第13話 不慮の

 ゴールデンウィーク最終日、今日はお兄ちゃんたちとみんなで遊園地で遊びまわって楽しむ!

 はずだった。

 お兄ちゃんとジェットコースターに乗って、フラフラになった私を介抱してもらって合法的にお兄ちゃんに膝枕なんてしてもらったり。

「……お」

 お化け屋敷で怖がるふりをしてお兄ちゃんに抱きつき放題だと思ってて。

「……み……ゃん」

 あ、2人で抜け出して観覧車に乗って綺麗な夕焼けを見るのもいいなぁ。

「満桜ちゃん!しっかりして!」

「え……?」

 ものすごい勢いで肩を揺すられ現実に戻ってくる。

「大丈夫だから!みーくんは死なないから!」

「し……ぬ?」

 なんだか周りが騒がしい気がする…あれ?あれはお兄ちゃん────なの?

 横断歩道に誰かが倒れている。

 誰か?そんなわけない。

 私が見間違うわけが無い。


 血を流して倒れているのは、間違いなくお兄ちゃんだ。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 昨日は早めに寝付いたおかげか目覚めはすこぶる良好だ。

「ん〜〜!……あれ?」

 伸びをして体を起こしながらリビングへ向かうと、そこには既に透がいた。

「おはよう、水穏」

「居ることには驚かないけど、やっぱり呼び方が変わるとムズムズするな」

「慣れなさい。そもそも本来の名前なのだから何もおかしくはないでしょ?」

「いやまあそれはそうなんだけど、ずっと「みお」って呼ばれてたからな。透の声で名前を呼ばれることに違和感が……」

「…あんなに激しく呼んであげてたのに?」

「流石にあの時はそれどころじゃないよ」

「そう」

 満足そうな顔してるな。

「……朝ごはんはもう食べたのか?」

「まだね、何か作って欲しいわ」

「おっけー、これから出かけるしちゃんと食べとくか」

 冷蔵庫に入ってた卵とベーコンを焼いて、キャベツを千切りにする。

 あとは適当に味噌汁、納豆、余ってたきんぴらごぼうでいいか。

「それじゃ、いただきます」

「いただきます」


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 朝食を食べ終えた俺たちは身支度を整えて目的地である遊園地へ向かう。

 家の最寄り駅で待ち合わせでいいのではと思ったんだけど、ひー姉曰く『現地集合の方がワクワクがある!』との事で遊園地の最寄りで集合となった。

「透、降りるぞー」

 電車に揺られること40分ほどで駅に着き透と2人で待ち合わせ場所へ。

「おーい!みーくんこっちこっち!」

 俺たちを見つけたひー姉が手を振ってくる。

「お待たせひー姉」

「1本前の電車で着いたからそこまで待ってないよ!楽しみで早く来ちゃっただけだし!」

「満桜はまだみたいだね」

「そうだね、まあまだ15分くらいあるしゆっくり待ってようか」


 雑談しながら待つこと13分、待ち合わせギリギリの電車で満桜が到着した。

「ごめーん!寝坊してギリギリになっちゃった!」

「時間すぎたわけじゃないしセーフだよセーフ!」

「いや本当に間に合わないかと思って焦ったんだよ〜!」

「母さんに起こしてもらえばよかったんじゃない?」

「はっ!その発想はなかった……」

 おバカめ

「……揃ったなら行きましょうか」

「うん────って透ちゃん今日もメイド服なんだね…」

「悪い?私はこれが一番落ち着くのよ。公序良俗に反してないなら誰に何を言われようと戯言だもの。」

「いや、可愛いんだけどすごい目立つなって……ほら、駅から出てくる人みんなこっちを見てる!」

「……見世物じゃないわよ」

「そりゃメイド服着た人が外にいたら気になって見ちゃうと思うよ……?」

「ほらほら、立ち止まってたら余計目立つぞー?開演時間もうすぐだし遊園地に向かおう」

「「はーい」」「ええ」

 満桜とひー姉を先頭に後ろを俺と透が着いていく。

 15分ほど歩くと遊園地の入口が見えてきた。

「おおー!久しぶりに見た!やっぱり遊園地の入口まで来るとワクワクしてくるね!」

「あなた最初からワクワクしてたでしょ」

「また別腹のワクワクなのー!……あ、見て!開演時間になってるから着ぐるみが入口に立ってるよ!早く行こ!」

「信号が青になったらな」

「満桜ちゃん落ち着いて?入口でチケットも買わないといけないんだからすぐは入れないよ」

「ううー!早く青になれ〜!」

「聞いてないわね」

「あはは……満桜ちゃんは元気だなぁ。あ、青になったよ」

「よーし、GOGO!」

 横断歩道を渡ろうとした時視界の端に動く何かが見えた

「待て満桜!車が来てる!」

「えっ」

 信号無視だ。そう思った瞬間満桜を右手で前に突き飛ばし、透とひー姉を左手で押し返した。

 ただし俺は横断歩道に思いっきりはみ出している。

 鉄の塊が体にぶつかり鈍い音が聞こえた。一瞬で視界がぼやけて意識を手放しそうになったが最後の力を振り絞って満桜が無事かを確認。

 良かった、満桜は轢かれてない。そこで俺の意識は途絶えた。


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 お兄ちゃんが車に轢かれた?え?なんで?私が飛び出したから?でも信号は青で……なんで車が?

 遠くからサイレンの音が聞こえてきた、警察かな、救急車かな。

 訳が分からない。なんでこんなことになったの?

 また私は、誰かを犠牲にして生きるのか。お父さんの時と同じょうに。

「満桜ちゃんしっかりして!とにかく立てる!?」

「う、うん。大丈夫。陽女ちゃんと透ちゃんは怪我してない?」

「私達もみーくんが後ろに押してくれたから大丈夫。」

「ひとまず救急車が来たわね、早く水穏を病院に運んでもらわないと……」

 電話で支持を貰いながら止血をしていた透ちゃんが救急隊の人にバトンタッチ

「確か救急車って付き添い出来るの1人だよね、満桜ちゃん、行ける?」

「わ、わた、わたし……私、は」

「…………陽女先輩、時間の無駄です。私が付き添います。」

「……わかった。みーくんをお願い。」

「病院がわかり次第連絡します。……満桜をお願いします。」

「任せて!傘雫さんにも連絡しとく。」

 お兄ちゃんと透ちゃんを乗せた救急車が走り去ると周りは少しずつ静かになっていった。

「もしもし、傘雫さんですか?それが……みーくんが事故に逢いまして。……ええ、今は透ちゃんが付き添って救急車で運ばれていきました。病院がわかり次第連絡くれるそうなので1度そっちに戻ります。」

 陽女ちゃん先輩がお母さんに連絡し、その後2人でタクシーに乗って家に帰った。


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「それで、何があったの〜?」

「それが───」

 家に戻った私たちはお母さんに事情を説明した。

 家に戻っている道中でお兄ちゃんは病院に運び込まれ、今は手術をしていると透ちゃんから報告があった。

「……そう。本当に不慮の事故ね〜」

「そうですね……車側が100%悪い事故ですし、みーくんのおかげで私たちは助かりました。」

「…………うん」

「ひとまず、水穏の病院に行ってくるわ〜。透ちゃんだけじゃ色々困るだろうし」

「はい、私は満桜ちゃんについてますから」

「陽女ちゃん、よろしくね〜」

 そう言うとお母さんは病院に向かった。

 部屋には私と陽女ちゃん先輩の2人だけになる。

「満桜ちゃん、今何を考えてる?」

「何……を?」

「そう。今満桜ちゃんが1番心配してることは何かなって」

「心配……してること、は……」

 考える。私が今1番怖いと思っていること、心配していること。

「お兄ちゃん、死なないよね……?」

「やっぱりそこが一番心配だよね……透ちゃんが頑張って応急処置してくれてたし、今もお医者さんが頑張って手術してくれてる。きっと大丈夫だって。みーくんは生きてるって信じよう。」

「うん……うん…」

「みーくんは私たちを置いてどこかに行ったりしないよ。ちゃんと帰ってくる。」

「わたし、まだ……お兄ちゃんに言えて無いこと沢山あるから……だから……ぐすっ」

「私もだよ、帰ってきたらちゃんと言おうね。みーくんがどこかへ行っちゃう前に」

「うん……言う……言う、よ?…っ…うあああああああああああああ」

 自分でもなんで泣いてるのか分からない。ただひたすら心が不安定で、不安で、心細かったから。

「ぐすっ……うん。私もちゃんと言わなきゃね……だから一緒に待ってようね……」

 私と陽女ちゃん先輩は2人で不安になりながらお母さんたちからの連絡を待つのだった。


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 目を覚ますと知らない天井。

 視界が黒くて狭い。左目の方に包帯が巻かれてるのか。

 あれ?これ昔にも同じような流れあったな……あー、そうだ。母親が亡くなった日に意識を失って起きたら病院に居て……

「あ、れ……?」

 俺は……どうしたんだっけ?遊園地に行こうとしてて、横断歩道を渡ろうとして……

「あ……っ!満桜は────いって!!」

 体を動かそうとすると全身に痛みが走って体がベットに沈む。

「無理しない方がいいわよ、全身打撲に左腕の骨折、肋骨にヒビも入ってるらしいから」

 みぎ側からよく知った声が聞こえてきた。

「透……良かった、ひー姉と透も怪我してないか?」

「今のあなたにだけは言われたくない」

「そうよ〜水穏。あなた今、全身怪我しかないんだから」

 左側からは母さんの声。

「母さん……心配かけてごめん。」

「それはもう心配したわよ〜……だけど、3人をしっかり守ろうとしてだし、あなたたちは誰も悪くないもの。謝らないで〜」

「……分かった」

「ちなみに、私も満桜も陽女先輩も怪我はしてないわ。満桜はどこか擦りむくぐらいはしてるかもしれないけれど」

「その程度ですんでるなら何よりだよ」

 結構本気で突き飛ばしたから変にコケたりして大きな怪我をしてなくてよかった。

「それでね、水穏。これからの事なんだけど〜」

「ああ、そうか。そりゃそうだよな。入院とかある?」

「当たり前よ〜2週間くらいは様子を見るために入院して欲しいって言われてるわ〜。頭も打ってるみたいだから念の為にもだそうよ〜」

「分かった。着替えとかは……透、頼んでもいいか?」

「ええ、ものの場所は全て把握してるもの。私がいちばん効率いいわ」

 それはそれで怖いよ?

「水穏も目を覚ましたし、私は病院の人と話して一旦家に帰るわ〜。また明日お見舞いに来るわね」

「分かった。ひー姉と満桜には意外と元気だって伝えておいてくれ」

「う〜ん。それは自分で伝えた方が喜ぶと思うわよ〜?無事だとは伝えるから、あとは自分で話してあげて〜」

「……そう、かもな。ありがとう母さん。」

 それじゃあね〜と言い残し母さんは部屋を出ていった。多分俺と透に気を使ったのだろう。

「それで?それ、見えるの?」

「……気づくの早いな」

「傘雫さんと話す時に首を向けすぎだもの。首を動かすのも痛いはずなのに無茶するわね」

「しょうがない。そうでもしないと────」

「見えないのね、左目」

「……ああ、見えなくなってる」

「喋るのも辛いでしょ」

「肋骨にヒビだっけ?そりゃ痛いよなぁ」

「他に違和感はある?」

「他か……折れた左手に力が入りづらい」

「折れてるんだもの、当たり前でしょ」

「あとは分からん。実際動かしてみないとなんとも言えない」

「そう……ありがとう。また助けられたわ」

「今回は俺が助けなくても透とひー姉は大丈夫だったろ?俺が余計に突き飛ばしただけだ」

「少なくとも最悪の回避は出来たわ」

「…………最悪ねえ」

「どうかしたの?」

 確かに最悪は満桜だけじゃなくて俺たち全員が巻き込まれて大なり小なり怪我を負ったり死んでしまう可能があった事だ。

 だけど、今となっての最悪は……

「回避出来てるとは言えないかもしれない」

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