第10話 軽い雑談

 その後、師匠が夕食の食材を取りに行っている間は基礎訓練を続けて、夕食を作っている間にシャワーを済ませた。


「ふぅ……」

「お疲れ様。ご飯出来てるわよ」

「うん。ありがとう。私もご飯作れるようになった方が良いよね」

「まぁ、それに関しては、裏世界脱出云々関係なく、出来た方が良いでしょうね。幸い包丁とかも残っているし、機会があったら一緒に作りましょうか」

「うん。それじゃあ、いただきます」

「召し上がれ」


 夕飯もお昼と同じような献立だったけど、文句はない。まだ食材の種類が少ないわけだし。食事が出来るだけ感謝しないと。


「今日一日続けて貰った魔力増加だけど、そのうち、起きている間はずっと続けて貰うようになるから、そのつもりでいてね」

「えっ!?」


 ずっとという事は、こうして食事をしている間も魔力増加のために身体の内側を意識しないといけないという事だ。割とキツい気がする。


「そのうちよ。それに、感覚を掴んで慣れてきたら普通に出来るわよ。さっきだって、会話をしながら出来ていたでしょう?」

「割と、注意を受けた気がするけど……」


 会話をしながら魔力増加をして、結構動かすのに慣れてきてはいたけど、師匠から注意を受けたのは一度や二度だけではない。多分、その時以外にも、上手く出来ていない時はあったと思う。


「そんなすぐに出来たら、苦労しないわよ。後は、服よね。今日の夜に一着くらいは用意出来るかしら。一番の問題は下着ね。パンツはまだしも……いや、今は要らないわね」

「人の胸を見て、作業が減って良かったみたいな顔しないでよ。これでも傷付くんだよ」


 確かに、大きさ的にブラがすぐに必要とかではないけど、真っ正面から言われると私も傷付く。一応、これでも着けてはいるし。


「心配しないでも、まだ成長する可能性はあるわよ。別に小さくても良いと思うけどね。可愛いし」

「むっ……ん~……」


 さっきまで傷付いていたのに、可愛いと言われて、ちょっと嬉しく感じている自分がいる。我ながら単純過ぎる気がする。


「でも、師匠って裁縫も出来るの?」

「大抵のことは出来るわよ。特殊な技能とか才能が必要なものは出来ないけれどね。水琴の言霊なんかがそうよ。原理は分かっていても、私には言霊にする事が出来ない。生まれ持った才能が必要な技能って事ね」

「そういう魔法とかって、沢山あるの?」


 私が使えると言われている言霊みたいなものが、他にも沢山あるのかが気になった。


「沢山って言う程はないと思うけれど、私が現役だった時代から時間が経っているし分からないわね。新しく見つかっている可能性もあるから」

「そんな増えたりするものなの?」

「科学だって、どんどん新しい事が見つかっていくでしょ? それと似たようなものよ。私は、短命の呪いをどうにかするのに必死で、最近の魔法魔術に深く関わる事が出来なかったから、そこら辺の認知が遅れてしまっているのよ。今やっている修行も、もっと効率の良い方法が見つかっているかもしれないのだけど、今回は私流でやらせてもらっているわ」

「それは仕方ないよ」


 こればかりは、本当に仕方ない。短命の呪いのせいで、碌に研究とかも出来なかったわけだし、他の魔法使いと交流する機会もほぼなかったとも思う。それで現代の魔法魔術を理解しておけと言うのは酷すぎる。


「そういえば、特殊な技能って私が使えるかどうかは分かるの?」

「それに関しては、やってみないと分からないわね」


 言霊みたいなのが、他にも使えるのか興味があったけど、実際に使ってみないと判別はつかないみたい。才能を見つけるのは、結構地道にやるしかないのかもしれない。私の場合は暴発した結果みたいなものだけど。


「特殊な技能って、例えば何があるの?」

「そうね。水琴の生活の中にもありそうなものだと、絵画魔術があるわね」

「絵画魔術? 魔術って付いてるけど、特殊な分類になるの?」


 言霊は魔法とかとは別の分類になると聞いた。だから、特殊なものは、皆、魔法や魔術の括りの外にあるものだと思っていた。


「そうね。絵画魔術に関しては、魔術の中で特殊な分類になっているって感じかしら。画材と描くもので効果が変わってくるから、仮に才能を持っていても、使いこなすのは難しいわよ。私の弟子の一人が、絵画魔術のスペシャリストね」

「へぇ~、師匠は使えないんだよね?」

「そうね。私には難しいわ」

「じゃあ、絵心も必要って事?」

「その言葉は、若干傷付くわね。でも、そういう事よ。多少の絵心は必要になるわ」


 絵画魔術をちゃんと扱うとしたら、絵の勉強もしておかないといけないのかな。それに、もしかしたら美術館とかで飾ってある絵画の中にも、絵画魔術として描かれているものがあるかもしれない。私の生活の中にもありそうというのは、多分そういう事だと思う。美術の授業とかでも絵を見たりするし。


「魔術って、確か色々と物が必要になるんだよね?」


 せっかく魔術の話になったので、本格的な授業の前に話を聞いておく事にした。


「そうよ。必要な物は、表世界で手に入る物から、裏世界でしか手に入らない物、錬金術や魔法薬で出来る物まで幅広いわ。その分、ある程度の自由が利くものでもあるわね。触媒の代用なんていうのは、よくあることだから。まぁ、そのせいで失敗する事が多くなるんだけどね」


 必要な触媒は、必ずしも一通りだけじゃないみたい。でも、ちゃんとしたのを選ばないと失敗する確率が上がるって感じかな。


「ふ~ん……そういえば、師匠の無限転生は特殊な分類の魔術って事にならないの? 確か、特殊な触媒が必要って言ってたよね?」


 師匠が、無限転生について話してくれた時にそう言っていたのを思い出して訊いてみた。


「そうね。触媒を入手するまでが難しいのとそもそも発動に大量の魔力が必要だし、使用する魔法陣の構成も私と無限転生を使った直弟子達しか知らないから、普通の人は使えないわね。ただ、魔法陣が出回れば、使える人も増えると思うわ。これに関しては、私も直弟子達も広めるつもりがないから、現状みたいになっているって感じね」


 特殊な技能を使うわけじゃないから、基本的には誰でも使えるものみたい。ただ、使うために魔力やら触媒やら魔法陣やらが必要だから、それを集められる人だけが現状使用出来るって感じらしい。一番重要そうな魔法陣を、師匠と直弟子さんだけが知っているみたいだから、今のところ使えるのは、師匠とお弟子さん達だけって事みたい。


「そういえば、お弟子さん達も無限転生を使ってるんだったね」

「そうよ。魔法の世界に身を置いたら、いずれは出会う事があるかもしれないわね」

「でも、それならお弟子さんに呪いは解けなかったの? かなり優秀なんでしょ?」


 師匠のお弟子さん達なら、師匠に掛けられた短命の呪いも解く事が出来たのではと思った。師匠自身では、解呪出来るまでの魔力が溜まる前に死んでしまうけど、成長を続けているお弟子さんなら魔力の問題はなくなるはずだし。


「無理よ。短命の呪いは、私の無限転生の魔術とほぼ一体化しているような状態だったの。絡まっていたっていう表現はそういう事ね。だから、普通に解呪しようとしたら、無限転生にも影響が出るのよ。だから、あの子達でも無理だったの。私が自分で無限転生を修復しながら解呪するという方法が一番だったのよ」


 無限転生に影響が及んだら、無限転生自体が解除される可能性が出るという事だと思う。そして、無限転生をするには触媒が必要で、それを集めるのが難しいから、なるべく解除しない方が良いのかな。


「ふ~ん……それじゃあ、封印の方は? 師匠の弟子なら、師匠の代わりに封印とか出来るんじゃない?」

「無理よ。あの子達、そっちの才能はなかったから」

「封印は、特殊な魔術とかなの?」

「封印魔術自体は、ありふれてるわよ。でも、普通の魔術や魔法でも才能の有る無しがあるのよ。どちらかというと、得意不得意かしらね。ある程度までは使えるけど、あれを封印出来る程ではないわ」

「じゃあ、私にも得意不得意があるって事?」

「そうよ。これに関しては、実際にやってみて調べないとね。実践してみないと分からない事でもあるから。判別紙があれば、ある程度分かるのだけどね……作るのは面倒くさいし……」

「ふ~ん……」


 魔法や魔術と言っても、普通の学問とあまり変わりは無さそうだった。学校の授業は、そこそこ出来る方だったけど、ここじゃノートを取るのも難しいし、復習もしにくい。そもそも教科書があるわけじゃないし。その都度師匠に確認していかないといけない事を考えれば、本当に覚えられるか、さらに不安になってきた。

 夕食を食べ終えたら、洗い物をしてから歯磨きをして寝室で寝る。ベッドで横になるやいなや、すんなりと眠りにつく事が出来た。自分が思っていたよりも、あの修行で疲れを溜めていたみたいだ。

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