第拾参話 「かくしごと」
夜のオカルト研究から一夜明けて、白凪高校にも朝が来た。
静寂に満ちていた校内は嘘のように、日光を浴びて活気に包まれようとしている。
そんな朝の校門で、俺たちは決戦の準備を今か今かと待っていた。
「来るぞ六尺、覚悟は良いか?」
「は、はい……!」
俺は右隣にいる六尺にアイコンタクトを送る。
そうは言っても二十センチ近い身長差によって俺が一方的に見上げる形だ。
でもそのおかげか、長い前髪の下に隠れている大きな瞳にはしっかりと自信が宿っていることが確認できて――。
「おっ、おひゃようごじゃいますっ!!」
――六尺の元気な挨拶が、校門に響き渡った。
「うわっ!? あ、昨日の……お、おはようございます!!」
それに驚いた男子生徒は、昨日六尺を上級生と勘違いした野球部員である。
彼は一瞬だけ目を見開いて六尺を見上げたが、すぐに切り替えて大きく挨拶を返し校舎へと歩いて行って……。
「やったな六しゃ――」
「凄いじゃないか小森! 昨日よりも良い、最高の挨拶だったよ!!」
「え、えへへ……そ、そうかなお姉ちゃん……?」
俺の言葉を遮って、左隣にいた香林先輩が六尺の成長を喜び褒めちぎる。
そのせいで俺の小さな身体は長身姉妹に挟まれてしまった。
男子一人に女子二人だからこの並びがバランス的に良いのだろうけど、どこか悪意を感じざるをえない並び順だった。
はっ!? これが陰謀論か……?
「お、おう……少し噛んでしまったが、自信に満ちた良い挨拶だったぞ……」
「せ、せんぱい……!!」
長身姉妹の間から這い出す俺は、逆にボロボロだった。
それもこれもシスコン全開な香林先輩が全力で六尺に飛びついたからである。
「せ、せんぱいのおかげです……せんぱいのおかげで私、私……!」
「わ、分かったから落ち着け! 挨拶はこの音も続くんだぞ!!」
「はうぁ!? そ、そうですね……! わ、私がんばります……っ!」
机に突っ伏す俺に超大型犬のように近寄る六尺の圧が凄い。
可愛い後輩に慕われる事に悪い気はしないが、ここは朝の校門なので少しだけ自重してもらいたかった。
まあそれでも自分から頑張ると言うようになった六尺を見ていると、この頭上に広がる青空のように清々しい気分になる。
「でも小森に何があったんだい? 昨日の夜に出かけていたみたいだけど……」
「ん? ああ……」
「そ、それは……」
そんな俺たちのやり取りを見ていた香林先輩が首を傾げた。
いつも完璧超人でこっちのペースを常に握ってくる絶対的な生徒会長のその珍しい姿に、俺と六尺は目を合わせて。
『
二人揃って、笑顔で返した。
昨日の事は俺たちオカルト研究部だけの秘密なのだ。
◆
そして放課後。
「せ、せんぱい! ありがとうございました!」
「どうした六尺? 改まって」
オカルト研究部の部室に入って来るやいなや、六尺のお礼が響き渡った。
朝も聞いたが、良い声である。
「そ、その……朝は忙しかったので、ちゃんとお礼言えなくてぇ……」
「途中から自信が無くなってるぞ?」
「ご、ごめんなさいぃ……」
「冗談だよ冗談。よく頑張ったな、六尺」
「は、はい……!」
六尺は俺の指摘に一度だけシュンとして、すぐにパァッと明るい笑顔に変わる。
とは言っても前髪で目が隠れているので口元だけでの判断だが、喜怒哀楽がハッキリしている子なので簡単に分かった。
「おかげで俺も今日は喉の痛みもそこまでじゃないし……あ、そうだ。今日ものど飴を貰ったんだが舐めるか?」
「い、いただきます……!」
大阪のおばちゃんと化した飴をくれる友人から貰ったのど飴を六尺に一つ手渡す。
俺も一つ口に入れると、今日のは蜂蜜が入っているので甘かった。
「おいひぃへふ……」
「それは良かった」
ご満悦の六尺。
その大きな口なのに呂律が回っていないということは、口の中で飴を転がしているんだろう。
今日は噛み砕かないんだなも思ったが、口にする程の事でもないか。
「あ、そういえばせんぱい……」
「ん?」
結局バリバリと噛み砕いた六尺が俺を呼ぶ。
「UFO、来ませんでしたね……」
六尺はさっきまで喜んでたのに急にガッカリしてしまった。
喜怒哀楽が激しくて、見ていて飽きない後輩である。
「気にするな。オカルトとはそういうものだ」
「そ、そうなんですか……?」
「ああ。それに昨日が駄目なおかげで、また挑戦できるだろ? 今度またやるか?」
「は、はいっ……!!」
六尺は元気よく頷いた。
どうやら気に入ってくれたらしい。
「せ、せんぱい! お、オカルトって怖いものばかりじゃないんですね……!」
「お! 分かってきたじゃないか六尺! オカルトというのは神秘と奇跡に満ちているんだぞ!!」
六尺が乗り気でいてくれて、とても嬉しい。
なんていうか昨日と今日が全力でオカルト研究部って感じがしている。
それもこれも、六尺のおかげだ。
「はぅ……良かったです……」
「良かった? 何がだ?」
「あ、いえ。私実はその……ゆ、幽霊とか……見えちゃうので……えへあへへ……」
「ああ何だ、そんな事か……」
気にしすぎだな六尺は。
そんな幽霊が見えるぐらいで、そんな……。
……そんな?
「…………」
「えへへうへ……あ、あれ? せ、せんぱい?」
「…………それを先に言えええええええええええええええええええっっっ!!!!」
「ふえええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっ!!??」
俺の怒号とも言える絶叫に、六尺の悲鳴が混ざり合って木霊する。
それがまたオカルト研究部の悪評を広めることになったが、そんな事は関係ない。
こうして俺たちオカルト研究部の活動は、六尺が幽霊を見えると暴露した事により
また大きく変わっていくのだった。
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