幕間2 お兄ちゃんと義妹
お父さんが亡くなって一年くらい経った時、お母さんから新しい家族ができると告げられた。
「満桜、お母さん再婚しようと思うの〜」
お父さんが亡くなった時、私も悲しくて辛かったけどお母さんはそれより酷く落ち込んでた。
お葬式から半年くらい経った頃かな、お母さんが少しずつ元気になってきて、私は嬉しかった。
だから、お母さんの幸せを思うと反対しようとは思えなくて
「うん!私は大丈夫!いつ結婚するの?」
自分の中にあるモヤモヤを一生懸命閉じ込めた。
週末に初めて顔合わせをした。お母さんは向こうの子供と会ったことがあるらしく、久しぶりと話をしてる。
「初めまして満桜ちゃん。僕はお母さんとお付き合いさせてもらってます。」
ここまでは、良かったんだ。
私はモヤモヤを上手く消化出来ていなくて、必死にそれを出さないように耐えてた。
「満桜、この人が満桜の新しいお父さんになるのよ〜。そして、この子が満桜のお兄ちゃんになるんだ〜」
お母さんにそう告げられた時、抑えていたものが一斉に出てきちゃったみたい
「……っ!お兄ちゃんなんていらない!お父さんを返してよ!!」
私は走って家の外に飛び出した。走って、走って、走り続けて、今は誰にも会いたくなかった。
気づくと知らない公園のブランコに座ってて、1人で泣き続ける。
「ぐすっ……お父さん……うぅ…お母さ……ひぐっ……ごめ…なさ…!」
何に対してだろう、間違ってしまったという気持ちと、悲しみが混ざってもうぐちゃぐちゃ。
そのまま数時間、私は動けなくて、涙も枯れて、帰り道も分からない。
「どうやって帰ろう……ここ、どこなんだろ。」
携帯もまだ買って貰ってないし、夕方になって公園に人も見当たらない、私は帰れるのかな…不安に駆られながらとりあえず歩くかと思った時。
「やっと見つけた」
「え?」
顔を上げるとそこに居たのはお兄ちゃんになる人だった。
「えっと、満桜ちゃん…でいいよな?傘雫さんと父さんが心配してる。かえろう?」
お母さんでも、お父さんでもなかった。迎えに来てくれたのは今日会ったばかりの男の子。
「……お父さんも、お母さんも来てくれないんだ……私が我儘言ったから……!」
「……。」
「だから君が来たんでしょ!?帰ったってお母さんに怒られるだけだもん!やだ!帰らない!」
嘘だ。お母さんはそんな酷い人じゃない。新しいお父さんもお母さんが好きになった人だ、酷い人間ではないと思う。
それでも小さな子供が癇癪を起こすには十分な理由。
「帰って!私のことはほっといてよ!君には関係ないでしょ!どっか行け!!!」
目の前にいる男の子にイライラをぶつける。
殴って、叩いて、言いたい放題。
酷いなぁ、せっかく迎えに来てくれたのに。勝手に怒って、勝手に叩いて……なのに。
ふと、頭の上に男の子のてが乗せられる。
「ごめん。俺のせいだ。全部。」
違う、君は悪くない。悪いのは私だ。
「だからって訳でもないけど、言いたいことは好きなだけ言ってもいいよ。何言ってもいい。」
「バカ!嫌い!消えちゃえ!しね!」
頭に浮かんだ罵詈雑言を目の前にぶつけ続ける。
「僕は傷つかないから、ぶつけたいものがあれば僕にぶつけていいよ。意味の痛みは僕が受けてあげるから、元気だして」
「っ!うぁ、うあああああん!バカぁぁぁぁ!何で!なんでぇ!私が……私の……ああああああああああ」
枯れてたはずの涙がまた溢れ出して止まらなかった。いっぱい叩いた。いっぱい悪口も文句も言った。
「なんで……どこにも行かないの……ぐすっ」
「なんでって……うーん。ほっとけなかったから……それに、満桜ちゃんは女の子だから。死んだ母さんに言われたんだ、人には優しくしなさい、女の子にはもっと優しくしなさいって。」
「叩かれて、泣かれて、嫌なこと言われても?」
「大したことじゃないよ。それで満桜ちゃんが泣き止んでくれるなら」
「あ……ぐすっ、うぅ……ううううううううぅ。うわあああああああああん!ありがどおおおおお!」
さっきまでの涙とは違った、温かくて、優しくて、嬉しかったから。
私が泣き止むまでずっと、お兄ちゃんは頭を撫でてくれてた。
「……帰る。」
しばらくして泣き止んだ私はちょっと恥ずかしくて、お兄ちゃんを置いてすたすたと歩き出した。
「あ、ちょっと、そっちは家と逆だよ?」
クルッと180度綺麗に方向転換。よし、まだセーフ。恥ずかしくなんてない。
「……かえる。」
「うん、帰ろう。」
お兄ちゃんは私の隣を歩いて、私が道を間違えそうになったら優しくこっちだよって言ってくれて、その時にはもう私はお兄ちゃんの顔を見れなくなってた。
子供が走って出て行ったからといってそこまで遠くに行ける訳もなく、30分くらい歩いたら家に着いてしまった。
「た、ただいま……」
「満桜!」「満桜ちゃん……!」
お母さんと、お義父さんが安心したように私を見る。
「もう!急に飛び出して心配したんだから……!」
「良かった……水穏、ありがとうな、満桜ちゃんを連れて帰ってくれて。」
お母さんとお義父さんはそれぞれ子供に心配と感謝を伝えて、その後はお母さんが作ったご飯をみんなで食べ、その日は解散となった。
2人が帰ったあと、お母さんに心配をかけたことを謝った。
「お、お母さん…ご、ごめ、ごめんなさい……私のせいで……あの……へ?」
お母さんは怒るどころか私を抱きしめる。
「私の方こそごめんね…満桜にはまだ、時間が必要なのに……私の都合で再婚するなんて言って。」
「……?…?ち、ちが」
「満桜が出ていったあと、水穏くんが探しに行ってくれてね?その時二人で話しあったの。再婚はもう少し待とうかって。急にお兄ちゃんが出来るのも、お父さんが出来るのも満桜には負担を強いることになるから。」
本当なら、安心するところだろう。だけどもう私はお兄ちゃんの事が……。
「ちがうの!お母さん!あの、あのね……?」
「満桜?」
「わ、わたし、ね…あの、お兄ちゃんと一緒にいたい……。」
「……み、満桜?」
「あの、あの、私、お兄ちゃんが好きで……だから……家族になったら、一緒に住めるよね?だから、お母さん、再婚……して?」
「……あれ〜?お母さんが思ってるより2人が仲良く〜?う〜ん……。」
「だ、ダメ……かな」
私が我儘を言ったせいで……
「………………水穏くん、流石ね〜満桜が女の子の顔してるわ〜」
お母さんを困らせちゃったかな……?
「お母さん!まだ、あの、お兄ちゃんとは会ったばかりだし、一緒に暮らして、それでも、それでも好きが変わらなかったらね?そしたら、応援、してくれる……?」
「ふふっ…ええ、分かったわ〜。そうねぇ、中学校を卒業するまで満桜が水穏くんの事好きだったら、その時は応援出来るように頑張るわ〜」
「わあ……うん!お母さん!ありがとう!」
次の月、お母さんたちは再婚して、新たに4人での暮らしが始まった。
「お兄ちゃあああん!宿題分かんないー!うわああん!」
「大丈夫だって、教えてあげるから。どこが分からないの?」
お兄ちゃんと一緒にいたくて、かまって欲しくて。
「お兄ちゃん、あの子に虐められた……!ぐすっ」
「……ちょっとここにいてくれな?話をしてくるから。」
あの時のお兄ちゃん、ちょっと怖かったけど嬉しかった。
「ワンワン!グルルルルル……!」
「お、お兄ちゃん、あそこの家の犬毎日吠えてくるの……怖い……」
「俺が間にはいるから……ほら、大丈夫……よしよし。」
何故かお兄ちゃんには吠えないし、近づいても撫でても怒らないんだけどなぁ……あの犬メスだったらしいというのはあとから知った。
とにかくお兄ちゃんは私に優しくて、助けてくれて、かっこよくて……私の好きはずっと、ずっと変わらなかった。
そして、中学校の卒業式前日。
「お母さん、今いい?」
「どうしたの〜?」
「約束、覚えてる?私ね、お兄ちゃんの事好きなまま……ううん、あの時より強くなっちゃってる。」
「……うん。そうよね〜」
「明日、卒業式あとに告白する。」
「ねえ、満桜。お兄ちゃんの事は諦められない?」
「無理、お兄ちゃん居ないと私は生きていけないよ。」
「………………そっか〜なら、お母さんも応援しなきゃね〜!」
「いい、の?」
「言いも何も、約束でしょ〜?それに、大事な娘の初恋ですもの〜お母さんとして、応援しないと!」
「ありがとう!お母さん!」
「だ、け、ど。お兄ちゃん水穏の味方でもあります。」
「へ?どういうこと?」
「満桜、陽女ちゃん、透ちゃん。もちろんこの中なら満桜を1番応援するけど、水穏が他の子を選ぶなら私はそれも見守るの。」
「……ぶぅ、でもぉ!私は諦めないもん!」
「うん、それでいいのよ〜。人生何があるか分からないもの。私みたいに再婚する可能性だってある。水穏が他の人と結婚して、その後1人になることもあるかもしれない。だからね、満桜?」
「う、うん。なに?」
「最後に水穏の隣に居るのは、水穏の事を世界で1番思っている娘なの。ひとまず、明日頑張ってね〜」
「よく分からないけど、分かった!私は最後にお兄ちゃんの隣にいられる女になるよ!」
まあ、振られたし、お兄ちゃん一人暮らし始めちゃったし、何にも上手くいってないけど!?
それでも、気持ちを伝えられただけ前進!
さーて、明日は陽女ちゃん先輩とお兄ちゃんと透ちゃんとゴールデンウィーク最後のお出かけだ!
張り切って遊んで、お兄ちゃんとの思い出を作るんだ!!
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