなものじゃないけれど、散弾のようになっているので、熊も避けきれない。
石が直撃して、一部の皮膚を抉る。まさか、そこまでの威力になるとは思わなかったけど、ダメージを与える事は出来た。身体から血を流す熊は、怒りの形相で私を見てくる。これで逃げてくれると思ったけど、相手の闘志を満たしただけになった。
逃げ切る事が現実的ではなくなったので、私は足を止める。深呼吸をして、心を落ち着ける。冷静に対応しないと、私が死ぬ事になる。物理での攻撃が効く事は分かっているので、『突風』を利用して、川原の石を飛ばして熊を牽制する。
それに対して、熊は咆哮してくる。それと同時に、熊の前に魔法陣が出て来て、黒い炎が噴射される。黒い狼よりも規模が大きい。反面、速度は遅い。
「【
魔力の壁を張って、炎から身を守る。そこに、熊が突撃してきた。それも炎の中を突っ切ってくる。身体に炎が移っているけど、気にした様子はない。炎に耐性があるのかもしれない。
熊のタックルに『防壁』に大きな罅が入る。一撃耐えられただけ有り難い。
「【
高速で回転する風に周囲の石が巻き上げられて、細かい砂塵による鋭利な刃物というよりも、無骨な剣による連続殴打のようになった。
狙ってやったことではなかったけど、これが功を奏した。石が熊の身体を殴打していき、身体から血が飛び散る。
「【
周囲の石を鋭く尖らせて、熊に放っていく。殴打によるダメージの他に、今度は切り傷によるダメージが重なっていく。
そんな状態でも、熊は黒い炎の球を出してきた。さっきは火炎放射器のような炎だったけど、今出て来たのは、黒い炎の球。黒い狼と同じものだ。つまり、速度が速い。
魔力弾を速射して、軌道を逸らそうとしたけど、黒い狼の時のようにはいかなかった。恐らく、黒い狼よりも魔力の密度的なものがあるのだと思う。
つまり、黒い炎の球は直撃コースという事。咄嗟に左手で自分の身体を守る。左手が吹き飛ぶのではと思うほどの衝撃だったけど、まだくっついている。
「れ、【
左手に冷たい水を掛けて冷やす。左手は使い物にならない。
「こ、こんの……!! 【
熊の足元で小規模な爆発が起こる。熊は、苦しそうに呻く。でも、大したダメージにはなっていない。でも、確実にダメージは与えられている。
「【爆破】! 【爆破】! 【爆破】!」
熊の足元を何度も爆発させる。爆ぜた勢いで周囲の石が砕けながら飛び散り、それが熊の身体に命中していく。爆発のダメージに加えて、破片によるダメージも重なる。
『爆破』の乱打の中を熊が突っ込んでくる。
「【石弾】!」
真っ直ぐに突っ込んでくるので、『石弾』を撃ち込む。このままいけば、頭に命中すると思ったのだけど、これに対して、熊が前脚で『石弾』を殴る事で弾かれた。『石弾』の殺傷能力が石の先端にしかない事が見抜かれたのだと思う。
そのままだとタックルを食らうので、身体強化を使ってから横っ跳びで避ける。そして、再び多数の『石弾』を熊に向けて放つ。
『石弾』の弾幕の中を、熊は無理矢理突っ込んできた。直撃しているものもあるから、少なからず傷を負う。
しかも、さっきよりもずっと速い速度で駆けてきた。私が身体強化を使っている時と似たような印象だ。私も身体強化を使って、左横に跳んで避けようとした。でも、向こうの速度が思っていたよりも速く、右足が巻き込まれた。
「ぐっ……」
空中で姿勢を崩して、錐揉みしながら川に落ちてしまう。
「んっ……ぐぁ……」
すぐに起き上がろうとするけど、巻き込まれた右足が激しく痛む。歯を食いしばりながら、痛みに耐えて熊を見る。思いっきり叫びたい欲求も抑えながら、熊に杖を向ける。
私が動けない様子を見た熊は笑ったように見えた。そして、こっちに向かって歩いてくる。私が動けないから、急ぐ必要はないと判断したらしい。
「【爆破】!」
熊の身体目掛けて使った『爆破』だったけど、身体が蹌踉めくだけで歩みは止めない。やっぱり、直接攻撃では威力が足りないみたい。周囲にあるものを使った攻撃の方が熊には効く。でも、水の中だと使えるものがない。
私に近づいてきた熊は爪で攻撃をしてくる。私は、まだ動く右腕で身体を庇いながら後ろに倒れる。この行動が功を奏して、右腕に深い傷が出来るだけで済んだ。ズキズキと痛むけど、まだ動く。
「うぅ……」
熊は、今度こそ私にトドメを刺そうとしてくる。私は、まだギリギリ動く右手で杖を握る。攻撃が通用しない相手をどうすれば良いのか。
(水の中……なら……)
私達が水の中にいる事で一つの方法を思い付く。この状況だと、諸刃の剣になりそうな事だけど、思い付く限り、これしか方法はない。
「【
思いっきり魔力を杖に込めて放った魔法は、ずぶ濡れになっている熊だけでなく、周りの水まで凍り付かせた。当然の事だけど、私の身体にも氷が張る。冷凍庫にでも入ったかのような寒さに身体が震える。
でも、これが一番熊に通じている。
「【氷結】!」
もう一度熊に向かって『氷結』を放つ。熊の動きが緩慢になっていき、さらに氷が身体を覆っていく。その余波は私にも来るけど気にしない。ここで倒さなければ、私が死ぬ事になる。生き残る可能性は低いけどある方に賭けるしかない。
「【氷結】!」
どんどんと熊が凍っていく毎に、私の意識も薄れていく。既に熊が動けないくらい凍り付かせているけど、ダメ押しでもう一度使おうとした瞬間、意識がなくなりかけた。身体が限界に近いみたい。
(うっ……ヤバい。せめて……川から……)
せめて、川から上がろうと思ったのだけど、それすらも無理だった。身体が全く動かない。氷に阻まれているというより、身体が思うように動かなくなっている感じだ。自分で、川を冷やしすぎたのだと思う。
(あっ……何か……飛んで……る……)
意識を失う直前、空を飛ぶ何かが見えた。それに関しては、鳥じゃない何かとしか分からなかった。
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