第150話 戦場に向けて出発
エドウィンは冒険者ギルドから帰ると、すぐに各部隊長を招集し、明朝までに全員を集めるよう命令した。
ただし、明日市内の巡回や警備に就く者は除いてだ。
指示を出し終えると、宰相の執務室へと向かう。
貴族殺しの大罪人を捕縛するためとはいえ、スタンピードや戦時中などの緊急時でもないのに騎士団を全て動かすには、話を通しておく必要がある。
コンコンコン
「エドウィンです。急な来訪失礼します。少しお話があるのですが、入室してもよろしいでしょうか?」
「入れ」
宰相の承諾を得て入室し、執務机の前で立ち止まり姿勢を正す。
「それで? 話とは?」
宰相は業務の手を止め、背中を椅子の背もたれに預ける。
「ベイジル男爵とその使用人を殺害したと思われる容疑者を見つけました」
「そうか」
「容疑者は二名。Dランク冒険者のアレンとAランク冒険者のディアナです」
「ほう…Aランク冒険者まで関わっているのか。それで? 身柄は拘束できたのか?」
「できていません」
「流石に騎士達だけでは、ディアナは捕まえられないか。次は騎士団長か副騎士団長自ら捕まえに行く必要があるな」
「いえ、先程私自ら二人の元へ出向いたのですが、身柄は拘束できませんでした」
「理由は?」
「もう一人のアレンが私と同等、いやそれ以上の実力者だからです」
「しかし先程、アレンはDランク冒険者だと言っていたはずだが?」
「はい。自己申告と冒険者の
「なるほど。それで、私の元を訪れた理由は?」
「容疑者であるアレンが身柄を拘束される代わりに、とある勝負を持ちかけてきました。騎士団対アレン一人の生死を賭けた戦いです」
「そのアレンという冒険者は、たった一人で騎士団全員を相手にすると、本気でそう言ったのか?」
「はい」
「お前はその勝負を受けたのか?」
「はい。あの場で無理矢理拘束しようとしても、他の冒険者や市民に大きな被害が出たと思いますし、王都を守護する我々を見下し舐めている発言に我慢できませんでしたので」
「お前が認めるほどの強者なのかもしれないが、一個人が精鋭揃いの騎士団に何ができるというのか。もしかしたら、たかが小国の軍隊だと侮っているのかもしれないな」
「同感です」
「では、騎士団だけでなく魔法士団も出撃を許可する。一冒険者風情に舐められたままでは、国の威信に関わる」
「ですが、勝負の内容はーーー」
「相手は貴族殺しの大罪人だ。まともに相手するな。国の治安維持に支障が無い範囲で軍を動かし、アレンを殺せ」
「承知しました」
「まぁ団長や副団長が相手するまでもないだろう。圧倒的な物量で容易く殺せる。あぁだが、頭部だけは残しておけよ。無様な死に様を公に晒してやる」
「はっ!」
宰相はこの勝負の結果を思いながらほくそ笑み、エドウィンは密かに戦意を高めつつ、部屋を退室した。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
翌朝。
寝ぼけ眼を擦りながら起床した俺は、お風呂で眠気と身体をスッキリさせ、ディアナと一緒に朝食を食べていた。
コンコンコン
部屋のノックと共に訪れた店員の話を聞くと、一階ロビーに騎士団長が来ているとのこと。
それを聞いて、俺は素直に驚いた。
今回は動かす人員の規模が大きいし、準備に時間がかかると思っていたからだ。
しかしこの準備の早さには、騎士団長の本気度が窺える。
あれだけ煽ったのだから、当然といえば当然だが。
朝食を手早く済ませると身支度を整え、ディアナに部屋で待機するよう命じて、ロビーに向かう。
「おはようございます。騎士団長様」
「…随分と余裕のある態度だな。これから貴様がどうなるか分かっているのか?」
「勿論です」
それでも俺の態度が余裕綽々なことに騎士団長は目を細め、そして周囲を見渡し、質問の言葉を投げてくる。
「ディアナはどうした?」
「今回の勝負に彼女は関係ないので、部屋で待機するようにと伝えました」
「そうか。では申し訳ないが、ディアナも連れてきてくれ」
「連れてくる意味がありませんが?」
「貴様との勝負に決着をつけたら、ディアナを拘束する必要がある。わざわざここまで戻ってきて、牢屋に入れるのは面倒だからな」
「まぁそういうことであれば」
再度部屋に戻り、ディアナを連れて一階に降りてくる。
「では、ついてこい」
騎士団長について宿屋を出ると、外には脆くて乗り心地が悪そうな荷台を牽く馬がいた。
「お前達はこれに乗れ」
騎士団長を煽りすぎたせいか、それとも俺達が男爵殺しの容疑者だからか、扱いが雑すぎる。
俺達が荷台に乗り終えると騎士団長も馬に跨りーーー
「これからお前達を戦場へ案内する。それまでの短い時間の中で、精々後悔が残らないよう覚悟を決めておくんだな」
それだけ告げると、俺達の馬車の御者が馬を走らせた。
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