第肆話 「六坂姉妹」

 俺が六尺……六坂小森が香林先輩の妹だと知ったのは、彼女がオカルト研究部に入部した後である。

 香林先輩に妹がいるということ自体は知っていた。それこそ聞いてもいないのに急に妹の話をするぐらい、香林先輩はシスコンなのである。

 まあ確かに最初に名前を聞いて疑問に思い、それを確かめてみたら本当に妹だったと分かった時は心底驚いたのだが。


 まさか俺の数少ない交友関係の血縁者が、限界ギリギリだった俺のオカルト研究部に入ってくるなんてそれこそオカルトめいているだろう。

 だから最初は香林先輩の差し金かとも疑ったのだが、それは香林先輩が珍しく真顔で否定したのでそれ以上の追及は出来なかった。


「わ、私は大丈夫だから……ぶ、部室には来ないでって言ったよね……!?」

「ふむ。それは蒼介くんとの時間を邪魔されたくないからかな?」

「ち、ちが……違うよぉ……!?」


 デカい。

 それにしてもこの姉妹、デカ過ぎである。


 改めて言おう。


 姉である香林先輩は身長一七九センチのスレンダーなモデル体型。その長い足を見せつけるかのような制服のミニスカートをバッチリと着こなしている。これには男女関係なく、全生徒から注目の的だった。


 片や妹の六尺は姉よりも大きな一八六センチのダイナマイトボディ。姉妹らしく足の長さは負けていないが、姉と違って六尺は膝下まであるロングスカートなのででやや地味目である。まあそれが六尺の性格や見た目にも合っているし、俺が出会った八尺様もワンピースタイプのロングスカートだったから、こっちの方が俺の好みだ。


 この大きな姉妹が向き合って話す光景は圧巻の一言。

 捕まったグレイタイプの宇宙人も地球人を見てこのような感想を抱いたのかもしれない。

 あの画像、フェイクらしいけど。


「が、学校でお姉ちゃんと話すの……その、恥ずかしいし……」

「おやおや? それが理由ならこのオカルト研究部の部室は誰も見ていないし、むしろ話すにはうってつけじゃないかい?」

「だ、だってぇ……それはぁ……」


 チラッと六尺が俺を見る。

 これは聞いた話だが、六尺は姉に少なからずコンプレックスを抱えているらしい。

 まあ自分と比べて正反対の完璧超人な姉を持ったらそうなるのも不思議ではないだろう。

 俺でいうところのサッカー部に対する感情みたいなものだ。

 だけど勘違いしてほしくないのは六尺もまた、姉である香林先輩のことが大好きなのである。


「ふふ、彼に見られるのが一番恥ずかしいんだね? 相変わらず小森は可愛いなぁ」

「ぴぎゅっ!? も、もう! お、お姉ちゃんなんて……き、嫌いっ!」


 しかしここでまさかの、全てを覆すカウンターが炸裂した。

 今まで劣勢だった六尺が顔を真っ赤にさせて、香林先輩に嫌いと叫んだのである。

 けれどその大きな身体はプルプルと震えていた。

 多分、自分で言って後悔しているところだろう。長い前髪の奥はきっと涙目になっている筈だ。


「……えっ?」


 しかしそれでも。

 シスコンの香林先輩には効果絶大だったようだ。

 いつも冷静沈着で何を考えているか分からない香林先輩が分かりやすく目を見開き動揺している。

 六尺には悪いが、香林先輩に一年間振り回されていた俺にとってこの光景はかなりのレアなのでもう少し見ていたかった。


「…………」

「…………」


 自分が言ってしまったことを後悔し涙目で震える六尺。

 自分が言われたことを頭の中で反復し固まる香林先輩。

 大きな女子二人は互いに見つめ合ったまま、オカルト研究部に静寂が広がる。


「……お、おねえちゃ」

「うわああああんっ! 蒼介くーんっ! ボク、小森に嫌われちゃったよぉー!!」

「へぶぁっ!?」


 次の瞬間、運動神経抜群の香林先輩は目にも止まらぬ速度で俺に泣きついてきた。

 まるでイノシシに体当たりされたかのような衝撃が俺を襲う。イノシシに襲われたことはないが、多分それと同じぐらいの威力がした。


「お、おおおおおおおおおうおっ!? お、お姉ちゃん何してるの!?」

「むごごごごっ!?」


 六尺の声が聞こえる。

 だけど俺は香林先輩に正面からぬいぐるみのように抱きしめられているせいで何も見えなかった。

 香林先輩はとてもスレンダーでスラっとしているが、その身体はすごく柔らかい。

 これもオカルトだろうか。


「だってぇ! 小森がボクのこと嫌いってぇ!」

「ききき、嫌いじゃないから! だだだから、せせせせんぱいから離れてぇ……!」

「おごぐがぁっ!?」


 背後からえげつない衝撃が俺を襲った。

 それはまるで、トラックがぶつかってきたかのような凄まじい威力だった。トラックにぶつかったことはないけれど、多分同じぐらいの威力だ。

 しかし、衝撃はあれど痛みはない。

 むしろ背中には身に覚えのある極上の柔らかさが押し当てられていて、それは先日の六尺ぬりかべバージョンを思い出すものだった。


「じゃ、じゃあ小森はボクのこと……好き?」

「す、好きだよ! お姉ちゃん大好き! だ、だからせんぱいから離れてぇ!」

「ご……が……ぐぁ……」


 前面に香林先輩、背面に六尺。

 スレンダーな一七九センチと、ダイナマイトな一八六センチ。

 白凪高校が誇る二大長身姉妹の身体に挟まれた俺は、色々な意味で天に昇っていきそうだった。

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