第拾壱話 「可愛いとUFO」

「ゆ、ゆーふぉーですか? う、宇宙人が乗ってる、あの……?」

「ああ。未確認飛行物体の頭文字を取った、そのUFOだな!」

「せ、せんぱい……UFOを、よ、呼べるんですか!?」

「それは俺にも分からん」

「えぇ……?」


 学校の屋上から見上げる夜空は、星がとても綺麗だった。

 雲一つない暗闇に半分の月と星々が輝いて、絶好のUFO交信日和である。

 しかし半月ではなく満月か新月が良かったが、人生とはそういうものだろう。

 全部が上手くいくわけではないのだ。


 気を取り直し、俺は手に持っていたスマホのライト側を上向きにして屋上の地面に置いた。

 明かりとしては少し心もとないかもしれないが、元々暗い屋上ではあるのと無いのとでは大違いである。


「UFOはオカルトに置いてもメジャー中のメジャーだからな、そもそもそんな簡単に呼べるのなら今頃世界中の空はUFOまみれだ」

「よ、呼べるか分からないのにやるんですか……?」

「もちろんだ。UFOを呼べるかは分からないが、俺はいつだってUFOにも八尺様にも会えると思っているし、六尺が明日の挨拶運動を上手くやれるって信じてるぞ?」

「あ、う……」


 ライトの小さな明かりでも分かるぐらい、六尺は顔を赤くしてしまった。

 我ながら少し臭いことを言った気もするが、夜空の下で二人きりというシチュエーションなら許してくれるだろう。

 

「……せ、せんぱいは……わ、私を、信じてくれるんですか?」


 少し間をおいて。

 六尺が不安そうに聞いてくる。

 今の俺には何を不安がっているかすぐに察してやれないが、答えは一つだ。


「当たり前だ。俺の唯一の、可愛い可愛い後輩だぞ?」

「か、可愛い……えへ、ふえへへへへ……」

「そうだ六尺! 可愛いお前なら大丈夫だ!」

「わ、私……可愛いですかぁ……?」

「ああ! 最高に可愛いぞ!!」

「あへうへえへへへ……」


 六尺は器用なのか不器用なのか微妙な笑い方をする。

 まあ。これはこれで可愛いが。


「あ、あの……せんぱい?」

「ん?」

「わ、私とその……は、八尺様って、ど、どっちが……可愛い、ですか……?」


 改まって。

 六尺は不思議なことを聞いてきた。

 やはりさっき同様に質問の意図は不明だが、これも答えは決まっている。


「六尺だな」

「ふえあえっ!?」


 俺は即答した。

 それに六尺は驚いて大声を出す。

 今ぐらいの声が出せればバッチリなんだけどな、挨拶。


「ほ、ほほほ……本当ですか?」

「オカルトは好きだが嘘は言わんぞ俺は。六尺が可愛いのは間違いない」

「あ、ありがとうございますぅ……うえへへ」

「まあそれと同じぐらい、俺は八尺様をカッコいいと俺は思っているがな」

「えう……?」


 六尺が変な声をだして固まってしまった。

 その返事はいったいどの感情なんだろうか?


「俺が子供の時に出会った八尺様は神秘的であり絶対的な存在で、幼かった俺はその圧倒的な存在感にただただ圧倒され、カッコいいと思ってしまった……」

「つ、つまり……?」

「八尺様を可愛いと思ったことはあまりないから、必然的に六尺が可愛いということになるな」

「そ、そう……ですか……」


 これは俺でも分かる。

 六尺が露骨に落ち込んでしまった。

 俺は何を間違えてしまったのだろうか。


 確かに創作やイラストなら可愛い八尺様も大勢いるが、俺が会った八尺様はカッコよかったし、なによりそんな八尺様と瓜二つで可愛いと思える六尺がだいぶ凄いと思うんだけどなぁ。


「……や、やります」


 そんな事を俺が考えていると。

 また少し間を空けてから、六尺が呟いた。


「わ、私やります……! ゆ、UFOを呼んで! か、カッコよくなります!」

「お、おう。その意気だぞ六尺!」


 何だか分からないが、六尺のやる気が再燃してくれたようである。

 こういうのはやっぱり本人の気持ちが大事なので、俺としてはとても嬉しい。


「よし! じゃあ六尺。こっちに立ってくれ」

「は、はい……!」


 俺たちはさっき地面に置いたスマホライトを挟んで向かい合う。

 やる気は一番の最高潮で、間違いなく気やオーラが高まっている。


 今が絶好のUFO交信チャンスだ。


「まずは天に大きく手を掲げるんだ!」

「こ、こうですか……!」

「そうだ! そのまま俺の言う言葉に続いてくれ!」

「わ、分かりました……!」


 俺たちは向かい合いながら夜空に両手をあげる。

 そのまま大声で、太古から続くあの言葉を叫ぶのだ。


「ベントラー! ベントラー!」

「べ、ベントラ……? ベ、ベントラー……!」


 初夏の夜に響く声。

 それが一つに重なって。

 俺たちだけの、部活動オカルトが始まるのだった。

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