幕間1 「本当のカクシゴト」
※視点、六坂小森。
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二回目の挨拶運動が終わった日の夜。
私、六坂小森は家と呼べる場所に帰っていました。
「お姉ちゃん。た、ただいま……」
「ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ……やあ小森、おかえり」
「も、もうお姉ちゃん……! ま、また元の言葉で喋ってるよ……!」
「あはは、ごめんごめん。たまに口に出さないと忘れちゃいそうでね。ぽぽぽ……」
お姉ちゃんは古びた祠に背中を預けながら座って、わざとらしく笑う。
いっつもこんな調子だから、学校でいつポロっと喋っちゃうんじゃないかって冷や冷やしてるのに……。
「安心してよ小森。今のボクが言ったって、ただ蒼介くんが喜ぶだけだよ?」
「そ、それが駄目なの……! あと、心を読むのも禁止……!」
「ボクの妹は厳しいねぇ……元々は同じなのにぃ」
「そ、それとこれとは別だよ……!」
私は頑張って怒ってみるけど、お姉ちゃんには効果が無い。
せんぱいのおかげで少しだけ自信がついたけど、まだまだお姉ちゃんには敵いそうにないや……。
「別かぁ。ああ、別と言えばやっぱり今日の朝は別人みたいに見違えた訳だけど……昨日の夜に蒼介くんと会ってたんだよね?」
「だ、だから内緒だって……」
「――小森」
「部活……しただけだよ。へ、変なことや危ないことは、してないから……」
「うん、なら安心だ」
お姉ちゃんの鋭い視線が、私を射抜いた。
とても冷たいその目に胸の奥がギュって苦しくなったけど、私の返事を聞いてすぐにいつもの優しい目に変わる。
納得してくれたみたいだけど、それは私の言葉じゃなくて心の奥を読んだからだ。
「今の小森はほとんど普通の人間と同じなんだから、無茶しちゃ駄目だよ?」
「わ、分かってるよ……そういう力は、全部お姉ちゃんが持ってるし……」
「これも人間社会に溶け込むのなら逆に不便だけどね、便利すぎてさ。そういう意味なら小森の方は文字通り人並み外れた身体能力とその身体のおかげで、蒼介くん的には嬉しいんじゃないの?」
「せ、せんぱいは関係ないからぁ……っ!!」
「あはは! ごめんごめん」
お姉ちゃんは意地悪だ。
絶対に分かって言ってるもん……。
でも……せんぱいの事を考えると顔が、身体が、心が熱くなっていく。
今までだったら絶対にあり得なかった事が、今は夢のように叶っていたんだ。
「小森」
そんな夢に浮かれないように、お姉ちゃんが釘を刺してくれる。
「分かってるね?」
だけどその言葉の釘は、とても痛い。
「蒼介くんには絶対に言っちゃ駄目だよ? もし知られたら、その時は――」
「分かってるよ、お姉ちゃん」
けれど、ちょっとだけ痛みを我慢できるようになった。
校門でした朝の挨拶に比べたら、お姉ちゃんの言葉を遮るのは怖くない。
「私たちが……せんぱいが子供の時に出会った八尺様だって、絶対に言わないから」
ちょっとだけ危ない時もあったけど。
この秘密だけは守らないと駄目なんだ。
私たちの為にも、せんぱいの為にも、絶対に。
そうしないと……せんぱいが、死んじゃうから。
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第1章 大声UFOロマンス 完
次回
第2章 七不思議ボーダーライン
※作者コメント。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第1章という名のプロローグ、いかがでしたでしょうか?
ここからが本当の本編です。
もしこのお話が面白いと思っていただけましたら、作品のフォローや★での評価をしていただけますと、とても嬉しくて励みになります。
それでは次回より、第2章をお楽しみください。
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