第10話ゴールデンウィーク4日目 満桜

 〜満桜Side〜

 お兄ちゃんが泣き止んだ後、それぞれ部屋に戻って寝る準備をする…とでも思ったか!

「お兄ちゃん、私を甘く見た事を後悔するといいよ…!」

 日付が変わった頃私は自分の部屋を抜け出し、隣にあるお兄ちゃんの部屋の前に立つ。

 できるだけ静かにドアノブを回す…がしかし、一定箇所以上には動かなかった。

(お兄ちゃんめ…鍵をかけてやがる…)

 ちゃんと私のことを警戒していた、やるな。

(だがしかし、お兄ちゃんの部屋の合鍵の位置は把握済み!既に手に入れているのだよ…!!)

 パジャマについてる胸ポケットから鍵を取り出し鍵を開け、改めて扉を開ける。

 部屋に侵入…いや犯罪っぽいな、逢瀬という事にしよう。

(お兄ちゃんの寝顔を拝見…!)

 窓からの月明かりで照らされたお兄ちゃんの寝顔は可愛くて可愛くて私を狂わせる。

「満桜…。」

 急に名前を呼ばれ体がビクッと跳ねる。やばいバレた!?

「ん…んぅ…すぅ…すぅ…。」

(寝言かい!お兄ちゃん、夢でまで私と会ってるなんて私の事好きすぎでしょぉ!!!)

 胸がキュンキュンしてしょうがないが、本来の目的を果たさねば…。

(それじゃあ失礼して…お兄ちゃんの寝顔を撮るぞ〜!)

 実家にお兄ちゃんがいた頃は隙あらばお兄ちゃんの寝顔を写真に収めていたが、最近はお兄ちゃんが引っ越してしまったので久しぶりにコレクションが潤うまたとないチャンスである。

 スマホを構え、フラッシュを切って月明かりの自然光でお兄ちゃんの寝顔を撮影…

「満桜…透と…なか、よく…」

(ん?透ちゃんも出てきてるな?大人しく私の事だけ登場させていればいいものを。)

「透…キス…」

「は?」

 思わず声が出てしまった。

「んぅ…ん?」

 お兄ちゃんの目がうっすらと開いて…マズイっ!

 すぐにしゃがみこみお兄ちゃんの視界から消える。

 幸い1枚は撮影できたので撤退も辞さない構え。

「あれ、まだ夜か…寝直そ。」

 お兄ちゃんは布団を掛け直し、今日の泣き疲れもあったのかまた規則正しい寝息が聞こえてきた。

(危なかった…というかなんで透ちゃんとキスって単語が同時に出てくるのさ!)

 心の中で嫉妬心を燃やし、同時に思いつく。

 スマホを自撮りモードにして寝ているお兄ちゃんを背に、カメラに向かってピース。

 チャットアプリで透ちゃんを呼び出して…

 満桜:これからお兄ちゃんの寝込みを襲っちゃいまーす!

 今撮った写真も送り付ける。

 すると直ぐに既読がついた。

 透:は?何してるのよ。

 満桜:お兄ちゃんを襲うのさ!明日までお兄ちゃんとの連絡を禁止されている透ちゃんには阻止できまい!ふはははは!

 透:やめなさい、今すぐに。

 透:そんな勇気があるならわざわざこんな連絡はしないでしょうから、やるとは思ってないけど。

(むー、透ちゃんめ私を舐めているな?)

 とはいえ本当に今すぐ襲う覚悟は無い。

 何か透ちゃんをビビらせる方法は無いかと頭をフル回転させる。

(あ、さっきお兄ちゃんの寝言でキスって言ってたな、よし!)

 スマホを操作し、録画を始める。

「やっほー透ちゃん、これからお兄ちゃんのほっぺにチューしちゃいまーす」

 できる限り小声でお兄ちゃんが起きないようにゆっくり近づく。

「ちゅっ」

 そのままお兄ちゃんの左頬にキスをした。

(うわ…うわうわうわ!!これ、ヤバい。)

 1度録画を止めて透ちゃんに送った。

 しかし既読はつくものの、透ちゃんからの返事はなし。

(そんなことよりも心臓がうるさい…)

 お兄ちゃんにキスしてから私はめちゃくちゃ興奮していた。

(やば、これ…止まんないかも。)

 スマホを置き、お兄ちゃんの手の甲にキスしてみる。

(ん〜〜〜!!!!!!やばーいやばいやばいやばい…!!)

 まるでマーキングをするかのようにお兄ちゃんの肌が出てる場所にキスをしていく。

 手首、おでこ、右頬、首筋、太もも…

(なんか、私変態っぽい!?!?)

 あとしてみたい所は、やっぱり唇を合わせるキス。

(でも、それは…お兄ちゃんも初めてかもしれないし…。)

 流石に寝ている時にファーストキス?を奪うのはやりすぎなので自重した。

「ん…」

 お兄ちゃんが寝返りを打つ

(お兄ちゃんの寝顔世界一可愛いな?)

 さっきまで至る所にキスしていたことも忘れ、スマホで静かにお兄ちゃんの寝顔を撮影しまくる。

(うわ〜うわー!コレクションが潤ってくー!!)

 夢中になって撮りまくっていたせいで、ベッドの脇に置いてあったお兄ちゃんの荷物に気づかず踏んでしまい、何かを踏んでしまったと驚いた拍子にベッドの方へ体が倒れる。

(あっマズイ)

 お兄ちゃんにはぶつからないように何とかバランスを取ろうとするが既に遅く、私はそのままベッドに倒れ込んだ。


 〜水穏Side〜

 体を衝撃が襲い目を覚ます。

「いってぇ…何だ?」

 目を開けて天井の方を向くと、何故か満桜と目が合った。

「……満桜?」

「なんでしょうか、お兄ちゃん。」

「何でお前は俺に上半身だけ覆いかぶさってるんだ?」

 そもそも、何故俺の部屋にいるんだ?ちゃんと鍵は閉めたはずなんだけど。

「えーっとですね、お兄ちゃんが一人で寝るのは寂しいかなって…私はお兄ちゃんを心配してきたわけですよ。」

「部屋の鍵かけてなかったか?」

「イイエ?」

 なぜカタコトになる。

「満桜…俺たちはもう高校生だ、一緒に寝るのは男女としてまずい。」

「昼間にあんなに抱きしめあったのに?」

「夜寝るのとは訳が違うだろ…」

「陽女ちゃん先輩とは寝たのに?」

 どうして知ってるんだ!?いやまて、これはブラフだ…下手にリアクションすると墓穴を掘るな。

「寝てないよ…何言ってるんだ。」

 よし、冷静に返せたはずだ。

「嘘つき。」

「何を持って嘘つきと言うんだ…。」

 満桜の反応は疑っている訳じゃなく確信を持っているように聞こえ、冷や汗が出る。

「証拠ならあるよ?お兄ちゃん気づいてない?」

「証拠って?」

 そんなはずは無い、寝る前にコロコロでベッドを掃除したから髪の毛とかは落ちてなかったはずだ。

「昨日の朝お兄ちゃんの部屋に行った時、ベッドから陽女ちゃん先輩が使ってるシャンプーの匂いがした。」

「………。」

 これは詰みか?

「お兄ちゃん、陽女ちゃん先輩とは寝られるのに私とは寝られないんだ、ふーーーーーーーーーーーーん。」

 めちゃくちゃ不満そうな顔してらっしゃる…。

「だ、だけど満桜が俺に覆いかぶさってるのはおかしいだろ?一緒に寝るとしても添い寝だし、その体勢は変だ!」

「うっ…しかしお兄ちゃん、浮気をしたのはお兄ちゃんであって!私は正妻としてこうしなければならないんだよ!」

「浮気でもなければ正妻にした覚えもないよ…。」

 ガチャ

 第三者によって部屋の扉が開けられる。

「水穏どうしたの〜?泥棒でも…あらぁ〜!お邪魔しました〜…」

 バタン

 母さんによって扉が閉められる。

「まって!助けて母さん!息子がピンチなんだ!」

「お母さん公認の仲って事だよね!お兄ちゃん観念しなさい!」

 くっ、こうなったら…!

 肉を切らせて骨を断つ、俺は今にも襲ってきそうな満桜をあえて抱きしめた。

「うぇっ!?おに、え!?」

 そのまま落ち着かせるように頭を撫でる。

「おにいちゃ、頭、撫でてくれてる…えへへ〜。」

「よーし、満桜。今日はこのまま寝ような〜?」

「はーい…。」

 襲われるよりはいいだろうと、満桜が落ち着いて眠りにつくまで撫で続け、満桜が寝落ちしたところでそっと離れてリビングへ。

「しかしなんで鍵をかけたのに入ってこれたんだ…?」

 疑問は残るものの、どうせまた母さんからマスターキーを盗んだんだろうと結論づけソファーに寝転がる。

「今日はここでいいや…ふぁ〜。」

 他に寝る場所がないので仕方なくソファーで眠るのであった。


「水穏、水穏、おはよ〜」

 体を揺すられる感覚がして目を覚ます。

「…母さん…おはよう。今何時?」

「今はね〜9時半を過ぎたところよ〜。」

 もうそんな時間か、昨日は早起きだったが今日は少し遅めの起床だった。

「そんな所で寝て体は痛くなってない〜?」

「んー、大丈夫。少し体を動かせば治る程度だから。」

 軽くラジオ体操のような動きをして体をほぐす。

「あれ、そういえば満桜は?まだ起きてないのか?」

「さっき起こしに行ったんだけど、また水穏の部屋で幸せそうな顔して寝てたからほっといたわ〜。」

「ほっとくなよ…ん?今、またって言った?」

 それじゃあまるで常習犯のような言いぶりだ。

「水穏が引っ越す前まではちょくちょく昼寝とかで水穏のベッドを使って寝てたわよ〜。知らなかったの?」

 どうりで…たまに満桜の匂いがする日があったのはそういう事か。

「満桜の匂いがする日はあったけど、満桜が近くにいた日だったりで俺に匂いがついてるのかと思ってたよ。」

「あ〜それは多分、水穏のベッドで寝たせいで水穏の近くにいたくなった日なんでしょうね〜。」

 そんなことがあるのか。

 でも満桜に聞くと面倒なことになりそうだから黙っておこう。

 母さんと喋っていると上の階から降りてくる音が聞こえてきた。

「おはよ〜お兄ちゃん、お母さん…。」

「おはよう満桜。」

「おはよう〜満桜、昨夜はお楽しみできなかったのね〜」

 危ない、飲もうとしていたお茶を吹き出すところだった。

「お母さん聞いてよ〜お兄ちゃんがね、ギュッて抱きしめてくれてね?もう私は勝ったと思ったの!でも、お兄ちゃんに撫でられてたらいつの間にか寝ちゃってた…。」

「甘いわね〜満桜、相手に隙を与えるからそうなるのよ〜?」

「変なアドバイスしないでくれ…。」

「ふふ、それよりも2人とも今日は出かけるの?」

「今日はねー、お兄ちゃんが良ければショッピングモールまで行って服を買いたいの!」

「一昨日ひー姉と行ったばかりだからなぁ…まあ、満桜の服を選ぶんなら問題ないか。」

「え?陽女ちゃん先輩の服を選んであげたの!?」

「選んだ訳じゃなくて、ひー姉が着た服に感想を言ってひー姉が選んでた感じ。」

「ほんとに?1着も?選んでない?」

「ひー姉に似合うと思うのはって内容なら伝えた。」

「お兄ちゃんは陽女ちゃん先輩がどの服を買ったのか知ってるの?」

「いや、精算はひー姉が一人で行ったから分からないな。」

「……目的を追加します。」


 ショッピングモールに着いた俺たちは早速服屋が立ち並ぶ階へ向かう。

「お兄ちゃん、この前はどの服屋さんに行ったの?」

「この階の…ああ、ここだったはず。」

 エスカレーターを降りたところにあるフロアマップを記憶を頼りに指さす。

「それじゃあ、私はこっちの服屋さんに行こうかな。」

 そう言ってそう言って向かった先は、ひー姉と行った店とは雰囲気が違った。

 ひー姉と行ったのは男女どちらの服も置いてあり、中性的な服もある為色々な人が買いに来るチェーン店。

 対して満桜に連れられてきたのはいかにも女性専用でフリルがたくさん着いたヒラヒラの服や、ミニからロングまでのスカートがズラっと並んでいる。

(まあ下着屋さんよりましか…)

 ポジティブに考えることにした。

「それではお兄ちゃん、私がファッションショーをするので感想を言ってね!」

 満桜は服を手早く集め、試着室へ入った。

「1着目行くよー?」

「ばっちこーい。」

「そらっ!どう?可愛い?可愛い?」

 最初に着た服はピンクと黒を基調とした所謂地雷系のような服、頭には黒のニット帽も被っていて、ショートパンツを履いていた。

「うん、可愛い。満桜はシルエットが女性的だから変にゆとりのある服を着ると着太りして見えちゃうけど、そういう腹回りをキュってまとめられる服を着ると男として目を奪われるな。」

「ありがと!でもまだ冷静だな…それじゃあ次行くよ!」

 冷静じゃなきゃこんな感想言えないわ。

 妹着替え中…。

「ばーん!2着目!」

 次はワンピースタイプだが、腰の少し上あたりでリボンを結んでいるため胸の大きな満桜でも太って見えない。

 さっきの服もそうだが満桜はちゃんとその辺気遣って服を選んでいる。

 水色と白のツートンカラー、清涼感を感じる色使いでこれからやってくる夏にも来やすいであろう薄手の生地、しかし透けて見えるような油断のある服ではなく丈は膝下まで伸びている。

「さっきとは打って変わって清純ってイメージかな、さっきの服は狙って固めた可愛さって印象だけど、このワンピースは自然な可愛さがあって俺は好きだな。」

「お、好感触!それじゃあ次へ行こー!」

 その後も満桜のファッションショーはしばらく続いたが、さすがに店の迷惑になりそうな頃合で止めた。

「あーあ、もうちょっとファッションショーしたかったなー。」

「また今度な、お店に迷惑掛けて出禁になりたくないだろ?」

「それもそうだねー…それじゃあ次はこっちに行くよー!」

 満桜の買った服を持っていない左手を握られ次の目的地へ。

 目の前にその店が見えてきた辺りで嫌な予感がしたが、悪い予感ほど当たるもの。

「お兄ちゃんには、今年私が着る水着を選んでもらいます!」

 下着の次は水着かー…。

「去年も買ってなかったっけ?」

「水着は毎年新調した方が楽しいってのと、去年のはもう入らなくなっちゃったからねー!」

 グッと胸を張る満桜。

「あー、はいはい。それじゃあ選びましょうね〜。」

 頭を空っぽにして邪念を払う。

「去年は一体型だったし…今年はビキニタイプかな〜。お、これ可愛い!」

 満桜が手に取ったのは布が首元まであってデコルテラインを隠せるハイネックタイプのビキニだった。

 レースがカーテンのようになっていて、泳ぐためというより魅せるための水着だ。

「パレオと麦わら帽子があればお嬢様っぽくなりそうだな。」

「いいねー、お嬢様。私もSP侍らせてビーチパラソルの下でマンゴージュースとか飲んでみたいかも!」

 前言撤回、言動がお嬢様っぽくないから無理そう。

「水着も試着していくのか?」

「もちろん!またファッションショーに付き合ってもらうよー!」

「程々にな?」

 満桜は数着の水着を手に取り試着室へ。

 妹水着に着替え中…。

「それじゃあ1着目!」

 着ていたのは先程と同じくハイネックタイプの白い水着だが、先程とは違うデコルテラインが網目状で透けて見えるタイプだった。

「どーお?セクシーかな!」

「実際満桜のスタイルは出るところが出てるから胸元を強調する水着はかなり映える。…まあ俺個人としてはもう少し大人しめの水着だと助かるかな…。」

「おやー、照れちゃってるのかなー?」

「うるさい。次行け、次。」

 妹水着に着替え中…。

「ジャーン!これはどう?」

 今度はピンク色のビキニでレースが着いたストレートに可愛い水着だった。

 ただ上下共に紐を結ぶタイプなので布面積がレース部分以外は少なくて目のやり場に困る。

「うん、やっぱり満桜にはピンクが似合うと思うよ。ただその…やっぱり布面積が少ないと思う…。」

「お兄ちゃんなら好きなだけ好きなとこ見てもいいよ!」

「見ません!次!」

 ワンショルダーの黒い水着

 ワンピースタイプの翠の水着

 スク水

 チャイナ服で赤と白の水着

 ビスチェ風の紺色の水着

 なんか途中で変なのが混じった気がするが、満桜は満足したようで水着も買い終わった。

「他に何か買いたいものはあるか?」

「うーん、服も買ったし、水着も買ったし…うん。大丈夫!そろそろ帰ろうか。」


 電車に乗り最寄り駅まで帰ってきた。

「ねえお兄ちゃん、手繋ご?」

「どうしたんだ急に?今両手に紙袋持ってるから手は繋げないけど。」

「1つちょーだい。ほれほれ、はーやーくー。」

 左手に持っていた紙袋を満桜に渡す。

「あらら、やっぱり服って一気に買うから重くなるよねー。」

「だから俺が待つよ、返しな。」

「やだ。お兄ちゃんと手を繋ぐ方が大事だもん。」

 そう言って手を握ってくる。

「昔さ…お兄ちゃんがよくこうして手を繋いでくれて、一緒に学校から帰ってたよね。」

「そうだったな…満桜が今より寂しがり屋で、泣き虫だった頃だな。」

「意地悪ー!…でも、お兄ちゃんと手を繋いで帰ってる間は寂しく無かったし、泣かなかったんだよ?」

「そうだっけ?」

「そうだよ…嬉しかったんだ〜。同い年だけど、私からするとお兄ちゃんはお兄ちゃんだったんだよ。昔も今も、それは変わらない。」

「そんなに兄らしいことした覚えもないんだけどな…。」

 あの頃はほぼ何も感じられていない頃だから、記憶にも残りづらかった。

「そんな事ないよ!私が宿題の問題解けなくて泣いてた時に優しく教えてくれたし、意地悪な男の子から守ってくれた。近所のよく吠える犬から守るためにその家を通る時は私と犬の間に入ってくれてたっけ。」

 本当に日常の些細なこと。

 どれもあまり覚えてはいないけど、その頃の俺は新しく出来た妹を大切にしようとはしていた。

「私が最初にお兄ちゃんと会った時、なんて言ったら覚えてる?」

「あー、あれは忘れられないな。」

『お兄ちゃんなんて要らない!お父さんを返してよ!!』

 満桜もお父さんを亡くしていて、亡くなった1年後に母さんと俺の父さんが再婚。

 両家の顔合わせはうまくいったとは言えなかった。

「顔合わせに行ったら、会うなりいきなり怒鳴った後走って出ていっちゃったんだよな、満桜。」

「あの後、家を飛び出してひたすら走って…気づいたら知らない公園にいたんだ…。」

「満桜が出ていったあと父さんと母さんはオロオロしてたっけな。」

「そうだったんだ…心配かけちゃってたよね〜。」

「当たり前だろ…母さん、警察に電話するところだったんだから。」

「でも、最終的に私を見つけたのはお母さんでもお父さんでもなくて、お兄ちゃんだった。」

 母さんを父さんに任せて俺は満桜を探しに行った。

 子供のいきそうなところはしらみつぶしに探して、たまたま道であった同級生にも満桜を見てないか聞いて、そろそろ日が暮れるって時に公園でブランコに乗って泣いてる満桜を見つけたんだ。

「あの時ね、ちょっと残念だったんだ。お母さんでも、亡くなったお父さんでもなくて今日会ったばかりの同い年の男の子が迎えに来た。我儘な私に2人は怒っちゃったのかなって。」

「そんなわけない。2人はずっと満桜と俺の心配をしてくれてた。」

「うん。分かってる。お兄ちゃん、その時私になんて言ったか覚えてる?」

「ん?んー…ごめん、それは覚えてない。」

「お兄ちゃんね、『僕は傷つかないから、ぶつけたいものがあれば僕にぶつけていいよ。君の痛みは出来るだけ僕が受けてあげるから、元気だして』って言ったんだよ。」

「不器用すぎるな俺…。」

「だから私ね、その時お兄ちゃんをいっぱい叩いちゃったし、いっぱい嫌なことも言った。それでもお兄ちゃんは私の隣にいて、頭を撫で続けてくれたんだよ。それが、とっっっっっても嬉しかった!!!」

 その後泣き止んだ満桜を連れて帰って、2人ともすごく安心してた。

 母さんの作ったご飯をみんなで食べてその日は解散になったはず。

「だから次にあった時あんなに距離が近かったのか?」

「うん。お母さんとね、話をしたんだ。」

 亡くなってしまった満桜のお父さんの事、新しい家族の事、そして、俺の事。

「家に帰った頃にはお兄ちゃんの事好きになってた。その話をしたらお母さん、すごく困った顔してた。」

「そりゃそうだ、家族になる相手のこと好きになっちゃったなんて言われたら誰でも困る。」

「だからその時はお母さんと約束したの。お兄ちゃんとは会ったばかりだから、一緒に暮らしてそれでも好きな気持ちが消えなかったら私の事応援して欲しいって。」

「母さんはなんて?」

「応援出来るように頑張るわ〜って言ってくれた。」

「おいおい、最初から折れる気満々じゃないか……さて、到着かな。」

 昔話をしているとあっという間に家に着いた。

 ドアノブに手を伸ばそうとして、まだ手を繋いだままだということに気づく。

「あの、手を繋いだままだとドアを開けられないんだけど…。」

「ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんが最終的に誰と付き合って、誰と結婚するかは、今はまだ分からないよね?」

「そりゃそうだけど…どうしたんだ急に。」

「私はね…」

 満桜が急に腕を引っ張ったのでバランスを取るため満桜の方に寄る形になる。

 満桜の方も近づいてきたかと思うと、頬に満桜の柔らかな唇が触れる。

「お兄ちゃんの隣に最後にいる人は私だといいなって思ってるよ!」

 驚いて振り向くと、満桜はどんな桜よりも満開の笑顔で、俺は何も言えなかった。

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