第拾話 「夜の密会」

「せ、せせせせんぱい……! ほ、ほんじちゅはお日柄も良く……!」

「落ち着け六尺。焦りすぎて噛んでるし、もう夜だぞ?」


 時刻は夜の九時半を過ぎている。

 補導対象となる時間を考えるとギリギリだが、学校から人がいなくなるにはこの時間まで待つしかなかった。


「だ、だって私……で、デートって初めてでぇ……」

「安心しろ、俺もだ」

「せ、せんぱいも初めて……はうぅ……」


 六尺は恥ずかしいらしく、その場にしゃがみ込んでしまった。

 変な勘違いをしている気がするが、俺も聞くのは恥ずかしいのでこのまま作戦を決行する。


「あまり時間が無い。頼むぞ六尺」

「は、はい……!」


 俺は六尺に指示を出す。

 すると立ち上がった六尺が俺の両脇を抱え、学校を囲う塀の上に上げた。


 視界が、普段と違って凄く高い。

 悲しいが俺の小柄な身体は、六尺の手によって簡単に持ち上がってしまった。


「せんぱい、軽いですね……」

「う、うるさい! ちょっと待ってろ!」


 これでも筋トレはしてるから筋肉はある筈なのに……。

 そんな事を考えたせいで、下から俺を見上げる六尺がいるという珍しいアングルだと気づかない俺は……塀の上から学校の敷地内に飛び降りた。

 そのまま近くの茂みに隠しておいた脚立を取り出して、塀の前に立てる。


「オカルト研究部が元資材倉庫だという利点が活きたな」

「こ、これ……悪いことしてるような……」


 脚立を使いもう一度塀の上に上って、そこから脚立を持ち上げて反対側の六尺に渡した。

 ここが一番疲れるところだが、最初に俺が六尺に持ち上げてもらわなければこの作戦はそもそも成功しないので頑張るしかない。


 そして、俺が渡した脚立を使って六尺が昇ってくる。

 制服姿でスカートな為、後ろが気になっているのか少し動きがぎこちない。

 暗いし誰もいないとは思うが、六尺も女の子なので気にしてしまうのだろう。

 

「まあ、悪いことだな」

「で、ですよね……!?」


 無事に塀に乗った六尺を確信して、俺はまた脚立を上げて学校敷地側に戻す。

 まず俺が下りて脚立を立て直し、そこを六尺がゆっくりと降りてきた。

 降りるときはスカート気にしないんだなと思ったが、暗くて何も見えなかったと言っておこう。


 こうして俺たちは、学校の敷地内に侵入成功したのである。


「しかし世の中にはバレなきゃ犯罪という言葉がある。例えば伝承はあるけれど発見されないUMAにも該当するだろう。つまりこれもオカルトに通ずるということだ」

「……何言ってるんですか、せんぱい?」

「…………行こう六尺」


 流石の六尺でも丸め込めなかった。。

 やっぱり駄目かと思いつつ、後には引けないので校舎へと向かっていく。


「せ、せんぱい……これ、本当に……デートぉ、なんですよね?」

「ん?」


 オカルト研究部がある特別校舎棟一階で細工していた窓の鍵を開けていると、六尺が後ろからそんなことを聞いてきた。

 すごく今更である。

 だけど疑問に思いながらもここまで律儀に着いてきてくれた可愛い可愛い大きな後輩に、俺は言ってやるのだ。


「もちろんだ。夜に年頃の男女がこっそりと密会する。これをデートと呼ばずしてなんと呼ぶんだ?」

「で、デート……せ、せんぱいと、へへへ……」


 どうやら納得してくれたらしい。

 嬉しそうに笑う後輩を横目に窓から校舎に侵入し、靴を履き替えた。


「ほら、六尺も」

「あ、ありがとうございます……!」


 六尺の手を引いて一緒に中へ。

 身体が大きいので問題ないかもしれないが、万が一を兼ねてである。


「は、入っちゃいました……」


 夜の暗い廊下が珍しいのか、六尺が周囲をキョロキョロと見渡している。

 言い方がなんかアレだったけど、誰かに見つかるといけないので気にしないようにして俺は足早に歩き出した。


「六尺、こっちだ。電気はつけれないから気をつけてな」

「は、はい……!」


 六尺は大きいのですぐに俺との距離を詰めてきた。

 俺たちはスマホのライトを頼りに長い廊下を歩いていく。

 ちなみに六尺は怖いのが苦手なので、俺の後ろにピッタリとくっついていた。


「あ、あの。そ、そう言えば……な、何をするんですか……? あ、えと、わ、私はせんぱいと一緒なら、何でも良いんですけどぉ……えへへ」

「ふっふっふ、きっと驚くぞ……」


 雑談を交わしながら階段を上る。

 二階、三階、四階と上る度に俺たちの足音が響いた。


「あれ? せ、せんぱい……この先って……」

「ああ、その通りだ」


 流石に何処へ向かっているか、六尺も気づいたらしい。

 長い階段を超えた先には踊り場とは違う少し広いスペースがあって、そこには一つの扉が佇んでいた。


「なあ、六尺」


 俺はポケットからその扉の鍵を取り出して差し込む。

 ガチャンと鍵が開く音がして、俺はドアノブに手をかけた。


「今から、UFOを呼ぼう」

「は、はい……。はいぃっ!?」


 扉が開き、外から風が吹き込んでくる。

 暗かった視界が開け、俺たちがたどり着いたのは、学校の屋上だった。

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