第146話 偉そうな騎士とのやり取り

 俺の用事ーーー武具の新調と売買は完了した。


 「ディアナ、ついでだからお前の武具のメンテナンスもしてもらったらどうだ?」


 「いや、大丈夫だ。私は最近、メンテナンスしたばかりだからな」


 「そうか。では用事も済んだことだし、次は冒険者ギルドに向かうぞ」


 「あぁ」


 「アレンの兄ちゃん、また武具の新調やメンテナンスが必要になったら、俺の店に来てくれよ! 必ず力になるからよ!」


 「はい。その際はよろしくお願いします」


 ダライアスさんに軽く頭を下げ、店を後にする。


 狩場に向かう前に掲示板の依頼書を確認するため、ディアナと一緒に冒険者ギルドに向かっていたがーーー


 「おい、止まれ」


 前方からこちらに向かって歩く騎士二人に、突然声をかけられ、立ち止まるよう命令された。


 「何でしょうか?」


 「「何でしょうか?」だと? 貴様…惚けるつもりか?」


 「惚ける? 何を言っているのですか?」


 すると、隣のディアナが大きく溜め息を吐く。


 「貴様! まだ惚けるつもりか!?」


 いや、本当に。


 騎士様に声をかけられるようなこと、何かあったかな?


 ディアナは心当たりがあるようだけど。


 「その、自分の胸に手を当てて聞いてみろ! みたいな問いかけはやめて頂けますか? どのようなご用件なのか、はっきりと言葉にして頂きたいです」


 騎士二人が激しく憤慨しているのが手に取るように分かる。


 騎士の一人が一歩前に出ると、周りに聞こえないように注意しながら、小声で用件を伝える。


 「ベイジル男爵とその使用人を殺害した容疑者として、お前ら二人に声をかけたのだ。理解したか? 大罪人」


 騎士から告げられた内容を聞き、ようやく思い出した。


 てか、普通に忘れてた。


 一日中眠り続けたのと武具の新調で、そんな些細なことは既に頭に無かった。


 「何のことでしょう? 人違いではありませんか?」


 ここは一旦、人違いで押し通してみる。


 「いや、間違いない。私達はベイジル男爵の屋敷で貴様達と対峙し、その顔をはっきり覚えていたからな」


 「そうは言われましても…」


 「惚けても無駄だ。大人しく我等と共に、騎士の詰所まで来てもらうぞ」


 惚けても無駄なら、お前達の命令はお断りさせてもらおう。


 「お断りします」


 「「はっ?」」


 俺の想定外の返答を聞き、素で驚く騎士の二人。


 「な、何を言っているんだ? 貴様は?」


 「聞こえませんでしたか? 貴方達と一緒に騎士の詰所に行くのを、お断りしますと申し上げました」


 「お、お前らに拒否権は無い!」


 「それでもお断りします」


 「貴族殺しの大罪人が我等騎士に舐めた口を聞くな!」


 激怒して俺の胸倉を掴む騎士。


 「実力行使ですか? それはこちらにとって好都合ですね」


 俺は騎士の首を掴み、金属鎧の重量などお構いないしに持ち上げて見せる。


 「ぐっ…は、離せ…」


 騎士は俺の腕を掴み、宙に浮く足をジタバタさせる。


 「どうした? 俺達を騎士の詰所に連れて行くんじゃないのか?」


 「き、貴様! 我等騎士にも反抗するつもりか! ただでは済まないぞ!」


 お仲間の騎士が吠えるが、その程度で俺が臆するとでも?


 「どうただでは済まないんだ?」


 「我等では無理でも、騎士団長や副騎士団長がお前らを必ず捕まえる! そうすればお前らは、法廷で裁かれ極刑で死罪だ!」


 なるほど。


 こいつらの自信は、騎士団長や副騎士団長の実力によるものか。


 「それで? 騎士様が信頼する騎士団長や副騎士団長はどれほどの実力者なんですか?」


 「ハハハ! 二人はAランク冒険者相当の実力者で、騎士団長は英雄と讃えられるSランク冒険者に近しい実力者だ!」


 そうかそうか。


 ディアナと同等の副騎士団長に興味はないが、Sランク冒険者に近しい実力をお持ちの騎士団長には興味があるな。


 「そうですか」


 「ハハハ! 先程までの威勢が無くなったようだな! では、その手を離し大人しく我等にーーー」


 「何度も同じことは言わせないで頂きたい。それより私達を捕縛したいのなら、騎士団長を連れてきてください」


 「ゲホッ、ゲホッ…」


 首を掴み持ち上げていた騎士を離し、次は騎士団長を連れて来るように伝える。


 「き、貴様…後悔することになるぞ」


 「ご承知の上です」


 「クソッ! 行くぞ!」


 偉そうな騎士二人は、俺達の横を通り過ぎて行った。


 俺達と騎士のやり取りを見ていた皆の視線を無視し、再度冒険者ギルドに向かうため歩き出す。


 「アレン、お前は怖いもの知らずだな」


 ディアナから呆れたような物言いを受ける。


 「そうか? 実力主義の世界に身を置いている冒険者なら、たかがDランク程度の騎士の言いなりになるほうがおかしいと思うが?」


 「確かに騎士一人一人の強さはそこまでではないが、逆らえばどうなるかそれを分かっているから、アレンのように反抗する奴は滅多にいない」


 「この世界は弱肉強食。誰が弱者の言いなりになるものか。俺を捕縛したいなら、実力で捻じ伏せろってことだ」


 そのあと、冒険者ギルドで〈ミスリル・ゴーレム討伐〉の依頼を受けた俺達は、夕方頃まで魔物を狩り続けた。


 

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