第零話 「少年少女のプロローグ」
地方都市の外れにある小さな田舎町、白凪町(しらなぎちょう)。
そこにある私立学園、白凪高校(しらなぎこうこう)に俺は通っていた。
季節は春、四月も既に後半である。
今は放課後、そして体験入部期間の最終日である。
「ねえ、あの人……」
「しっ! の、呪われるよ……!」
パンフレットを片手に廊下を歩く一年生女子二人がその足を止めた。
その視線の先にいるのは、俺である。
そんな女子生徒二人と目が合った。
すると二人は一目散に走って逃げだしてしまった。
「……虚しい。い、いや虚しくないぞ!」
廊下にポツンと残される、俺。
この一週間、オカルト研究部に来てくれた人数は驚異のゼロである。
そうじゃなきゃ今俺はこうして、悠々自適に放課後の廊下を歩いている訳が無い。
……いや、悠々自適は嘘だ。
本当は誰か良さそうな人はいないかと探していたのである。
強がっても心の隙間はポッカリと空いてしまっていたんだ。
「はぁ……驚いたぁ……」
「今のあの人だよね……オカルトで呪われてる……」
「う、うん。だけど何か思ったより、アレだったね」
「うん……背、小さかったよね」
「聞こえてるぞ、お前たち」
「キャアアアアアアアアアアッッ!?」
「出たああああああああああっっ!?」
廊下の曲がり角で隠れていたさっきの女子生徒に声をかけると、まるで化け物でも見たかのように一目散に逃げていく。
それだけ早く走れるなら、運動部のあるグラウンドに行けば良いのに。
「…………はぁ」
大きな溜息を、一回。
これが今の俺の現状である。
先週行われた部活動紹介で大失敗した代償で、一人も部員が来てくれないどころか、変な噂が学校で流れ始めていたのだ。
俺と関わったら呪われるだとか、オカルト研究部には幽霊が出るとか、あることないこと噂が一人歩きをしていて。
「……噂好きの陰謀論者共めが」
これはこれで、オカルト研究部っぽくはある。
だけどその中心が俺では意味が無いのだ。
だって答えはもう出ているし、俺が俺を研究して何になるって言うんだ。
そして俺は一人、校舎の奥へと進んでいく。
悲しいことにオカルト研究部は立地も最悪で、近づけば近づく程に人がいなくなっていった。
我がオカルト研究部は昨年になんとか承認をしてもらった部活なので、部室は元資材倉庫なのである。
それでもこの日に向けて念入りに掃除をしたし、廃棄される予定だったまだ奇麗な机を裏ルートで斡旋してもらったりした自慢の部室だ。
「神様仏様、どうか新入部員が数人、いや二人、せめて一人でも……!」
最終手段、神頼み。
一人の時間が増えたせいで独り言が増えてしまったようだ。
廊下を歩きながらこんなことを呟いている所を見られたら、また変な噂になってしまうだろう。
しかし悲しいかな、こんな辺鄙な場所には誰も来なくて……。
「……はぁ」
もう一度大きな溜息を吐いて、俺はたどり着いたオカルト研究部の扉を開く。
錆びついているのか少し軋んだ音がする扉を開くと、視界に広がるのは見慣れた、俺以外に誰もいない寂しい部室――。
「…………」
「…………」
――では、なくて。
見覚えがある、我が高校指定の女子制服だった。
しかし、違和感がある。
その制服が、とてもデカい。
白のワイシャツの上に紺色のブレザーを羽織っているのだが、俺の視線の高さにブレザーのボタンがあった。
いくら俺の背が少し……少しだけ低いからと言って、何かがおかしい。
この感覚に俺は不思議な覚えがあった。
これがデジャブというやつだろうか、答えは否だ。
俺はこれと同じ状況を間違いなく経験している。
そう、顔を上げればそこには……!
「…………」
「…………」
巨大な女子生徒が、俺を見下ろしていた。
黒の長い前髪に隠れた瞳が、ギョロッと俺を覗いている。
その黒い髪は腰より長く伸びていてボサボサだが、そんなのは気にならなかった。
病的なまでに白い肌が、その顔が赤く染まっていく。
口があわあわと震えていくが、むしろ俺はその口から飛び出す言葉を待っていた。
――目の前の巨大な彼女は、俺が昔出会った八尺様と瓜二つだったから。
「な、なあ! 君はっ!?」
我慢できなくなって、俺は自分から話しかけてしまった。
それはまるで、あの時と同じように。
「ほっ、わっ、えっ、おっ、ふっ……!」
すると。
まるでしゃっくりのような、声にならない声がして。
「……ふぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっっっっ!!??」
「おわあああああああああああっっ!?」
とんでもない声量の叫び声が、誰もいないオカルト研究部の前に響き渡った。
これが俺と、八尺様に瓜二つな後輩少女……六坂 小森(ろくさか こもり)との出会いである。
この出会いが俺の、いや、俺たちの人生を大きく変えるだなんて……この時は思ってもいなかったんだ。
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