第11話 想定外のこと

 それから三日間。私は、魔力増加の基礎訓練を続けた。師匠の話を聞きながらでも、大分出来るようになっていて、少しずつ生活の中で続けていくようになった。食事中、シャワー中でも続けて、起きている間は常に魔力増加をし続ける。

 師匠の言っていたそのうちは、思っていたよりも早くやって来た。まだ何度も師匠に注意されるけど、それでも何かをしながら続けるという事が苦にはなっていない。

 そんな生活の中で、毎日変わらない事が一つあった。それは、毎朝あること。師匠による目覚ましだ。

 今日も今日とで、顔に乗っかってくる師匠の柔らかく温かい身体で起きる。


「師匠……」

「起きたわね。すぐに準備しなさい。予定外の事が起きたわ」

「……予定外?」

「ええ。作物が育ちきったわ。もう収穫出来るわよ」


 家の隣に作られた畑の作物が食べられる段階まで育ったらしい。元々一週間以内に育つ異常畑なはずなので、そこまで驚く事では無い気がする。師匠自身がそう言っていたわけだし。


「普通なんじゃないの……?」

「普通じゃないわ。私の知っている肥料ではならない速度よ。確実に、私以外の人の手が入っているわ。ここを利用するのは、私と弟子達くらいだけど」

「じゃあ……お弟子さんが来てるって事……?」

「ないわね。あの子達を見逃すはずないわ。だから、私がいない間に、ここを利用していた子がいるわ」

「ふ~ん……」


 寝起き過ぎて頭が回らない。つまり、私達の他にもここを使っている人がいるって事だけかな。


「まだ寝ぼけているわね。食らいなさい」

「むぐっ!? んん! 起きた! 起きたってば!!」


 二度寝しそうな感じになっていたら、師匠の百裂拳を食らうはめになった。肉球によるものだったから、あまり痛くないけど、顔をペチペチと叩かれるので二度寝は絶対に出来ない。

 ちゃんと起きるために身体を起こすと、師匠が前に座る。


「これは、水琴にとっても大事な事よ」

「ん? お弟子さんが、ここを利用している事が? あっ……そっか。もしかしたら、私達がいる間に、ここに来る可能性もあるのか」

「そうよ。まぁ、家に置いてある物から考えると、可能性はかなり低いでしょうけどね」

「えっ、結局低いの?」


 新しい希望が大きく出て来たと思ったら、急に小さく萎んでしまった。もしかしてと思って期待したのだけど、すぐに裏切られた気分だ。


「ここまで綺麗に片付けているのなら、しばらくは来ないつもりなのよ。それがいつのなのかは分からないけど、タイミング良く来るとは限らないわ」

「それもそうか……でも、ここに何しに来るの? 裏世界は危険な場所でしょ?」


 正直、カワードボアに恐怖を抱く私からしたら、そう何回も来たい場所じゃない。しかも、カワードボアよりも危険な生き物も普通にいるみたいだし、何かしらの目的がなかったら絶対に来ない気がする。


「危険な場所ではあるけど、それ以上に上質な素材が手に入る良い場所よ。ここは、源泉が近いから、源泉に用があったんじゃないかしら?」

「源泉……確か、大気魔力が濃い場所だったっけ? そんな場所が近いの?」

「そうよ。水琴がすぐに近づく事はないから、そこまで気にしないで良いわ。最終的には行く事になるけれどね」

「えっ……外で全裸はちょっと……」


 源泉の説明を受けた時が、ちょうどその話をしていたので、源泉で全裸になるのかと思ってしまった。さすがに、外での全裸は恥ずかしいというか、やりたくない。そこまでの変態になった覚えはないし。


「いや、最終的には全裸になって貰うわ。そういう場所だから」

「…………」


 最大効率を求める師匠としては、源泉での修行は欠かせない事みたい。ただ、これも私が最短で表世界へと帰るためのもの。我が儘で拒否して良いことではない。それでも羞恥心は捨てないでいようと思う。表世界でいきなり脱ぎ出す事はしたくないから。まぁ、さすがに、そこまでの解放感に目覚める事はないと思うけど。


「分かった。それで、今から収穫って事?」


 話を最初に戻す。かなり脱線しちゃったし。元々は畑の話で、作物が収穫可能になったって感じのものだったし。


「そうよ。準備しなさい。これが新しい服よ」


 師匠は、三日の間に二着の服を作ってくれた。二着とも簡単なワンピースだったけど、普通に可愛い。今回もワンピースだった。ただ、前にはなかったシンプルなデザインのパンツが追加されていた。下着の方は、これが初めてだ。


「サイズは合うはずよ。水琴が穿いていたものを参考しているから」


 自分のパンツをまじまじと見られたと思うと、滅茶苦茶恥ずかしい。取り敢えず穿いてみると、本当にサイズはぴったりだった。それに穿き心地も良い。これから愛用出来そうなくらいだ。ワンピースの方も紫色を基調とした可愛いものだった。ちょっと魔女っぽい。


「師匠って、センスはあるよね。絵はあれだけど」

「私としては、ちゃんと出来ているつもりなのだけどね。それじゃあ、早速収穫していくわよ。籠を持ちなさい」

「うん」


 師匠と一緒に作物の収穫を行う。作物は、現実にあるような野菜から存在しないような野菜まで色々とあった。本当に食べられるのか心配になるけど、まぁ、大丈夫なはず。


「割と多いわね」

「師匠が収納する?」

「そうね。保存庫にも入らないだろうから、そうしましょう」


 師匠が使う収納魔法は、時間を停止させられるので、中に入れておけば腐る心配がない。予想以上の収穫量で、家にある冷蔵庫的なものである保存庫の中にも入りきらない。因みに、保存庫には時間停止機能はないので、入れてあるものが腐るという事は普通にある事らしい。

 保存庫にも付けておけば良いのにと言った事があるけど、師匠が言うには、相当難しい事みたい。魔法道具の原理を知らないので、そうなんだくらいにしか思えなかったけど、師匠が言うのだからそうなのだと思う


「それじゃあ、私は仕舞っていくから、水琴は新しい種を蒔いておいて」

「へっ? でも、種は全部蒔いたじゃん」

「さっき、一部の作物を種に変えておいたわ」

「え? あ、本当だ。どうやったの?」

「種化の魔法よ。植物限定の魔法だから、種にする以外に使い道はないわ」


 栽培を効率良くするために開発された魔法って事なのかな。魔法にも本当に色々とあるみたい。おかげで生きる事が出来るのだから、感謝をしないと。

 師匠に言われた通り、種を蒔いていく。いつの間にか、収穫した後の畑も耕し直されていた。私が収穫している内に師匠がやっておいてくれたみたい。

 種蒔きを終えた後は、いつも通り魔力増加の基礎訓練に加えて、朝食の支度をする。師匠に料理を習いながら、魔力増加を続けるのは、ちょっと危ないけど、これが出来るようになったら一歩前進だろうから、頑張ってやっている。

 これが後に魔法や魔術を使う際に、どう影響してくるのか、少し楽しみでもある。努力の成果が出てくれると良いな。

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