第143話 被害者の女性達、救出
ディアナの様子を見に行くと、直前まで世話をしていたであろう被害者の女性に寄り添い、寝落ちしていた。
他の女性達も皆眠りに落ちており、ディアナを起こし性欲処理をしてもらおうとも考えたが、日中の活動に差し支えると思って辞めた。
仕方なく近くに腰を下ろし、すぐそこまで迫っている早朝まで、仮眠を摂ることにした。
「キャー!」
そして、屋敷中に響き渡る女性の悲鳴で目を覚まし、大きく伸びをしてから立ち上がる。
ディアナも今の悲鳴で目を覚まし、いつの間にか部屋にいた俺に声をかける。
「今の悲鳴は…あの執事の死体を見られたのか?」
「だろうな」
「キャー!」
「この悲鳴は?」
「執事の死体を発見して緊急事態だと悟り、男爵の元へ報告に向かったがその男爵も死んでおり、思わず悲鳴を上げた。こんなところだろう」
「そうか。では、窓から彼女達を連れ出すか?」
「最速で彼女達を連れ出すには、俺とディアナが一人ずつ運ぶ必要がある。その間に騎士達がここへ駆けつけるだろうし、残りの女性達に気づくのは時間の問題だ。だから開き直って、堂々と行動する」
「分かった」
俺は部屋の窓を開け、女性を一人背負う。
ディアナも女性を背負ったところで、窓の前へ来させる。
「ディアナ、お前の全速力で大通りを駆け抜けろ。俺はそれについていく」
「分かった。駆けつける騎士や見張りの騎士はどうする?」
「捕縛または攻撃の意思が無ければ無視、それ以外は面倒だから殺す」
「あ、お前! 流石にそれはーーー」
「既に貴族を一人殺しているから今更だ。そしてディアナ、お前がこの女性達を救いたいと言ったんだぞ? 歯向かう騎士も殺さず、被害者の女性達も救いたいなんて考えは捨てろ。俺は勇者でも正義の味方でもないし、そんな面倒ごとは御免だ」
「くっ…」
「さぁ、早く行け」
まだ葛藤はあるみたいだが、俺の言葉を聞いて窓から飛び降り、全速力で駆け出すディアナ。
俺もその後に続く。
元々、男爵の屋敷が下街と上街を隔てる石壁に近いこともあり、すぐに門に到着し飛び越えた。
何か後ろから声が聞こえた気がしたが無視し、ディアナの案内で下街の診療所に向かった。
辿り着いた診療所の扉を開け中に入ると、白衣を着た男性が出迎えてくれた。
「見たことないお客様だね。何の御用かな?」
「すまない、急いでいるので簡単に説明する。患者はこの女性達だ。ある男から性的暴行を受け、長期間薬物も摂取させられていた。傷は回復させたが、精神が壊れてしまっている」
「そうか…」
「このあと、同様の女性を三人連れてくる。代金はこれで頼む」
ディアナがマジックポーチから硬貨を取り出し、医師の机の上に置く。
「分かりました。二人の女性は、そこのベッドに寝かせてください」
医師の男性の指示に従い女性をベッドに寝かせると、診療所を後にする。
見張りの騎士の制止の声も無視し、石壁を飛び越え、再度男爵の屋敷に向かう。
まだ女性達の存在はバレていなかったようで、同じ流れで診療所に女性を運んだ。
再三制止を促す見張りの騎士を無視し、屋敷に到着すると、残る一人の女性の前に騎士が立っていた。
「どけ」
騎士の肩を押し退け、女性の身柄をディアナに預ける。
「先に行ってろ。すぐに追いつく」
「あぁ」
窓から飛び降りるディアナの姿を見届け、目の前にいる二人の騎士に向き直る。
「お前達は一体何ーーー」
ガシャン!
フルプレート・アーマーを装備する騎士の一人が突然気を失い、その場に倒れた。
事の原因は、俺が騎士に向けて【威圧】を発動したからだ。
【威圧】は対象とステータスに大きな差があれば、気絶させることができる。
突然仲間の一人が気を失い倒れたことで、動揺するもう一人の騎士の隙をついて、窓から脱出した。
診療所でディアナと合流すると、女性達と後のことは医師の男性に任せて、俺達は宿屋に戻ってきた。
「はぁ〜今日はまだ眠りたいないし、狩場に行くのは午後か、明日にするか」
「そうだな」
少し浮かない表情をしているディアナをお風呂に入らせ、そのあと俺も風呂に入り、身体を清潔にする。
「…あ、アレン。その…騎士達は殺したのか?」
なるほど。
先程俺が言った言葉に、まだディアナ自身が葛藤しているようだ。
「残念だが、一人も殺せていない」
「そ、そうか…って、何故殺せていないことに残念がるんだ!」
「奴等も運がいいな。…だが、この先はどうだろうな?」
「この先?」
「俺もディアナも騎士に顔を見られているんだ。間違いなく男爵を殺した容疑者として、騎士達が捕まえに来るぞ。そうなったら殺すしかない」
「…確かにそうだな」
「まぁ今は眠いし頭が働かないから、考えるのは起きた後にしよう。ディアナ、ベッドに行くぞ」
「ち、ちょっと待て! この状況で私を抱くのか?」
「当たり前だろ。昨夜はお預けをくらったし、お前自身が被害者の女性達を救う代わりに、いつでも抱いていいと言ったんだろうが」
「確かにそう言ったが…」
「お前に拒否権はない」
「くっ…見境のない獣が」
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