第拾漆話 「不良巫女の来訪」
午後の授業はあっという間に終わりをつげて放課後になった。
マコトは宣言通り俺の後をついてきている。
まだ六尺とは朝の米俵事件から顔を合わせていないというのに、突然のマコト襲来に考えることが増えてしまった。
「言っておくが、六尺はとても臆病だからな。くれぐれも怖がらせるようなことをするなよ?」
「わーってるよ。つか、テメェも偉くなったよなアオスケェ……。後輩が出来た時、話に乗ってやったのオレだかんな?」
「その件については感謝している」
「ま、大船に乗った気でいろよな! オレはこう見えて礼儀作法にうるせぇよ?」
そりゃあそうだろと思った。
こんなピアスバチバチで髪染めてカラコン入れて制服まで改造して遅刻常習犯な、傍若無人っぷりではあるが腐っても神社の跡取りで大地主の一人娘である。
そういう作法とかは身に沁みついているのだろう。
今も俺の前をチョコチョコと歩いているが、その背筋はピンと伸ばされていて歩き方がとても様になっていた。
俺より背が低いので、大船どころか小舟だろと思ったが言わないでおこう。
「つか、何でこんな辺鄙な場所に部室があんだよ? こっちの棟、旧校舎ばりに人いねえじゃねぇか」
「俺が無理言って生徒会に頼み込み承認してもらった部活だからな。他に教室が無かったんだろう」
「いや教室はたくさんあんだろ。てか生徒会ってこたぁ、カリンの奴の仕業だろ」
「知ってるのか?」
「当たり前だろ。テメェんとこのボス、知らねえほうがおかしいだろうが」
「ああ、それもそうか」
「そうじゃなくてもあんなんに目ぇ付けられてんだから、嫌でも覚えるわ」
「それはマコトの学業方面に問題があるからだは思うが……」
「は? オレじゃなくてテメェが……あー、まあ良いやそれは別に」
マコトは俺に『嘘だろ?』みたいな視線を送ってきた。
かと思えば何かを考えるような仕草をしてから頭を掻き、黙々と歩きだす。
確かに俺も去年から香林先輩のお世話になっているが、目は付けられてないと思うんだがな。
いや、香林先輩が大好きな妹である六尺を後輩に持っている以上、目を付けられて当然なのか……?
「ああ、そだ。アオスケ」
「ん?」
「なんか最近、テメェに変わった事あるか?」
「変わった事……? いや、俺は特にないな」
六尺と一緒に挨拶運動対策の為にUFOを呼んだ事や、六尺が幽霊を見えると知った事は変わった事だが、俺の事では無いしな。
「そっか……まあ、無いなら良いんだわ無いなら」
チラッと俺に振り返ったマコトが、また前を向いて歩みを進める。
「おいおい何だその思わせぶりな言葉は!? 俺に何かあるのか起こるのか!?」
それが俺は気になって仕方が無かった。
あるだろこれ、絶対に何かあるだろ。じゃなきゃこんなこと言わないだろ!
「だーっ! うるせえ! 無いなら良いっつってんだろ!?」
「だからその無い何かを教えてくれと言ってるんだ! あるんだろ、何かが!」
「無いもんは何もねえよ! つか、歩きづれぇからくっつくな!」
哲学みたいな問答。
真横から睨んでくるマコトからガルルと威嚇のような声が聞こえてきそうだった。
顔だけ見たら肉食獣なのだが、全体を見たら小型犬である。
そう言えば小さい犬ほど警戒心が強く、よく吠えると聞いた事があるな……。
「オイ、ついたぞ」
「ん? ああ、入らないのか?」
そんな事を話しながら考えていたら、オカルト研究部の入り口に到着していた。
その入り口を避けるようにして、マコトは立ち止まっている。
「馬鹿かテメェ。ここはテメェの城なんだからテメェが先に決まってんだろうが」
「城ってほどじゃないが……それにそんなこと気にしなくても良いぞ?」
「気にすんだろうが、普通。てか待たせてんだし、さっさと入れよ」
厳しく育てられたからなのか、マコトはそう言う事にうるさかった。
それなら俺がトイレから帰ってきた時に、俺の机の上に座っていた事についてはどう説明してくれるのだろうか?
まあさっさと入れと言われてるので、俺は軋む扉に手をかけて――。
「お、お待ち……お待ちしておりましたぁ……!!」
「何してるんだ、六尺……?」
――扉を開くと、六尺がいた。
正確には、部室の床に正座してプルプルと震えながら三つ指をついていたんだ。
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