第拾伍話 「神隠し(物理)」
「や、やめましょうよぉ! ぜぜぜっ、絶対に危ないですよぉ……!?」
「安心しろ六尺。俺は毎朝ランニングでその祠を見てから学校に行っているが、今まで一度だって何か起きたことはないぞ!」
「なっ、何してるんですかせんぱぁいっ!?」
八尺様と出会った祠に行くと知ってから、六尺の抵抗が激しくなった。
怖いのが苦手な事は知っているが、ここまで感情をあらわにして抗議をするのはとても珍しい。
部室で初めて会った時とは全然違う。
……成長したなぁ。
「八尺様を見た場所が両親の実家がある遠方の田舎とかじゃなくて昔から住んでいる地元の町なんだから、毎日行って当然だろう?」
「そっ、それはそうかもしれませんけどプライバシーとかありますよねぇ……!?」
「ほう? 八尺様にプライバシーか……その着眼点は無かったぞ。凄いな六尺!」
「え? えへへ……って、そうじゃないですよぉ!?」
一度照れてからツッコミを入れる。
この短期間でノリツッコミまで習得していたとは……六尺の未来は明るいな。
「え、えっと……こういうのって不必要に接触するのは駄目なんじゃないでしょうか! 冗談半分で肝試しをして酷い目に合う話とか、沢山ありますよね!?」
「六尺……」
「は、はい……!」
「ホラーが苦手なのにそういった前提まで詳しくなっていて凄いじゃないか! いつの間に勉強していたんだ!?」
「う、嬉しいけど違うんですぅ……!!」
これは熱くなってきたぞ。
怖いのが苦手な六尺の為にそういう話をなるべく避けていたが、まさか自分からそういう話題を振ってくるようになるとは思わなかった。
やっぱり逸話や恐怖体験は前提として真意や出所が不明の枕詞が必要となるから、そこをちゃんと最初からおさえている六尺は将来有望間違いなしだ。
「ああ、楽しいな六尺!」
「せ、せんぱいの目がUFOの時みたいにキラキラしてます……」
そうだ。
これこそまさにオカルト研究部本格始動といった様子じゃないだろうか。
オカルトに精通しているが幽霊が見得なくなった俺と、オカルトは初心者だが幽霊が見える代わりに臆病な六尺……最高の組み合わせだな!
「ありがとう六尺……オカルト研究部に入ってくれて……」
「も、もっと感動的な場面でその言葉を聞きたかったです……」
「じゃあ、行こうか……!」
「虫取り少年みたいな目で行く場所じゃありませんよぉ……!?」
あわよくば六尺が俺には見えない何かを見れるんじゃないかと思っていたが、それは間違いだった。
今はただ六尺の成長を祝おう。
UFOの時のように、二人で一緒に楽しくオカルトを共有するんだ。
でも六尺は嫌みたいなんだよなぁ……。
「そんなに嫌か……?」
「え? ま、まあ……」
「ちょっとだけ! ちょっとだけだから! ちょっとだけで良いんだ!」
「何か嫌ですよその言い方ぁ……!?」
これでも駄目らしい。
断れるようになったのを喜ぶべきか、真正面から断られたのを悲しむべきか……。
「そ、それにですねぇ……こ、こういうのはちょっとでも踏み越えてしまったら本当に本当に本当に取り返しがつかなくなってしまうんですよぉ……!」
六尺は凄く必死だった。
臆病なのは時として美徳だが、それよりも……。
「詳しいな六尺……何か知ってるのか?」
「え゛?」
鬼気迫る六尺の勢いに俺は思う所があった。
今までなら言葉は悪いが、少し押せば上手く丸め込める場面が多かったので、ここまで徹底的に舌戦で対抗するのはもはや珍しいどころの話ではない。
それに『踏み越えたら』という言葉はとても気になる。
そんな俺の問いに、六尺は潰されたカエルみたいな声を出した。
「そ、それはぁ……」
「それは?」
長い前髪の奥に隠れた瞳が右往左往している。
その言葉の真意が気になった俺は一歩、六尺に近づいて。
「あ、危ないからですぅっ!!」
「んなぁ!?」
そこを六尺に掴まれてしまった。
ガバッと、その大きな両腕で抱きかかえられるように。
ジャージ越しに感じる六尺の柔らかさと包容力よりも、俺の身体を襲う浮遊感に全てを持っていかれた。
「せんぱいは危ないところに行っちゃ駄目なんですよぉ……!!」
「お、おい六尺!? わ、分かった! 分かったから離してくれ六尺ーっ!?」
六尺は俺を抱きかかえながら走り出した。
目前だった祠がある森がどんどん遠ざかり、朝の街中をとんでもない速度で駆けていく。
フィジカルでは絶対に勝てない小柄な俺は、そのまま大きな六尺に抱かれながら、生徒が行きかい出した朝の町並みと通学路を風のように抜けて俺たちが通う白凪高校へと連れ去られたのだった。
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※作者コメント。
本編の内容に比べてタイトルとキャッチコピーが暗かったので、明るく分かりやすいものに変更いたしました。
内容はこれまで通りですので、これからもよろしくお願いいたします。
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