第参話 「せんぱいの先輩」
次の日の朝。
俺は校門で六尺を見つけ声をかけたが、大声で謝りながら逃げられてしまう。
そして、俺の悪評はまた広がった。
「うんうん、それはあの子が悪いね。じゃ、入れるね……」
「何を!?」
「活」
「活!?」
放課後のオカルト研究部室にて。
六尺が来る前に珍妙な来訪者が現れた。
彼女は俺の反応を見ると、愉快そうに腰かけた机の上で組んだ足を入れ替えた。
普通に見る場所に困る奴だ。
「可愛い可愛い後輩の新しい噂を聞いたからね、こうして元気を分けに来たんだよ。どうだい、元気になったろう?」
「何で成金みたいに言うんですか……香林先輩」
「あっはっは! 人生にはユーモアが必要だからねぇ、蒼介くん」
あごの下に手を置いて不敵な笑みを浮かべる彼女は俺の先輩であり、この白凪高校で関わりがある数少ない女子生徒である。
この人は恩人ではあるんだけど、まともに相手をすると調子が狂ってしまうんだ。
暖簾に腕押しというか、柳に風というか。
彼女は掴みどころのない不思議な性格なのだ。
「むぅ? 今、ボクの胸を見て失礼なことを考えなかったかい?」
「いえ、全く」
「それはそれで失礼じゃあないか!」
「どうしろって言うんですか……」
訂正。
当たり屋かもしれない。
俺の呆れた視線の意味を勝手に理解して勝手にぶつかってきて勝手に怒ってきた。
掴みどころのない、とは言ったがそれは胸のことではないのである。
冤罪だ。
「まあキミがお世辞が下手なことや上っ面の言葉を言わないのは分かってるけどね」
「全部自己完結して話すの止めてくださいよ……」
香林先輩の悪い癖である。
地頭が良いせいか頭の回転が速く、会話の内容がよく飛ぶのだ。
話していて退屈はしない。だけどすごく疲れるんだ。
「それは性分だから、むーりっと!」
香林先輩は勢いをつけ、腰かけていた机から飛び降りた。
そんなことをしなくても、高身長の彼女は簡単に降りれただろう。
彼女もまた、デカかった。
身長一七九センチの長身は足がとても長く、モデルのようにスレンダーな体系だ。
ボーイッシュな黒髪のショートボブも本人の性格に合っていて男子生徒から絶大な支持を受けている。
そんなある種のオカルトめいた学園の王子様みたいな先輩女子が何故、こんな辺鄙な場所にいるかと言えば、答えは単純明快で……。
「お、お疲れ……さま、です……?」
――ギィィ、ガラララ。
その答えを持つ人物が、恐る恐る部室の軋む扉を開いて中に入ってきた。
香林先輩よりもあらゆるところが大きい渦中の人物である六尺は、部室にいる俺たちを見ると一瞬だけ固まる。
「あ、あぁ……ぁあぁあああああああああああああっっ!?」
そして、前髪に隠れた目をギョッとさせて叫んだ。
「なななっ、何で、お姉ちゃんが……せせせ、せんぱいと一緒にいるのーっ!?」
「やあやあ、小森。元気そうじゃないか。昨日帰ってからずっと落ち込んでいたから心配してたんだよ、ボクは」
そうなのである。
先輩の本名は六坂 香林(ろくさか かりん)。
俺の一つ上の先輩であり、六尺の実の姉だった。
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