第149話 騎士団長、決断する
騎士団長ーーーエドウィンはアレンの言葉を聞き、その言葉の意図が理解できなかった。
ここ王都と民を守護するため、騎士団5,000名と魔法士団5,000名が防衛戦力として控えている。
総勢一万名の戦力は、一人一人がD〜Cランクの中級冒険者相当の実力があり、部隊長にもなると、Bランクの上級冒険者相当の実力がある。
それを理解した上で言っているのか不明だが、アレンは騎士団5,000名を一人で相手すると言っているのだ。
普通であれば、そんなことは不可能だと鼻で笑い飛ばすところだが…。
アレンの
しかしーーー
(私の【心眼】で所持スキルを視れないことや先程手首を掴まれた時に力負けをしたことを考えると…想定を超える程の実力があるのか?)
エドウィンはここまでアレンの実力に意識が向いていたが、小さく息を吐き、騎士団長として冷静に考える。
既に業務に就いている者や休暇中の者もいる中で、緊急時でもないのに騎士団全員を集めることはできない。
それに絶対あり得ないことだが、もし彼の言葉が現実となった場合、保有戦力の低下で国家の存亡に関わる。
よって、騎士団に被害を出すことなく、男爵殺害の容疑者を捕まえるためにはーーー
「貴様の申し出を聞き入れることはできない。私と貴様で勝負し、私が勝利すれば貴様らの身柄を拘束する。貴様が勝利すれば、私達は大人しく身を引こう」
騎士団長はあくまで、俺と一対一の勝負で問答の決着をつけたいようだ。
しかし、それでは俺が納得できない。
騎士団長を一人殺したところで、大してレベルもスキルレベルも上がらない。
それなら、騎士団を全員始末したほうが得られるメリットは大きい。
「私も騎士団長様の申し出を聞き入れることはできません。先程の条件では、騎士団長様にしかメリットがないように思えますが?」
「そうか? 煩わしい相手がいなくなって、快適に日常生活を送れると思うが?」
「一時的に身を引くだけで、私達の動向は監視するのでしょう? だったらそういう煩わしい相手は、消したほうが楽になると思いますが?」
「…本気で言っているのか? たった一人で騎士団5,000人に勝てると思っているのか?」
「自信があるからこそ、そう申し上げているのです」
「団長! 条件を呑んでください!」
「王都を守護する我々が舐められたままでいいのですか!?」
「自ら不利な条件を提示しているのです! 躊躇う必要はありません!」
「団長!」
「ご自慢の部下の皆様はこう言っていますが…弱腰で臆病な騎士団長様はどうされるのですか?」
挑発を込めた煽りを受ければ、流石に騎士団長も条件を呑むだろう。
もしここで断れば、後ろで騒いでいる部下達に示しがつかない。
「アレン、首を洗って待っていろ」
ようやく俺の条件を呑んだ騎士団長が俺を鋭く睨みつけ、声を低くし脅すように告げた。
「私達は〈傑物の集い〉に宿泊しています。楽しみにお待ちしております」
笑顔でそう告げると、騎士団長は部下達を連れて冒険者ギルドを出て行った。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
騎士団長一行とのやりとりが終わっても、未だ静寂に包まれるロビー。
周囲にいる冒険者や受付嬢は騎士団長一行を見届けた後、視線を俺に戻した。
「アレン、本当に騎士団と戦うつもりか?」
黙って椅子に座っていたディアナが立ち上がり、こちらに歩み寄りながら声をかけてくる。
「ディアナ、お前はあれが虚勢に見えたのか?」
「そうは見えなかったが…今回は戦力規模が〈赤目の闇梟〉とは比べ物にならない。一人で軍隊に勝てるつもりか?」
「勿論だ。現時点でディアナやアレクサンダー、騎士団長クラスが5,000人いても………勝利できると思う」
「普段自信家なお前にしては、今結構長い間があったが?」
「Aランク冒険者相当が5,000人は戦ってみないと勝敗が分からない。しかし、騎士団に所属する騎士の大半はD〜Cランク程度と予想している。それなら負けることはない」
「中級冒険者5,000人規模の戦力に対してそんなことを言えるのは、極一部の強者だけだ。それこそ、異世界人やSSランク冒険者のような」
「そうか。部屋に戻ったら、参考までにディアナのステータスを聞いてもいいか?」
「ダメに決まってるだろ」
「そりゃそうだな」
周囲には俺達の会話に聞き耳を立てている者もいるし、戦いを生業とする中で自分の実力を詳らかにする奴はいないよな。
そのために【隠蔽】があるわけだし。
ディアナは俺の隷属下にあるし、無理矢理聞き出そうと思えば聞き出せるけど…。
ディアナじゃなくても、今度適当な奴を隷属下して、レベルや能力値、スキルレベルを吐き出させてみるか。
あるか分からないが、スラム街で犯罪組織を探すのもありだな。
そのあと、受付で今回の報酬ーーー虹金貨十二枚と真銀貨七枚、白金貨五枚を受け取り、冒険者ギルドを後にした。
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