転生令嬢は理不尽なゲームに巻き込まれる

「そっそれよりも、向かい側で、なにやら噂話をしているご婦人がいるでしょう?」


 二個目のパウンドケーキをつまもうとすると、再びルイスが呟いた。


 そんな噂話をしている女性なんか何人もいるではないか――いや、彼の視線は一点に集中してる。その先に居たのは、金髪のご婦人と娘だと思わしき茶髪の少女。そして、夫だと思わしき金髪の男性。


 恐らくセシルが言う『ご婦人』とは金髪の女性のことであろう。


「居ますね」


「マダムの隣に居る女の子、彼女は幸せだと思いますか?」


 ここは「いや、知りませんよ」とでも返したいところだが、あの夜烏が質問してきたのだ。これは挑戦状と受け取るべきだろう。

 実際にゲームのシナリオ中でもルイスが、質問を通して主人公を試すシーンがいくつかあった。


(ここで拒否してしまっては、推理ゲームオタクとしてのプライドに傷がついてしまう)


 ならば、挑戦を受けるまでだ。

 再びルイスの方を見えると、彼は小皿の上に大量の菓子を乗せていた。

 澄ました顔のわりに甘党なのだろうか。


 マダムが話していたのは、彼女と同じ歳ぐらいの女性であった。

 話している内容は大体「知り合いの知事がさ」だの「また新しい食器を買った」だの、ほとんどマウントである。

 このぐらい裕福な家庭なら娘も幸せなのでは――と感じるが、そんなに簡単な話では無いだろう。

 娘らしき少女の服装を見ると、両親の服と比べて装飾が質素な上に身長が低い。しかも、あの髪……。


「これは私の考察ですが、答えはノーです」


「どうしてですか?」


「まず、彼女がまとっている服は両親と比べて質素ですよね。身長の低さも単なる偶然である可能性もありますが、日々の食事に苦しんでいる労働者階級に多い特徴です。そして、彼女の髪は茶色。通常金髪の両親から茶髪が産まれる確率は極めて低い――もしかすると、彼女は養子か、あの男が使用人か娼婦と浮気した際に生まれた子供では?」


 ここで一つ失敗してしまったことに気づく。この理論は遺伝学に基づいている。この世界で、もし遺伝子が発見されていなかった場合、まずいことに……。


 しかし、こちらの心配は杞憂だったようで、ルイスはクスリと笑うと、私の傍まで寄ってきた。そのまま、右頬を掴まれる。

 サファイア色の瞳と視線が交差する。

 彼の美しさ故に、胸の鼓動が止まらない。


「やはり、貴方の事が気に入りました。暇つぶしとして一つゲームをしましょう」


 最後にルイスは、こちらの耳元まで顔を近づけ囁く。

 「やはり」なんて、まるで以前から気に入っていたような言い方をする。


「もし貴方が勝てば、ご褒美をあげます」



𑁍 𑁍 𑁍


 

 舞踏室に戻ると、何やら大騒ぎになっていた。

 入り口付近には数人の王都警察が、集まっていた。


(何事だろう。まさか殺人事件じゃないよね?)


 時間軸的にはまだゲーム開始前のはずだ。

 殺人事件など起こるはずがないのに……。


 王都警察の一人が、私の方を見ると、他のメンバーに小さな声で耳打ちした。そして、何人かの屈強な男達が私の方へ、まっすぐ向かってくる。


「シータ・ソフィア・ノックス。貴方をフレイヤ嬢に黒魔術をかけた疑いで逮捕します」

「待って下さい。どの様な経緯でこのようなことに?」

「フレイヤが貴方の名前を、悪魔に取り憑かれたように呟きながら倒れたのです」


 いや、待て待て。おかしすぎる。

 なぜ私が逮捕されなくてはならない?

 それ以前に黒魔術って……。

 いくら、ここが異世界だからといって、少なくとも私は魔法の類いは使えないはずなのに。


『暇つぶしとして一つゲームをしましょう』

『もし貴方が勝てば、ご褒美をあげます』


 色々と思考を巡らせていると、ふとルイスの言葉を思い出す。

 まさかゲームって――私自身の無実を証明すること?


(こんな理不尽なゲームがあって、たまるか!)

 


 

 




 


 

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