第148話 勝敗決定に悩む騎士団長
「そうですね…騎士団長様がここまで足を運んでくれたのです。私達が何故、ベイジル男爵の屋敷に訪れたのかをお話ししましょう」
「それは助かるな」
「騎士団長様は、ベイジル男爵の悪趣味についてご存知でしょうか?」
「悪趣味?」
「はい。ベイジル男爵は、犯罪組織〈赤目の闇梟〉が攫った女性冒険者や街娘を購入し、屋敷の地下で甚振り犯すのを楽しんでいたようです」
「…」
「部下の騎士様が見た放心状態の女性は、男爵の悪趣味の被害者です。屋敷の地下にいた五人の女性達は、私とディアナで救出し、下街の診療所に身柄を預けました」
「…」
「ただ、ベイジル男爵とその使用人が殺害された件については、犯人は私達ではありません」
「…話は分かった。では、犯罪組織とベイジル男爵の繋がりやベイジル男爵の悪趣味についての証拠はあるのか?」
「犯罪組織は既に私が壊滅させましたが、スラム街にある拠点に証拠はあるかもしれません。悪趣味については屋敷に地下があり、診療所に被害者の女性達がいますが…精神的ダメージが大きいので、証言は難しいと思います」
「スラム街にある犯罪組織の拠点は私達でも把握している。拠点の捜索と被害者への聞き取りは、我等が行おう」
「そうですか」
「しかし、二人は一時的に拘束させてもらう。現時点で犯人の可能性が高いのが二人だ。動機も被害者の女性達の救出するために、ベイジル男爵を殺害した可能性が高いからな」
「それはお断りします」
「…なんだと?」
「被害者の女性達が証言するまで真偽は不明ですが、私達の行動は正しいはずです。男爵殺害の動機と部下の目撃証言だけで拘束されのは勘弁です。しっかりと私達が男爵を殺害した証拠を確保してから、改めて私達の元へ来てください」
「それこそ無理な話だ。この王都に住む民の生活や安全を守るのが我等の仕事。犯罪を犯した可能性が1%でもあるなら、身柄を拘束しなければならない。それに、我等が証拠確保に動いている間に、国外へ逃亡される可能性もある。どうか理解してほしい」
「とても正しく強い信念をお持ちのようですね。ですが、私に言わせれば騎士の皆様は怠慢が過ぎると思います」
「き、貴様!」
「おい、落ち着け」
俺の言葉を聞き、激昂した部下の一人を宥める騎士団長。
「騎士団長様はとてもお強いと聞きましたし、騎士の皆様も精鋭揃いなのでしょう? それなのに、スラム街に蔓延る犯罪組織を放置し、民の指導者となるべき貴族階級の者が犯罪を犯していることも把握していない。これを怠慢と言わず、なんと言うのでしょう?」
「我々も日々精進しているが、人間であるが故に完璧ではない。小さな綻びを見つけることは、簡単なことじゃない」
「確かに、人間である以上全てを完璧に熟すのは無理でしょう。ですが、それは被害者には関係の無いことです」
「…」
「何のために日々厳しい修練を重ね、市内の巡回や警備に取り組んでいるのか、今一度考え直したほうがいいですよ。それと今回は、私達が騎士の皆様に代わり被害者を救出したのです。感謝こそすれ、身柄を拘束される謂れはありません」
「しかし、男爵とその使用人を殺害した者は捕えなければならない。仮に男爵の悪趣味が事実であっても、それは法廷で裁かれるべきであって、一個人が殺していい理由にはならない」
そうだな。
元の世界でも犯罪者は警察に捕まり、裁判で法律に則り裁かれる。
被害者や遺族が加害者に対して復讐するのは、極めて稀なケースだ。
この世界も同じで、一個人の裁量で誰かを裁くことは許されない。
でもそれは、互いに助け合い支え合う人間であれば、の話だ。
俺は魔物。
人間社会に潜む化物。
俺は人間が制定した法律には縛られない。
俺が正義だ。
「残念ながら、騎士団長様と私では相容れないようです。これ以上話しても時間の無駄なので、失礼してもいいでしょうか?」
俺は席を立ち上がり、受付に報酬を取りに行こうとする。
しかしーーー
「待て」
騎士団長に肩を掴まれ、足を止める。
「まだ何か?」
「大人しくついてきてもらいたかったが…仕方ない。力ずくで身柄を拘束させてもらおう」
「できると思います?」
騎士団長の手首を掴み、少し力を入れて引き剥がす。
騎士団長は俺に手首を掴まれ、未だにびくともしないことに驚く。
(どういうことだ? 掴まれた手を振り解くことができない…)
「どうしました?」
「貴様…」
今まで冷静沈着だった騎士団長が、ようやく敵意を剥き出しにする。
(まだお互いに本気ではないとしても、筋力値は俺のほうが上だな)
一つ、騎士団長の実力が判明した。
「ここで私と戦いますか? ディアナが加勢しなくても、私一人で皆様を倒すことは容易ですよ?」
「いいだろう、相手をしてやる。だが、ここでは他の冒険者にも市民にも被害が出る。我等騎士団の訓練所に来い。そこで貴様を倒し、必ず捕縛してやる」
「場所は移してもいいですが、私と貴方の勝負だけではつまらないです。勝負の方法は、騎士団の皆様と私一人で戦うのはどうでしょう?」
「…本気で言っているのか?」
「勿論です。それと、勝敗決定はどちらかが死ぬまで。如何でしょう?」
「き、貴様!」
「俺達を舐めやがって!」
「団長! その勝負受けてください!」
「団長!」
しかし肝心の騎士団長は、安易に頷くことはなかった。
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