第玖和 「神頼み君頼み星頼み」

「つ、つまり六尺は長い舌のせいで大声を出すと噛みやすいと……。更にはその舌を見られるのが恥ずかしいからあまり口を開きたくないってことだな……」

「は、はいぃ……」


 恥ずかしそうに六尺は頷く。

 だけど、俺は……? って思った。

 さっきガッツリ壁ドンされて、目の前でその長い舌を見せられているんだが……。


「ふむ……か、噛みやすいのは分かったが、視線を気にするのは解決できそうだな」

「い、いえ……そ、そっちの方がも、問題なんです!」


 雑念を振り払い考える。

 六尺は震えながら答えた。

 何か理由があるのだろうか?


「わ、私が喋ると……な、何故か皆さん上を見るんです……! わ、私の舌が変だからですよね……!?」

「…………」


 デカいからだろ、色々と。

 そう思ったけど口には出さなかった。

 どちらにせよそれを六尺は気にしているのだから、茶化すべきではない。


「な、なら……俺に見せるか? その、毎日……」

「ほぇっ!?」

「ほ、ほら……さ、さっきも言ったが俺はその、長い舌、好きだし……な、慣れれば恥ずかしくもなくなるだろう?」

「あ、うぅ……」


 何を言ってるんだろうか俺は?

 自分でも欲望が駄々洩れなのが分かった。

 しかしこれは六尺の為……そう自分に言い聞かせる。


「で、でも……お姉ちゃんのお願い、明日ですよね……?」

「……おう」


 俺の野望は正論により一瞬にして打ち砕かれた。


「もう神に祈るしか……」

「そ、そんなぁっ!?」

「いや冗談だぞ?」

「え? よ、良かったぁ……神様は、ちょっと……」


 六尺は大きな胸をなでおろしてホッとする。

 神頼みは駄目らしい。

 じゃあ何なら良いのだろうか。


「やっぱり、俺か……?」

「は、はい?」

「……すまない、独り言だ」


 自惚れも甚だしいかもしれない。

 頼られているが、それも俺が六尺の意志を尊重して特訓だと言ったからだ。

 どうにかして六尺に自信をもって挨拶を……いや、せめて人目を気にしないように出来れば……。


「…………」

「あ、あのせんぱい……?」


 考えろ、考えろ……俺。

 俺は六尺の頼れるせんぱいでいなくてはならない。

 それが部活動紹介を失敗して孤独だったこの俺を、オカルト研究部を選んでくれた六尺に対する恩返しだからだ。

 義務でも意地でもない……俺がそうしたいからやる。

 俺がかつて出会った八尺様に瓜二つという事を抜きにしても、思いやりがあって優しい人間である六尺には自分に自信をもって欲しかった。

 

「…………」

「せ、せんぱーい……?」


 俺はオカルト研究部部長。

 人に自慢できるのはオカルトぐらいしかない。

 だったらオカルトで解決出来る道を探すのが得策だろう。

 一般的にオカルトとは胡散臭いものを指すような総称として扱われているが、元を正せば神秘的なものや超自然的なことを指し示す言葉である。


 かつての先人がそれを利用して占星術や魔術を行使したように、俺にも何か六尺にしてやれることがある筈だ。

 星に願いを……なんて臭いことを言うのではなく、自分で星を掴むのである。


 夜空に浮かぶあの星を。

 そう、夜空に……浮かぶ?


「それだぁっ!!」

「ほあぁっ!?」


 天啓を得た!

 文字通り俺は天啓を得たのである。

 俺は叫んで、六尺は転んだ。

 

「あったぞ六尺! 最高の環境で! オカルトを交えながら特訓する方法が!!」

「え、え? え……?」


 テンションの差が激しい。

 はしゃぐ俺と混乱する六尺。


「なあ六尺! 今夜、暇か!?」

「こ、今夜ですか……? ひ、暇ですけどぉ……?」

「デートしよう! 俺と! 今夜! ここで!!」

「ほ、ほえぇっ!?」


 俺はそんな後輩に手を差し伸べる。

 掴まれたその手は、俺の手よりもとても大きな……女の子の手だった。

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